人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 マルッティネン様と欄干を背に揉み合う。
 明らかに殺意を持って人に向かって来られるのは初めてで、魔法を展開する暇もなかった。
 水魔法でも展開してぶっかけたら……なんて考えていたら、
 バルコニーの扉から陛下が現れた。
 その手には剣が携えてあった。
 そのお姿を見て、


 あ、これはダメだ。


 瞬時にそう思った私はなんとかマルッティネン様を払い除けて、陛下の方へ走る。
 陛下はマルッティネン様に向かって剣を振り上げている。

「陛下! 落ち着いて下さい!」
 私は陛下の懐へ飛び込んで縋り付く。

「離せ。これは切る」
 陛下は底冷えする様な冷たく静かな声で言い放つ。

「私は大丈夫ですから! この通り無事ですから! 落ち着いて下さい!」

「離せ」
 より冷たい響きで言い放つ。
 陛下は怒りがおさまらない様子で、振り上げた剣先を下ろそうとはしない。

「陛下! 申し訳ありません!」
 そう言うと陛下の力が少し緩んだのを感じた。

 私は陛下の懐から離れて叩頭する。
「私が後宮を騒がせてしまいました。どうかお許しください」

 マルッティネン様は怯えた様子で欄干を背にへたり込んでいる。

 陛下の剣の切っ先が静かに下されたのがわかった。
「姫。何故この様な奴を庇う?お前は殺されかけたのだぞ?」

 私は思うままを言う。
「マルッティネン様は明らかにご不調をきたしておられます。吟味の必要があるかと思います」

 マルッティネン様は今も何かブツブツ囁いている。
 明らかに異常だ。

「誰かにこの様な状態にされたのなら、マルッティネン様は被害者です。どうか吟味をして下さい。後宮を騒がせてしまった件に関しては私がその責を負います」

 陛下の動く気配がする。
 膝をついて私に声をかける。
「……姫よ。本当にその責を負うか?」

 私はより深く叩頭して、告げる。
「はい」
「ならば儂と一緒に来い」
 陛下は私の腕を掴み引き上げた。

 駆けつけた衛兵に命じる。
「第一妾妃を牢に拘束しておけ」
 そして持っていた剣を衛兵に渡した。

 陛下は私の手を引いて歩き出す。
 何も言わずに歩いていく。
「……あの、陛下?」

 やっぱり無言で陛下は歩き、やがて王妃の間に辿り着いた。

 部屋に入り、侍女達を下がらせた。
 そして私をぎゅっと抱きしめた。

「……お前を失うかと思った……」
 囁く様に陛下は言った。

 私は陛下の背中に腕をそっと回した。
「……大丈夫ですよ。私は無事です。……ご心配おかけしてしまいました……」

「……今更お前を失うなど絶対に許さない……」
「大丈夫です。どこにも行きませんから」
 陛下はしばらくただぎゅっと私を抱きしめた。
 私も黙ってそれを受け入れていた。

 しばらくして陛下が静かに喋り出す。
「……お前は、責を負うと言ったな」
「……はい」
「ならばしばしの謹慎を申し渡す」
「……はい」

 犯人探しが出来ないのは残念だけど仕方がない。
 陛下に心配をかけてしまったし、後宮を騒がせてしまったし、謹慎していよう。
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