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97、閑話 -序章4-
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宣言通り、レイティア姫は夕方近くに王城に戻った。
父親であるアリスティド王にお叱言を貰い、自室に戻る。
平民の着る服装からドレスに着替えて、与えられたノルマの勉強を始める。
読書を進めているとコンコンとノックが鳴る。
レイティア姫は顔を上げて扉の方を見る。
「誰ですか?」
「姉上、僕だよ」
「テオフィル? どうぞ」
テオフィル王子はそっとドアを開けて部屋に入ると母親譲りの薄い金色の髪の隙間から上目遣いで赤香色の瞳を覗かせた。
「姉上、今日も街に行ってたの?」
「行ってたわよ。今日はギーおじさんのお店の皿洗いをしたの。そうそう! それとグリムヒルトの方を神殿までご案内したの。……ロジェったらお父様には黙っててくれればいいのにバラしちゃうんだもの、怒られちゃったわ」
テオフィル王子は姉とは違いどちらかと言うと内気な性格をしている。
ふうと一つため息を吐いて姉に吐露する。
「姉上は凄いな……グリムヒルトの人って聞いただけで僕、怖くて……。今夜グリムヒルトの軍師にお会いするでしょう? 僕、ちゃんと出来るかな……」
レイティア姫はキョトンと弟に問う。
「何がそんなに怖いの?」
テオフィル王子は俯いて小さな声で言う。
「……だって……グリムヒルト侵攻の時の当時の王様のなさり様は……あんまりだよ……。……人を生きたまま釜で茹でたり……串刺しにして晒したり……とっても酷かったって……。今の王様も、仮面王って呼ばれてて、冷酷な命を眉一つ動かさずに下す人だって聞いたよ。……僕、怖いよ……」
レイティア姫は呆れて弟を見た。
そして腰に手を当てて弟を説く。
「別に王様とお会いする訳じゃないんだし、そう怖がらなくてもいいじゃない。お会いするのは軍師よ? それにギーおじさんが言ってた。お店に来た軍人さん達は皆んな陽気だったって。皆んなが皆んな怖い人って訳じゃないから、大丈夫よ」
「姉上はどうしてそう……前向きなんだろう……」
レイティア姫は弟の言葉を受けて人差し指を立てる。
「あら。前向きなのはいい事じゃない。テオフィルは賢いから色々な事を考えちゃうんだろうけど、考え過ぎは良くないわ。
それに、私達はご挨拶するくらいでお話しなんてしないんだからそんなに怯えなくていいわよ」
レイティア姫はテオフィル王子の肩に手を置いた。
「それに皆んないるし、大丈夫。テオフィル?そんな事じゃ立派な王様になれないわよ?」
テオフィル王子は俯き瞳を伏せて呟く様に言った。
「……僕に王位なんて無理だよ……。姉上が継いでくれたらいいのに……」
レイティア姫はテオフィル王子の頬を両手で挟む。
「何馬鹿な事言ってるのよ! 私が継ぐよりも賢いテオフィルが継ぐ方がいいに決まってるでしょ⁈」
「……姉上の方が向いてるよ……。街の皆んなだって姉上との方が仲がいいし、姉上の方が良いって思ってるよ……」
レイティア姫は更にテオフィルのその頬を軽く抓った。
「私が街に降りて皆んなと仲良くするのは、私がいつか平民になるからで、王様になるテオフィルとは付き合い方が違って当然でしょう?」
レイティア姫はテオフィル王子の頬から手を離して肩に手を置く。
「王様には威厳も必要よ。私みたいに気安く付き合い過ぎてはダメなの。それに街の皆んな王子様はとても謙虚で聡くていらっしゃるから安心だって言ってるの。期待されてるのはテオフィルなのよ?」
テオフィル王子は俯いた顔を上げてレイティア姫を見る。
赤香色の瞳にレイティア姫の姿が映る。
「大丈夫。今日もちゃんと隣にいてあげるから。怖い事なんて無いわ」
レイティア姫はテオフィル王子の両手を握った。
「……うん、わかった……。僕、頑張るよ」
テオフィル王子は伏せていた瞳に力を込めて姉の方に向けた。
レイティア姫はにっこりと笑って握った手に力を込める。
「そうそう! その意気よ! 貴方は王太子なのよ。他国の軍師にお会いするんだから、毅然としてなきゃ。大丈夫よ、テオフィルは優秀だもの。心配なんて何も無いわ」
こうして、少し気弱な弟を力強く叱咤激励するのが、レイティア姫の家族としての役割だった。
父親であるアリスティド王にお叱言を貰い、自室に戻る。
平民の着る服装からドレスに着替えて、与えられたノルマの勉強を始める。
読書を進めているとコンコンとノックが鳴る。
レイティア姫は顔を上げて扉の方を見る。
「誰ですか?」
「姉上、僕だよ」
「テオフィル? どうぞ」
テオフィル王子はそっとドアを開けて部屋に入ると母親譲りの薄い金色の髪の隙間から上目遣いで赤香色の瞳を覗かせた。
「姉上、今日も街に行ってたの?」
「行ってたわよ。今日はギーおじさんのお店の皿洗いをしたの。そうそう! それとグリムヒルトの方を神殿までご案内したの。……ロジェったらお父様には黙っててくれればいいのにバラしちゃうんだもの、怒られちゃったわ」
テオフィル王子は姉とは違いどちらかと言うと内気な性格をしている。
ふうと一つため息を吐いて姉に吐露する。
「姉上は凄いな……グリムヒルトの人って聞いただけで僕、怖くて……。今夜グリムヒルトの軍師にお会いするでしょう? 僕、ちゃんと出来るかな……」
レイティア姫はキョトンと弟に問う。
「何がそんなに怖いの?」
テオフィル王子は俯いて小さな声で言う。
「……だって……グリムヒルト侵攻の時の当時の王様のなさり様は……あんまりだよ……。……人を生きたまま釜で茹でたり……串刺しにして晒したり……とっても酷かったって……。今の王様も、仮面王って呼ばれてて、冷酷な命を眉一つ動かさずに下す人だって聞いたよ。……僕、怖いよ……」
レイティア姫は呆れて弟を見た。
そして腰に手を当てて弟を説く。
「別に王様とお会いする訳じゃないんだし、そう怖がらなくてもいいじゃない。お会いするのは軍師よ? それにギーおじさんが言ってた。お店に来た軍人さん達は皆んな陽気だったって。皆んなが皆んな怖い人って訳じゃないから、大丈夫よ」
「姉上はどうしてそう……前向きなんだろう……」
レイティア姫は弟の言葉を受けて人差し指を立てる。
「あら。前向きなのはいい事じゃない。テオフィルは賢いから色々な事を考えちゃうんだろうけど、考え過ぎは良くないわ。
それに、私達はご挨拶するくらいでお話しなんてしないんだからそんなに怯えなくていいわよ」
レイティア姫はテオフィル王子の肩に手を置いた。
「それに皆んないるし、大丈夫。テオフィル?そんな事じゃ立派な王様になれないわよ?」
テオフィル王子は俯き瞳を伏せて呟く様に言った。
「……僕に王位なんて無理だよ……。姉上が継いでくれたらいいのに……」
レイティア姫はテオフィル王子の頬を両手で挟む。
「何馬鹿な事言ってるのよ! 私が継ぐよりも賢いテオフィルが継ぐ方がいいに決まってるでしょ⁈」
「……姉上の方が向いてるよ……。街の皆んなだって姉上との方が仲がいいし、姉上の方が良いって思ってるよ……」
レイティア姫は更にテオフィルのその頬を軽く抓った。
「私が街に降りて皆んなと仲良くするのは、私がいつか平民になるからで、王様になるテオフィルとは付き合い方が違って当然でしょう?」
レイティア姫はテオフィル王子の頬から手を離して肩に手を置く。
「王様には威厳も必要よ。私みたいに気安く付き合い過ぎてはダメなの。それに街の皆んな王子様はとても謙虚で聡くていらっしゃるから安心だって言ってるの。期待されてるのはテオフィルなのよ?」
テオフィル王子は俯いた顔を上げてレイティア姫を見る。
赤香色の瞳にレイティア姫の姿が映る。
「大丈夫。今日もちゃんと隣にいてあげるから。怖い事なんて無いわ」
レイティア姫はテオフィル王子の両手を握った。
「……うん、わかった……。僕、頑張るよ」
テオフィル王子は伏せていた瞳に力を込めて姉の方に向けた。
レイティア姫はにっこりと笑って握った手に力を込める。
「そうそう! その意気よ! 貴方は王太子なのよ。他国の軍師にお会いするんだから、毅然としてなきゃ。大丈夫よ、テオフィルは優秀だもの。心配なんて何も無いわ」
こうして、少し気弱な弟を力強く叱咤激励するのが、レイティア姫の家族としての役割だった。
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