人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 1日目の日中と同じ様に侍女の日課をこなした。
 そして夕方から晩餐の準備が始まる。
 主催は鉱山責任者、ヨウシア・ヘンリク・ヤルヴァ。
 賓客はお目付け役のトミ・サンテリ・ハユリュネン、
 坑夫長のアルシ・シュルヴェステル・ハハリ、
 宝石商のエーリク・タウノ・サーレンパー。
 この3名が館にやってきた。
 皆大広間に集まって会食を始める。
 私は給仕の補佐に立っている。
 彼らの事は書類上の名前で知っているけれど、こうして目にするのは初めてだ。
「いやぁ、皆様今回もお集まり頂きありがとう存じます」
 小太りで中背の目の小さな男性ヤルヴァが声をかける。
「いやいや、当方こそこれだけ儲けさせて頂ける所は他にありませんからな、これからもご贔屓に願います」
 長身の痩せた面長の男性、宝石商のサーレンパーが答える。
「今回の産出量はなかなか良かったので、儲けも期待できますよ」
 ガッチリした体躯のゴツい作りの顔立ちをした男性、坑夫長のハハリが笑いながら更に付け加える。
「しかし、太公様が亡くなって、陛下にこの鉱山が渡ればどうなるか肝を冷やしましたが、受け継ぐのが次期御正妃様で本当に良かったですね。聞く所によるとまだ年端も行かぬ小娘とか」
 中背で細身の少し整った顔立ちをした男性、ハユリュネンが更に続く。
「近い内視察などが入るでしょうな」
「その時は適当にあしらってやりますよ。所詮は小娘。適当に儲けさせてエメラルドの首飾りでも土産に持たせればご機嫌でお帰りになるでしょう」
 皆で一斉に笑い声を上げる。
 この人達は、こんな風にして太公様の信頼を裏切ったのかと思うと腹立たしくて堪らなかった。
 でも不正についてまだ話していない。
 我慢しなきゃ。
 握り拳を作って耐えた。

「さて、今回は半数ほど別会計でお願いしましょうか」
「それでは今回も儲けは4等分という事で宜しいですかな?」
「分け前はそれで結構です。モノは見せて頂けますか?」
「おい!誰か原石をここに持て!」
 ヤルヴァが大声で命じる。

「モノとはこれの事か?」

 扉がギィと開かれる。
 陛下が右手に小さな麻の袋を摘んで立っていた。

「おお、それだ。さっさとこちらに寄越せ!」
 ヤルヴァが陛下に命じる。

 陛下は薄く笑って、ヤルヴァに言った。
「盗人猛々しいとはよく言ったものだな。半数とは豪胆に横領したものだ。うぬら、なかなか肝が据わっているな、感心したぞ」

「なっ!お前、誰に向かって口を聞いている!」
「うぬの様な下人に口を聞いてやっているのだ、感謝するがいい」
「下人だと…⁉︎ 用心棒風情が生意気な口を聞くな!」

「サーレンパー、うぬは儂と顔を合わせた事があったな」

「何?」
 サーレンパーは目をすがめて陛下をマジマジと見つめている。
「まだわからんか?ではこれではどうだ?」
 陛下は剣の鞘についた紋章を示した。
「っ!!!! 鷹の紋章⁉︎」
「ヘっ……陛下!」
「何⁉︎ 陛下だと⁉︎」
 皆呆然としている。
「さて、うぬらは結託してエメラルドの原石の産出量を誤魔化し、横領した儲けを山分けしていた。これで相違ないな?」
「恐れながら、その様な事実は御座いません!」
「そうです! 我らは決して不正など働いておりません!」
「そう仰るからにはどうぞ証拠をお出しください」
 陛下は加虐心を煽られ笑っている。
「……テーム」
 テームと呼ばれた男性は素早く陛下の横に控える。
「陛下。これを」
 それは帳簿だった。テームは陛下に手渡す。
 陛下はヒラヒラとその帳簿を見せつけた。
「うぬらが付けておった横領の記録だ。うぬら相当気が緩んでおったな。こんな物を押さえられてもここまで気付きもせん。実に間抜けだな」
 陛下は鼻先で笑った。

「さて、どう申し開きする? 鳴いてみせよ」
 陛下は加虐を愉しむ顔で、テームに帳簿を渡す。
 そして腕を組んで4人の言葉を待つ。
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