40 / 200
40
しおりを挟む
夜になり、燎火が焚かれる。
輿が飾られて、その周りで仮面を付けた者達が踊る。
賑やかに笑い合う声と流れるマンドリンの音色を聞きながら、
その光景を姫と2人眺めていた。
「こんなに賑やかなお祭りを見たのは初めてです!」
ずっと興奮しっぱなしの姫は疲れた様子も見せず、愉しげに笑う。
「マグダラスにも祭りはあったのだろう?」
「はい! ありましたけど、収穫祭が一番大きなお祭りでした。後は祭典に近いので、厳かでしたね」
「では年に一度か?」
「そうです。収穫祭の時くらいしか贅沢出来ないから楽しみだったんですよ。私がお祭り好きなのはそのせいもあるのかもしれませんね」
灯に赤く照らされた顔が更に笑う。
「あ! あまり国の内情を言ってはいけないのでした。……でも、アナバス様にならいいですよね」
「ああ。マグダラスの収穫祭はどんなものなんだ?」
姫は懐かしむ色を滲ませながら話し出す。
「もっと地味なお祭りでしたよ。案山子を飾り立てて、収穫に感謝します。街の女の人達が作るカボチャやさつまいものおやつを子供達が凄く楽しみにしているんです。大人達はその年に出来たワインをたくさん飲みます。夜まで続いて、1日で終わりですよ」
「そうか……。姫は街によく降りたのか?」
街に詳しそうなのでもしやと思い訊ねる。
「はい! 私は王位継承権は放棄して街で暮らすつもりだったので、子供の頃から街に出入りしてました」
「……放棄するつもりだったとは?」
姫は困り顔で答えた。
「マグダラス王家は貧乏なので、王族をたくさん養ってる余裕は無いのです。弟が王位継承したら平民になって街で暮らそうと思っていたんです」
姫の覚悟を思う。
姫は昔からきっと民と共にあるのだ。
自身が王族であることの自覚を持ち、自身の果たすべき責務を知っている。
グリムヒルトは、大変な宝をマグダラスから奪ってしまった。
恐らくこの宝を失う時、大きな苦痛を与えた事だろう。
そしてこの国でどの様な扱いを受けようとも、この王女はきっとマグダラスには帰らない。
国を想い、民を想えば、火種になりかねない自分を国に置く事はよしとしないだろう。
レイティア・エレオノーラ・アルテーンはそういう人間だ。
姫に向き合う。
仮面越しにもキョトンとした様子がわかる。
儂は、姫の両肩を掴み、額にキスを落とす。
この娘の健気さと強さは何処から来るのだろうか?
そこが愛おしくて堪らない。
燎火の灯りが姫の顔を赤く照らしているので顔色はわからない。
しかし見開かれて潤んだ瞳で儂を見つめている。
「あ……あの……ア、アナバス様⁉︎」
慌てる姫の髪を撫でる。
「さて、そろそろ帰らねばな」
「……は……はい……」
姫は俯く。
きっと照れているのだろう。
「行くぞ」
そう告げて、姫の手を引き歩み出す。
「……アナバス様?」
「なんだ?」
儂は振り返らずに答える。
「……今日は連れてきてくれて、ありがとうございます。
とてもとても楽しかったです……」
「ああ。俺もだ」
振り返らず、歩みを止めずに答える。
何故か今は姫の顔を見る事が照れ臭くなった。
燎火から離れると、浮かんだ月が2人を照らしていた。
輿が飾られて、その周りで仮面を付けた者達が踊る。
賑やかに笑い合う声と流れるマンドリンの音色を聞きながら、
その光景を姫と2人眺めていた。
「こんなに賑やかなお祭りを見たのは初めてです!」
ずっと興奮しっぱなしの姫は疲れた様子も見せず、愉しげに笑う。
「マグダラスにも祭りはあったのだろう?」
「はい! ありましたけど、収穫祭が一番大きなお祭りでした。後は祭典に近いので、厳かでしたね」
「では年に一度か?」
「そうです。収穫祭の時くらいしか贅沢出来ないから楽しみだったんですよ。私がお祭り好きなのはそのせいもあるのかもしれませんね」
灯に赤く照らされた顔が更に笑う。
「あ! あまり国の内情を言ってはいけないのでした。……でも、アナバス様にならいいですよね」
「ああ。マグダラスの収穫祭はどんなものなんだ?」
姫は懐かしむ色を滲ませながら話し出す。
「もっと地味なお祭りでしたよ。案山子を飾り立てて、収穫に感謝します。街の女の人達が作るカボチャやさつまいものおやつを子供達が凄く楽しみにしているんです。大人達はその年に出来たワインをたくさん飲みます。夜まで続いて、1日で終わりですよ」
「そうか……。姫は街によく降りたのか?」
街に詳しそうなのでもしやと思い訊ねる。
「はい! 私は王位継承権は放棄して街で暮らすつもりだったので、子供の頃から街に出入りしてました」
「……放棄するつもりだったとは?」
姫は困り顔で答えた。
「マグダラス王家は貧乏なので、王族をたくさん養ってる余裕は無いのです。弟が王位継承したら平民になって街で暮らそうと思っていたんです」
姫の覚悟を思う。
姫は昔からきっと民と共にあるのだ。
自身が王族であることの自覚を持ち、自身の果たすべき責務を知っている。
グリムヒルトは、大変な宝をマグダラスから奪ってしまった。
恐らくこの宝を失う時、大きな苦痛を与えた事だろう。
そしてこの国でどの様な扱いを受けようとも、この王女はきっとマグダラスには帰らない。
国を想い、民を想えば、火種になりかねない自分を国に置く事はよしとしないだろう。
レイティア・エレオノーラ・アルテーンはそういう人間だ。
姫に向き合う。
仮面越しにもキョトンとした様子がわかる。
儂は、姫の両肩を掴み、額にキスを落とす。
この娘の健気さと強さは何処から来るのだろうか?
そこが愛おしくて堪らない。
燎火の灯りが姫の顔を赤く照らしているので顔色はわからない。
しかし見開かれて潤んだ瞳で儂を見つめている。
「あ……あの……ア、アナバス様⁉︎」
慌てる姫の髪を撫でる。
「さて、そろそろ帰らねばな」
「……は……はい……」
姫は俯く。
きっと照れているのだろう。
「行くぞ」
そう告げて、姫の手を引き歩み出す。
「……アナバス様?」
「なんだ?」
儂は振り返らずに答える。
「……今日は連れてきてくれて、ありがとうございます。
とてもとても楽しかったです……」
「ああ。俺もだ」
振り返らず、歩みを止めずに答える。
何故か今は姫の顔を見る事が照れ臭くなった。
燎火から離れると、浮かんだ月が2人を照らしていた。
10
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
イケメンとテンネン
流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる