人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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89、閑話 -面影2-※

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 明け方前に彼を店先で見送って、
 その後はぐったりして部屋に帰ったら何も手付かずで眠ってしまった。
 一人の男と一晩中……なんて初めての経験だった。

 その日は初めてお客をとった日の夢を見た。
 初めてのお客はとても粗野な男で、私が処女である事なんか、構いもしなかった。
 大柄の男で海軍の軍曹だと言っていた。
 男はお酒臭い口を私に押し当てた。
 乱暴に舌が入って私はそれが怖かった。
 その行為の意味もわからず、泣きそうになった。
 ドレスはあっという間に剥ぎ取られて、
 捏ね回される乳房は痛かったし、乱暴に摘まれた乳首はしばらくヒリヒリと痛んだ。
 濡れていない膣に指を入れられてかき混ぜられた。それも痛くて涙が滲んで、
 泣く程感じてるのか?濡れてきたなと卑下た笑いを浮かべて言われた。
 そして挿入されたけど、それもとっても痛かった。
 痛いと泣いて懇願したけど、男は止めてくれなかった。
 娼婦なんだから、気持ち良くなると言われた。
 でも、全然気持ち良くなる事なんか無い間に男との閨は終わった。
 興が醒めたと言われて、香車おかみさんに怒られた。

 目が醒めたら泣いていた。

 昼過ぎに目が醒めて、まずいと思う。
 いつもなら香車おかみさんが起こしに来るのに……。
 水で顔を洗いに庭に出る。
 その途中の1階の回廊で香車おかみさんと会う。
「ごめんなさい、今すぐ用意始めますから」
 謝ると香車おかみさんが頭を掻きながら言った。
「男から聞いてないのかい?あんたは昨日の客に2週間分買われてるんだよ」
 私はビックリして香車おかみさんをまじまじと見る。
「前金で半額貰ってるよ。上客捕まえたじゃないか。あんたみたいな陰気な娘の何処がいいんだろうね」
 私が聞きたいくらいだ。
 何故、私みたいな普通の……いえ、普通より劣る娼婦にそんな大金使えるんだろうか……?

 一応、顔を洗って白粉を叩いて、口紅を塗っておく。
 だけど、その晩は来なかった。

 次に来たのは、3日後。

「……いらっしゃい。今日はどうする?」
「お茶を」
「すぐ淹れるわね」
 私がお茶を淹れる所を、彼はただじっと見つめていた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。君も一緒に」
「え、私は……」
「いいから」
「……はい」
 本来、お茶はお客さんに出すもので娼館では自分には出さない。
「これ、お土産」
「お土産? なぁに?」
「クスリコ飴。知らないだろ?」
「……うん、知らない。どうして知らないって思うの?」
「マグダラスの出身だろうと思ったから」
「どうしてわかったの?」
「……なんとなく」
「……うふふ。変なの。ねぇ食べてもいい?」
「うん、食べて」

 なんとなく、ピンと来た。
 この人は誰かの面影を私に重ねてる。
 こんな優しくて素敵な人なのに、この人は叶わない恋をしてるのね……

 ……だったら、私は頑張って『代わり』でいてあげなきゃ。
 笑っていよう。
 この人が重ねる面影に近づける様に。

「美味しい。とっても柔らかいのね」
 本当に美味しくて思わず顔が綻んでしまう。
「気に入ってもらえてよかった」
 彼は笑ってテーブルに頬杖をついた。
「また買って来たら食べる?」
「また買って来てくれるの?嬉しいわ。ありがとう」
 私は屈託なく笑う。
 そうすると彼は満足そうに笑った。

 今夜も恋人の様に愛し合う。
 彼に貫かれて、感じていると優しく見つめられる。その事にまた感じてしまう。
 私の髪を撫で、瞳は私を捉える。

 ……こんな風に愛されたら、幸せだろう。
 どうしてこの人の『面影の人』は、彼みたいな素敵な人に気がつかないんだろう?
 どうして想ってあげないんだろう……

 二人でベッドで横になる。
 この時も愛おしいものにするみたいに、手の甲で私の頬に触れる。
「聞いていい?」
 彼が私を愛でながら聞いて来た。
「……なぁに?」
「マグダラスでは何をして暮らしてた?」
「……オレンジを作っていたの。といっても小作よ?家族みんなで雇われていたわ」
「そう。家族とは仲が良かった?」
「ええ。……私がこの商売をするって言い出した時、両親は泣きながら反対したわ」
「……家族の為にグリムヒルトに来たの?」
「……そうよ。自分で決めて来たの」
「そう」
 一言そう言うと、私をギュッと抱きしめた。
 そして頭にキスをして言った。
「君のそういう所、大好きだよ」

 じわりと涙が出た。
 なんだかグリムヒルトに来てから今日までの事全部を認めて貰えたみたいな気持ちになった。
 私はポロポロと泣いてしまう。
「あんまりそんな風に泣かないで。俺、泣いてる女の子に興奮しちゃうんだ」

 私の涙を拭いながら彼はそう言って、私にキスした。

 彼はその日もやっぱり何度も私を抱いた。
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