44 / 200
44
しおりを挟む
謹慎を申し渡された私は退屈なので、侍女達とお喋りする。
「姫様の結婚式のドレスはもう製作に入っているとの事ですよ」
マリがまるで自分の事の様に嬉しげに言う。
「そうなんですか。きっと縫い子さん達大変でしょうね。ウェディングドレスなんて凄く手間がかかりそうですから」
その苦労を思うと申し訳ないやらありがたいやら。
「だからこそやり甲斐もあるのではないですか? きっと素敵なドレスが仕上がりますよ」
ヨアンナもまるで自分のドレスが仕上がるみたいな顔で言った。
「皆んなの方が私より楽しみにしてるみたいですね」
私は笑いながら言う。
「姫様の関心が薄い分、私達が関心を持たなきゃドレスが可哀想ですよ」
イーリスが言う。
「だって仕方ないでしょう?私は貧しい国の王女だったんだから、ドレスなんかに興味があったらやっていけなかったんですよ」
「せめて姫様も他の妾妃の方々くらい、ご自分を着飾る事に興味を持って頂けたら、我々も仕事のしがいがありますのに」
ヨアンナが口元に手を当てて笑う。
「他の妾妃様方と言えば、近頃、プレゼントの交換をなさっているらしいですよ」
マリが言う。
「へぇ。皆様どんな物をやり取りしてるのかしらね?」
私が訊ねる。
「香油や紅やパウダーや香水などの化粧品類だと聞きましたよ」
ヨアンナが言い添える。
「私は宝石類だと聞きましたが」
仲の良いのは良い事だ。
「そうなんですね。それってそんなに最近なんですか?」
「確かひと月程前からだったと思いますよ」
マリが答えた。
「姫様?そろそろおやつの時間ではないですか?準備させて頂きますよ」
イーリスが柔かに言う。
「あら、もうそんな時間なのですね。
せっかくだから用意して皆んなで頂きましょう」
ヨアンナが笑う。
「しかし一体どこの世界に侍女達におやつを御相伴される御正妃様がいらっしゃるんだか」
「ここにいますよ。だって一人で食べたって仕方ないでしょう?」
「そういう所が姫様の変わってらっしゃる所ですね」
マリが笑って言う。
「そういえば姫様は私達には敬語で、衛兵達には砕けた喋り方をなさいますね。なんだかちぐはぐですね」
イーリスも笑う。
「これは、せめて城の中では王女らしくって言われて育って、癖になっているのですよ。一歩外に出るとついタガが外れてしまうんです」
衛兵達は畏まって喋ると距離が出る。軍人さんだから目上にはちゃんとしなきゃっていうのが働くのだと思う。なので敢えて砕けた喋り方をしてたりする。
お茶の準備が終わって椅子に促される。
アフターヌーンのセットが置かれて侍女達と一緒に座って頂く。
「……マルッティネン様は大丈夫かしら……」
ふと思い出して呟く。
「姫様は本当にお人好しですね! 落とされかけたのでしょう?」
マリは憤っている様子で言った。
「でも、本当に正気を失っておられた様子だったんですよ」
私は困ってそう言うと、
「そんなもの姫様には関係ありません!」
「そうですよ。姫様の身に何かあったらと思うと、それだけでゾッとします」
皆んなの顔を見ながら言う。
「ありがとうございます。でもこうして無事だったし、大丈夫ですよ」
皆んなに心配かけてしまったみたいだ。
「お話は変わりますけど、姫様も少しはお化粧などなさってはいかがですか?」
イーリスが言う。
「私はいいですよ。落ちてしまうんじゃないかと気が気じゃないんですよ。この間のお披露目の時も不安で不安で」
私は困りながら否定する。
「落ちましたら、私達がお直し致しますよ?」
マリが任せてくれと言わんばかりに言う。
「ほら、でも私みたいにお淑やかじゃない人間がお化粧なんてしたって……ねえ?
それに今更と言うか何というか……」
「プストの時も結局簡素にしていらしたし」
ヨアンナが残念そうに言う。
「そう言えばプストっていつまでやってるんでしたっけ?」
これは話を逸らさねばと、話題を変える。
「明日までですよ」
「そうですか。また行きたいです。皆んなは行ったのですか?」
「私は行きましたよ!やはりプストはワクワクしますね」
マリが思い出す様に言った。
「ヨアンナは?」
「私はまだ行っておりません。明日にでも行こうと思います」
「いいですね! 最終日は一番盛り上がるのでしょう? イーリスは?」
「私は初日に行かせて頂きましたよ」
「ああ、私達が行った日ですね」
「シャイリンバイの花が綺麗だったんですよね」
「私が見たのはヒメユズリの花でしたよ」
イーリスが笑って言う。
「へぇ…。ヒメユズリはどういう意味があるのでしょう?」
「愛と忠誠ですよ」
マリがうっとりと言う。
「プストでヒメユズリを送り合うと永遠に結ばれるとか」
「素敵ですね」
「陛下は姫様に送って差し上げなかったのですか?」
「え⁉︎」
急に話を振られてびっくりした。
「だって、ヒメユズリの花に出くわさなかったし…。それに陛下はそういう事はあまり得意な方じゃないと思うんです」
それに、もっと素敵な言葉を頂いた。
……おでこにキスされた事もついでに思い出す。
思い出すと恥ずかしくなって顔が赤くなってしまう。
「あら? 姫様のお顔が真っ赤」
ヨアンナが口元に手を当てて揶揄う。
「何を思い出されたのですか?」
イーリスまで同じ様に口元に手を当てて揶揄う。
「本当に陛下は姫様を溺愛なさっておられますね」
マリが何故か嬉しげに言う。
このまま、私はしばらく揶揄われて、なかなか頬の熱が引かなかった。
「姫様の結婚式のドレスはもう製作に入っているとの事ですよ」
マリがまるで自分の事の様に嬉しげに言う。
「そうなんですか。きっと縫い子さん達大変でしょうね。ウェディングドレスなんて凄く手間がかかりそうですから」
その苦労を思うと申し訳ないやらありがたいやら。
「だからこそやり甲斐もあるのではないですか? きっと素敵なドレスが仕上がりますよ」
ヨアンナもまるで自分のドレスが仕上がるみたいな顔で言った。
「皆んなの方が私より楽しみにしてるみたいですね」
私は笑いながら言う。
「姫様の関心が薄い分、私達が関心を持たなきゃドレスが可哀想ですよ」
イーリスが言う。
「だって仕方ないでしょう?私は貧しい国の王女だったんだから、ドレスなんかに興味があったらやっていけなかったんですよ」
「せめて姫様も他の妾妃の方々くらい、ご自分を着飾る事に興味を持って頂けたら、我々も仕事のしがいがありますのに」
ヨアンナが口元に手を当てて笑う。
「他の妾妃様方と言えば、近頃、プレゼントの交換をなさっているらしいですよ」
マリが言う。
「へぇ。皆様どんな物をやり取りしてるのかしらね?」
私が訊ねる。
「香油や紅やパウダーや香水などの化粧品類だと聞きましたよ」
ヨアンナが言い添える。
「私は宝石類だと聞きましたが」
仲の良いのは良い事だ。
「そうなんですね。それってそんなに最近なんですか?」
「確かひと月程前からだったと思いますよ」
マリが答えた。
「姫様?そろそろおやつの時間ではないですか?準備させて頂きますよ」
イーリスが柔かに言う。
「あら、もうそんな時間なのですね。
せっかくだから用意して皆んなで頂きましょう」
ヨアンナが笑う。
「しかし一体どこの世界に侍女達におやつを御相伴される御正妃様がいらっしゃるんだか」
「ここにいますよ。だって一人で食べたって仕方ないでしょう?」
「そういう所が姫様の変わってらっしゃる所ですね」
マリが笑って言う。
「そういえば姫様は私達には敬語で、衛兵達には砕けた喋り方をなさいますね。なんだかちぐはぐですね」
イーリスも笑う。
「これは、せめて城の中では王女らしくって言われて育って、癖になっているのですよ。一歩外に出るとついタガが外れてしまうんです」
衛兵達は畏まって喋ると距離が出る。軍人さんだから目上にはちゃんとしなきゃっていうのが働くのだと思う。なので敢えて砕けた喋り方をしてたりする。
お茶の準備が終わって椅子に促される。
アフターヌーンのセットが置かれて侍女達と一緒に座って頂く。
「……マルッティネン様は大丈夫かしら……」
ふと思い出して呟く。
「姫様は本当にお人好しですね! 落とされかけたのでしょう?」
マリは憤っている様子で言った。
「でも、本当に正気を失っておられた様子だったんですよ」
私は困ってそう言うと、
「そんなもの姫様には関係ありません!」
「そうですよ。姫様の身に何かあったらと思うと、それだけでゾッとします」
皆んなの顔を見ながら言う。
「ありがとうございます。でもこうして無事だったし、大丈夫ですよ」
皆んなに心配かけてしまったみたいだ。
「お話は変わりますけど、姫様も少しはお化粧などなさってはいかがですか?」
イーリスが言う。
「私はいいですよ。落ちてしまうんじゃないかと気が気じゃないんですよ。この間のお披露目の時も不安で不安で」
私は困りながら否定する。
「落ちましたら、私達がお直し致しますよ?」
マリが任せてくれと言わんばかりに言う。
「ほら、でも私みたいにお淑やかじゃない人間がお化粧なんてしたって……ねえ?
それに今更と言うか何というか……」
「プストの時も結局簡素にしていらしたし」
ヨアンナが残念そうに言う。
「そう言えばプストっていつまでやってるんでしたっけ?」
これは話を逸らさねばと、話題を変える。
「明日までですよ」
「そうですか。また行きたいです。皆んなは行ったのですか?」
「私は行きましたよ!やはりプストはワクワクしますね」
マリが思い出す様に言った。
「ヨアンナは?」
「私はまだ行っておりません。明日にでも行こうと思います」
「いいですね! 最終日は一番盛り上がるのでしょう? イーリスは?」
「私は初日に行かせて頂きましたよ」
「ああ、私達が行った日ですね」
「シャイリンバイの花が綺麗だったんですよね」
「私が見たのはヒメユズリの花でしたよ」
イーリスが笑って言う。
「へぇ…。ヒメユズリはどういう意味があるのでしょう?」
「愛と忠誠ですよ」
マリがうっとりと言う。
「プストでヒメユズリを送り合うと永遠に結ばれるとか」
「素敵ですね」
「陛下は姫様に送って差し上げなかったのですか?」
「え⁉︎」
急に話を振られてびっくりした。
「だって、ヒメユズリの花に出くわさなかったし…。それに陛下はそういう事はあまり得意な方じゃないと思うんです」
それに、もっと素敵な言葉を頂いた。
……おでこにキスされた事もついでに思い出す。
思い出すと恥ずかしくなって顔が赤くなってしまう。
「あら? 姫様のお顔が真っ赤」
ヨアンナが口元に手を当てて揶揄う。
「何を思い出されたのですか?」
イーリスまで同じ様に口元に手を当てて揶揄う。
「本当に陛下は姫様を溺愛なさっておられますね」
マリが何故か嬉しげに言う。
このまま、私はしばらく揶揄われて、なかなか頬の熱が引かなかった。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる