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4、ゆうちゃん
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クロエとリルは人間界に移り住む事になった。
人の世には金がいる。
クロエはリルとの生活を支える為に稼ぐ。
自分達の様な異形と取引する人間もいる。
悪魔にその身を捧げる人間も数多くいる。
クロエはそういう者達から上前を撥ねる。
クロエは自分が出かけなければならない時、よくリルを公園に待たせている。
リルは公園で一人噴水の縁に座って唄っていた。
その唄声に惹かれてよくやってくる黒猫がいて、その猫の為に唄ってやった。
今日もその猫に唄ってやっていたら、少年がリルに話しかけて来た。
「猫に唄ってるなんて変なのっ!」
リルはキョトンと少年を見る。
「だぁれ?」
猫がにゃぁにゃぁとリルに向かって鳴く。
「だいじょうぶだよぉ、オタマさん」
リルは猫に向かってにこりと笑った。
「お前猫としゃべってんの⁈変なのっ!」
「オタマさんがね、にんげんはこわいのもいるからきをつけなさいって。こわいことなんて、しないよね?」
朗らかに柔らかく、リルは少年に問いかける。
「…っ!」
その無防備な笑顔に子供ながらドギマギとしてしまう。
「…しないよ!…その代わり、さっき唄ってた唄、唄え!」
少年は俯き、何故だか小声でリルに唄を乞う。
「さっきのうた?」
リルはやはりキョトンと答えた。
「そうだよ、さっきの唄だよ」
「もうわかんない」
「はぁ⁈今さっき唄ってただろ⁈」
「ん~…べつのでもいい?」
「もう何でもいいよ!」
「じゃあ、うたうね」
スゥッとリルが息を継ぐ。
…
『小さな子よ、どうか泣かないで。
愛おしい彼女の思い出を
どうか忘れないで。
優しく撫でてくれた手も、
ずっとあなたと共にあるから
お願い 約束して 涙を拭って 前を見ると
生きる事はこんなに悲しいとあなたは叫んだ。
けれど暗闇の向こうであなたを支えたのはこんなに暖かい想い出だった
どうか憶えていて
あの人の眼差しを いつも優しく見つめてくれたあの眼差しを
私が涙を流す時、あの人は私の声を聞いてるかしら?
嵐に遭って、苦難が降り注ぐ時、あの人は私を抱きしめてくれるかしら?
お願い 約束して 涙を拭って 前を向くと
どんな風もあなたを押し戻す事は出来ないから
あの人は遠くへ行ってしまったけど
だけど私はお別れ出来ない
いつかあの人にありがとうとさよならを
餞に、笑って言える日が来ると
お願い どうか約束して』
…
少年はボロボロと涙を流した。
そして唄が終わった瞬間にリルに抱きついた。
リルは少年の頭を撫ぜる。
「いいコだねぇ。ヨシヨシ」
少年が泣き止むまでひたすら撫でてやった。
少年は数ヶ月前に母親を亡くしたばかりだった。
彼はずっと泣く事も出来ずにその事実を上手く消化できないまま、今日までやって来た。
リルに感応されて、初めて自身の心の内を整理出来た。
「リル」
クロエが遠くから笑いかけながら声をかける。『仕事』から戻った様だ。
歩み寄るクロエは少年を見つけ訊ねた。
「何?それ」
「あのね、さっきおともだちになったの。…え~っと…、」
リルは少年の方に向き直る。
「おなまえ、なんていうの?あ!あのね、リルはね、リルっていうのぉ」
少年の頭を撫ぜながらリルは少年に問いかけた。
少年は涙を袖口で拭いながら、バツ悪そうな顔で告げる。
「…久世祐太郎。でもリルは、特別に『ゆうちゃん』って呼んでいいぞ」
「うん!わかったよ、ゆうちゃん!」
これが、人間の少年、ゆうちゃんとリルの出逢いだった。
人の世には金がいる。
クロエはリルとの生活を支える為に稼ぐ。
自分達の様な異形と取引する人間もいる。
悪魔にその身を捧げる人間も数多くいる。
クロエはそういう者達から上前を撥ねる。
クロエは自分が出かけなければならない時、よくリルを公園に待たせている。
リルは公園で一人噴水の縁に座って唄っていた。
その唄声に惹かれてよくやってくる黒猫がいて、その猫の為に唄ってやった。
今日もその猫に唄ってやっていたら、少年がリルに話しかけて来た。
「猫に唄ってるなんて変なのっ!」
リルはキョトンと少年を見る。
「だぁれ?」
猫がにゃぁにゃぁとリルに向かって鳴く。
「だいじょうぶだよぉ、オタマさん」
リルは猫に向かってにこりと笑った。
「お前猫としゃべってんの⁈変なのっ!」
「オタマさんがね、にんげんはこわいのもいるからきをつけなさいって。こわいことなんて、しないよね?」
朗らかに柔らかく、リルは少年に問いかける。
「…っ!」
その無防備な笑顔に子供ながらドギマギとしてしまう。
「…しないよ!…その代わり、さっき唄ってた唄、唄え!」
少年は俯き、何故だか小声でリルに唄を乞う。
「さっきのうた?」
リルはやはりキョトンと答えた。
「そうだよ、さっきの唄だよ」
「もうわかんない」
「はぁ⁈今さっき唄ってただろ⁈」
「ん~…べつのでもいい?」
「もう何でもいいよ!」
「じゃあ、うたうね」
スゥッとリルが息を継ぐ。
…
『小さな子よ、どうか泣かないで。
愛おしい彼女の思い出を
どうか忘れないで。
優しく撫でてくれた手も、
ずっとあなたと共にあるから
お願い 約束して 涙を拭って 前を見ると
生きる事はこんなに悲しいとあなたは叫んだ。
けれど暗闇の向こうであなたを支えたのはこんなに暖かい想い出だった
どうか憶えていて
あの人の眼差しを いつも優しく見つめてくれたあの眼差しを
私が涙を流す時、あの人は私の声を聞いてるかしら?
嵐に遭って、苦難が降り注ぐ時、あの人は私を抱きしめてくれるかしら?
お願い 約束して 涙を拭って 前を向くと
どんな風もあなたを押し戻す事は出来ないから
あの人は遠くへ行ってしまったけど
だけど私はお別れ出来ない
いつかあの人にありがとうとさよならを
餞に、笑って言える日が来ると
お願い どうか約束して』
…
少年はボロボロと涙を流した。
そして唄が終わった瞬間にリルに抱きついた。
リルは少年の頭を撫ぜる。
「いいコだねぇ。ヨシヨシ」
少年が泣き止むまでひたすら撫でてやった。
少年は数ヶ月前に母親を亡くしたばかりだった。
彼はずっと泣く事も出来ずにその事実を上手く消化できないまま、今日までやって来た。
リルに感応されて、初めて自身の心の内を整理出来た。
「リル」
クロエが遠くから笑いかけながら声をかける。『仕事』から戻った様だ。
歩み寄るクロエは少年を見つけ訊ねた。
「何?それ」
「あのね、さっきおともだちになったの。…え~っと…、」
リルは少年の方に向き直る。
「おなまえ、なんていうの?あ!あのね、リルはね、リルっていうのぉ」
少年の頭を撫ぜながらリルは少年に問いかけた。
少年は涙を袖口で拭いながら、バツ悪そうな顔で告げる。
「…久世祐太郎。でもリルは、特別に『ゆうちゃん』って呼んでいいぞ」
「うん!わかったよ、ゆうちゃん!」
これが、人間の少年、ゆうちゃんとリルの出逢いだった。
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