人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
60 / 200

60

しおりを挟む
 その夜、陛下はいつもよりもより一層、ギュッと私を抱いて眠った。
 いつもよりずっと口数少なかったけれど、何故かいつもよりもずっと近しく感じる。
 私も同じ痛みを背負う覚悟をした事が、陛下にとって少しでも救いになるなら、私も玉座の血に加担したって怖くない。
 自らの手で人を死の淵に追いやるこの気持ちはどう表現すればいいだろう……。
 恐怖にも似た、この気持ち。まとわりつく不吉に自分が絡め取られそうになる。忌み事全部が自分の身に纏う感じ。
 もし、陛下がこういうものを一人背負っているのなら、それはどれだけ苦しいだろう……。
 私は陛下の背中をそっと撫ぜる。
 それに反応して更に陛下が私をギュッと抱きしめる。
「……アナバス様」
「……なんだ」
「……名を呼んでみたくなっただけです……」
「……そうか」

 そうやって、私達はその夜、狭いベッドで二人眠った。

 次の日の朝、目が覚めると陛下はまだ眠っていて、起こさない様にそっと髪を撫ぜた。
 微睡んでいるこの時陛下を見つめるのはとても幸福な時間だ。
 でもそろそろ起きなきゃ。
 多分陛下の仕事は朝早いものじゃないから、私だけ起きればいい。
 そっとベッドを抜け出す。
 陛下に背を向けて、お仕着せに着替える。
 髪を整えて、後ろの高い位置で縛る。
 後は井戸で顔を洗って、お仕事開始だ。
 陛下の耳元のそっと囁く。
「行ってきます」
 そうするとグッと抱き寄せられた。
「アナバス様……起きてらしたのですか⁉︎」
「今目が覚めた。行くのか?」
 ベッドに突っ伏す様な形で抱かれてる私はオタオタしてしまう。
「は、はい。もうすぐ始業ですから」
「そうか」
 と言って、私の頬にキスをした。
「あ、あ、あの、アナバス様⁉︎ 今の……」
「もうじき夫婦になるのだ。これぐらいは慣れてもらわんとな。さぁ、遅れるぞ。行ってこい」
「は、はい! 行ってきます!」

 無駄に元気に返事して、私は部屋を出て、井戸に向かう。しっかり顔を洗って紅潮した頬を冷やす。
 そして多分まだ紅潮してる頬を叩いて顔の緩みに喝を入れる。
 一番乗りで侍女の控室に着いて、先輩方が来るのを待つ。
 先輩達の名はアンナさん、イエンニさん、ラウラさん。
 アンナさんは仕事を指示してくれた、昨日の女性。この人が侍女長みたいなものだ。
 イエンニさんは痩せ型で二藍の髪色が印象的な30過ぎの女性で、テキパキとしたしっかり者。
 ラウラは普通体型だけど少し背の低い、木蘭色の髪色のおっとりした性格の25位の女性だった。
 ラウラが扉を開けて入ってくる。
「あらおはよう。早いのね!」
「おはようございます、ラウラさん」
「ねぇ、聞きたい事があるんだけど…」
「なんですか?」
「あんないい男どうやって捕まえたのよ~!」
「え⁇」
「いいわよね~! 凄く男前で、しかも用心棒が出来るくらい腕も立つんでしょ? ちょっととっつきにくそうだけど、申し分ないじゃない!」
「え~っと……それは……」
 扉がまた開いた。イエンニさんだ。
「イエンニさん。おはようございます」
「おはよう! 何⁇    楽しそうな話してるわね! 私も混ぜて!」
「いや、ティアの旦那さんの事話してたのよ」
「本当いい男よね~! ね、どうやって知り合ったのよ⁉︎」
「えっと……」
「ほらほら!お喋りしてないで早速仕事だよ!」
 アンナさんが入って来て、手を叩いて退散させる。内心助かったと思って、アンナさんの指示に従って、洗濯を始める。イエンニさんは買い出し、ラウラさんは掃除を指示された。
 今日もこうして一日中働いて、クタクタになった。
 そして終業の時、明日の予定を聞く。
 アンナさんから指示が飛ぶ。
「明日は夜に晩餐をなさる様だから、忙しくなるよ? 夜遅くになるからそのつもりでいなさいね」
「「「はい」」」
 皆で返事する。
 そして私は陛下の待つ、自室に向かった。
 自室に入ると陛下は剣の手入れをしていた。
「戻ったか」
「ただいま帰りました。お待たせしてすみません」
「働いていたのだから仕方ないだろう」
 私はその言葉に微笑む。
 ふと、明日に思い巡らせた。
「……いよいよ、明日ですね」
「そう気負う事はない」
「はい。今日は疲れてしまいましたので、早々に寝ようと思います」

 そして、夜は更けて次の日を告げる朝日が登った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

イケメンとテンネン

流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...