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92、閑話 -喝破1-
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俺達は酒場にいる。外相の行きつけだ。
「いやぁ~~なんか悪いわね、奢ってもらっちゃって。で?これって、賄賂? 贈賄?」
「いや、賄賂なんて渡したって、裏切る時は余裕で裏切るだろ?」
お通しを摘む。葡萄酒を呷らなきゃやってられない。
「うふふふ~~~~ん。ご名答」
外相は肘で俺を突く。
「で? で? あの娘はどうだったの?」
「どうって……あんたどこのおっさんだよ?」
「だって~~。女の口から『一生想い続けていいですか?』なんて言わせるなんてさ?
男冥利に尽きるってもんじゃない? 上手くやってきた証拠よ。
どんなだったか聞く価値あるわ~~。
だって、あの子一生あんたを裏切らないもの」
外相の言葉に耳を傾ける。
「例え役人が押し寄せてきて、あんたの事訊かれようが、あんたにそっくりな子供産んでようが、その子供も殺されようが、あの子はあんたを裏切らない」
俺はその言葉に考え込む。
「あら? 何? 軽く凹んだ? ごめんね~?」
「嘘臭い謝罪はいらないよ。それが本当ならやだなぁ~~と思ってさ」
「なんで?」
「だってだよ? 元愛人の家にまでガサ入れ入る状態なんて俺絶対失脚してるって。
て、事は既に俺には何も残ってない状態だろ?
だったら尚更、俺を売ろうが裏切ろうが何しようが生き残ってもらわないと。
まぁ? そんなヘマする様な男の血なんて遺す必要ないけどさ」
外相は頬杖をついて、深いため息をついた。
「はぁぁぁぁ~~~~!
だ・か・ら‼︎ あんたはわかってないっての! あの娘にとってはねぇ?
あんたが自分を見染めなきゃ、子供持って暮らすなんて選択肢、存在しなかったのよ?
まず、男女の関係以前に人間として感謝するし恩に感じるもんでしょ? あんたとの事でどんな目に遭ったって、それで失ったって、元々あんたに貰ったもんな訳よ。
自分が余計な事言ったせいであんたの1%の可能性を消したら……って考えるもんでしょ。やっぱり」
外相は葡萄酒を呷る。
「なんでそこまで考えるかなぁ~~?……俺、酷い事したのになぁ~~……」
「あら、そんな事もわかんないの? 答えはあんたが『いい男』だったから。それだけよ」
俺は魚の骨を揚げた摘みを手に取る。
「で、で⁈ 酷い事って何⁈ 何したの⁇」
外相は無責任な他人事の様子で聞いてくる。
「えぇ~~? 言うのぉ~~?」
言いたくないので渋ってみる。
「あ、でもね? 大方の予想はついてるのよ?
あれでしょ? ティア様の身代わりにでもしたんでしょ?」
全身から嫌な汗が噴き出す。
俺の顔色は最高潮に悪いだろう。
自身最大の秘密を事もなげに晒された。
「あらやだ。図星みたいね。……あんた結婚したら浮気しない方がいいわよ? 絶対バレるから」
「な、……え⁈ いや……だって……え⁈」
俺はおくびにも出した事など無い筈だ。
自分の理性の全てを使って隠し通してきた筈だ。
何故そんな重大な秘密がこんな簡単に晒されるのか、混乱した。
外相はチーズを摘む。
「大丈夫よ。ちゃんと隠せてるって。ま、なんとな~~く……、そうなのかなぁって思ったのよね。だってあんたティア様に優しい……っていうか、気ぃ使ってるっていうか……ねぇ?
まぁでも、私くらいしか気付いてないわよ。
……アナバス様はどうだか知らないけど?」
俺の嫌な汗は引かない。全然フォローになってない。一番バレちゃまずい所にバレてたらダメだろ。
「……そう……、そうなんだ……」
「ほら、私はずっと国にいないからね。たまに帰ってくると見えるのよ、『変化』が。
例えどんなに小さなものでもね。
外交なんかやってるとそういう『変化』に敏感にもなるし。交渉なんて人見てナンボだしね」
外相はチーズを裂いてそれを喰む。
「でもアナバス様は私が気づかない様な『変化』に気がつく方だからねぇ」
「…もし気付いてたら、今頃俺、命無いと思うんだけど」
俺は呑む気の失せた樽杯をテーブルに置く。
「あら?そんなのわかんないじゃない? 相手はアナバス様よ? 簡単にカード切る訳ないでしょ? 生殺しよ、生殺し。ご愁傷様」
「あんた他人事だと思って気楽なもんだね……。ビビらせんのやめてくんない?」
外相は悪戯っぽく笑う。
「なんてね、冗談よ。あの娘見てなきゃ予測出来なかったもの。なんとなく似てるもんね、ティア様に。顔とかじゃなくて、雰囲気が。
だからアナバス様も確信は出来てないと思う。仮に出来てたとしてもあんたをどうこうする気はないと思うわ」
外相は葡萄酒を呷る。どうやら樽杯が空いた様だ。
「おじさん、葡萄酒をもう一杯ちょうだい」
俺も杯を飲み干す。
「親父さん、俺も」
「だってあんたのティア様に対する態度はティア様への想いを踏まえて客観的に見ても相当評価出来る。主への忠義としては褒められこそすれ、責められる謂れはないわ。
少なくとも私は進言するわよ」
「まぁ、それは自分で選んだ主だし。当然でしょ」
親父が葡萄酒を2杯テーブルに置く。
親父はなんとなく話の内容を察してか、俺達のテーブルからさっさと去っていく。
「いやぁ~~なんか悪いわね、奢ってもらっちゃって。で?これって、賄賂? 贈賄?」
「いや、賄賂なんて渡したって、裏切る時は余裕で裏切るだろ?」
お通しを摘む。葡萄酒を呷らなきゃやってられない。
「うふふふ~~~~ん。ご名答」
外相は肘で俺を突く。
「で? で? あの娘はどうだったの?」
「どうって……あんたどこのおっさんだよ?」
「だって~~。女の口から『一生想い続けていいですか?』なんて言わせるなんてさ?
男冥利に尽きるってもんじゃない? 上手くやってきた証拠よ。
どんなだったか聞く価値あるわ~~。
だって、あの子一生あんたを裏切らないもの」
外相の言葉に耳を傾ける。
「例え役人が押し寄せてきて、あんたの事訊かれようが、あんたにそっくりな子供産んでようが、その子供も殺されようが、あの子はあんたを裏切らない」
俺はその言葉に考え込む。
「あら? 何? 軽く凹んだ? ごめんね~?」
「嘘臭い謝罪はいらないよ。それが本当ならやだなぁ~~と思ってさ」
「なんで?」
「だってだよ? 元愛人の家にまでガサ入れ入る状態なんて俺絶対失脚してるって。
て、事は既に俺には何も残ってない状態だろ?
だったら尚更、俺を売ろうが裏切ろうが何しようが生き残ってもらわないと。
まぁ? そんなヘマする様な男の血なんて遺す必要ないけどさ」
外相は頬杖をついて、深いため息をついた。
「はぁぁぁぁ~~~~!
だ・か・ら‼︎ あんたはわかってないっての! あの娘にとってはねぇ?
あんたが自分を見染めなきゃ、子供持って暮らすなんて選択肢、存在しなかったのよ?
まず、男女の関係以前に人間として感謝するし恩に感じるもんでしょ? あんたとの事でどんな目に遭ったって、それで失ったって、元々あんたに貰ったもんな訳よ。
自分が余計な事言ったせいであんたの1%の可能性を消したら……って考えるもんでしょ。やっぱり」
外相は葡萄酒を呷る。
「なんでそこまで考えるかなぁ~~?……俺、酷い事したのになぁ~~……」
「あら、そんな事もわかんないの? 答えはあんたが『いい男』だったから。それだけよ」
俺は魚の骨を揚げた摘みを手に取る。
「で、で⁈ 酷い事って何⁈ 何したの⁇」
外相は無責任な他人事の様子で聞いてくる。
「えぇ~~? 言うのぉ~~?」
言いたくないので渋ってみる。
「あ、でもね? 大方の予想はついてるのよ?
あれでしょ? ティア様の身代わりにでもしたんでしょ?」
全身から嫌な汗が噴き出す。
俺の顔色は最高潮に悪いだろう。
自身最大の秘密を事もなげに晒された。
「あらやだ。図星みたいね。……あんた結婚したら浮気しない方がいいわよ? 絶対バレるから」
「な、……え⁈ いや……だって……え⁈」
俺はおくびにも出した事など無い筈だ。
自分の理性の全てを使って隠し通してきた筈だ。
何故そんな重大な秘密がこんな簡単に晒されるのか、混乱した。
外相はチーズを摘む。
「大丈夫よ。ちゃんと隠せてるって。ま、なんとな~~く……、そうなのかなぁって思ったのよね。だってあんたティア様に優しい……っていうか、気ぃ使ってるっていうか……ねぇ?
まぁでも、私くらいしか気付いてないわよ。
……アナバス様はどうだか知らないけど?」
俺の嫌な汗は引かない。全然フォローになってない。一番バレちゃまずい所にバレてたらダメだろ。
「……そう……、そうなんだ……」
「ほら、私はずっと国にいないからね。たまに帰ってくると見えるのよ、『変化』が。
例えどんなに小さなものでもね。
外交なんかやってるとそういう『変化』に敏感にもなるし。交渉なんて人見てナンボだしね」
外相はチーズを裂いてそれを喰む。
「でもアナバス様は私が気づかない様な『変化』に気がつく方だからねぇ」
「…もし気付いてたら、今頃俺、命無いと思うんだけど」
俺は呑む気の失せた樽杯をテーブルに置く。
「あら?そんなのわかんないじゃない? 相手はアナバス様よ? 簡単にカード切る訳ないでしょ? 生殺しよ、生殺し。ご愁傷様」
「あんた他人事だと思って気楽なもんだね……。ビビらせんのやめてくんない?」
外相は悪戯っぽく笑う。
「なんてね、冗談よ。あの娘見てなきゃ予測出来なかったもの。なんとなく似てるもんね、ティア様に。顔とかじゃなくて、雰囲気が。
だからアナバス様も確信は出来てないと思う。仮に出来てたとしてもあんたをどうこうする気はないと思うわ」
外相は葡萄酒を呷る。どうやら樽杯が空いた様だ。
「おじさん、葡萄酒をもう一杯ちょうだい」
俺も杯を飲み干す。
「親父さん、俺も」
「だってあんたのティア様に対する態度はティア様への想いを踏まえて客観的に見ても相当評価出来る。主への忠義としては褒められこそすれ、責められる謂れはないわ。
少なくとも私は進言するわよ」
「まぁ、それは自分で選んだ主だし。当然でしょ」
親父が葡萄酒を2杯テーブルに置く。
親父はなんとなく話の内容を察してか、俺達のテーブルからさっさと去っていく。
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