人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 へリュ様が捕らえた男達は捕縛して一緒に城まで連行した。
 宰相様が尋問している様だ。宰相様はお忙しいのに何でもこなされて……凄いなぁと感心する。
 陛下が全幅の信頼を寄せている理由がわかった気がした。
 私は一人の男の尋問を別室から見せてもらう。
 今は拷問にはかけられていないけど、あまりに頑固だとそういう事もあり得るらしい。
「依頼主は誰だ……? なんて聞いた所でおいそれとは言わないよな?」
 宰相様は椅子に座り、テーブルに頬杖をついて相手の男と向き合う。
「……言わねぇなぁ」
 男はニヤニヤと笑いながら宰相様から目を逸らしてそっぽを向く。
「……グレーゲル・ディック・フレイヴァルツ」
「‼︎」
 男は驚愕の表情で宰相様を振り仰ぐ。そんな男の様子を見て、今まで見たことのない様な冷たいお顔で口角を吊り上げられた。
「お前の事は何でも知ってるよ、グレーゲル。一番のお気に入りの女はロカモア領のサンテクトスのヴィラリア通りの酒場で働いてる。母親は王都の外れにある花街の隅で花売って暮らしてる。質素で慎ましい生活だ」
 男はみるみる内に青ざめて行く。
「……俺ぁ……そんな女知らん! 母親なんていねぇ! 俺はグレーゲルじゃねぇっ!」
「そうか。俺は別に構わないぞ? お前がグレーゲルであろうがなかろうが、する事は一つだしな」
 宰相様は姿勢を変え、今度は腕組みをして、右手の人差し指を唇に当てて冷たく男を見つめた。
「ただ、口を割ってくれさえすればそれだけで十分だからな。
 お前、その腕で喰ってんだろ? ……なに、10ある。足も入れりゃ20だ。そこから腕で22、脚で24。ああ、その前に爪もあるな」
 男は宰相様の発言に言葉を失っている様だ。
「どうせ口を割るんだ。五体満足な内にさっさと吐いといた方がいいんじゃないか?」
 宰相様は決して笑っていない目で男に笑いかける。
 宰相様の放つ雰囲気にとてもじゃないけど脅しを言ってる訳ではない事はわかる。
 別室で見守る私にもその宰相様の放つ雰囲気が伝わってくるのだから、目の前にいる男はきっと生きた心地がしないだろう。
 私は別室から宰相様達のいる部屋に入っていった。
「失礼しますね、宰相様」
「王妃。この様な所にどうされました?」
 男は私を見て驚愕の表情を浮かべている。
「グレーゲル……と言いましたか? 先程は失礼しましたね」
 私はお母様直伝の聖女の笑顔でグレーゲルに笑いかけた。
「お……っ王妃⁈   だとっ⁈」
「あのね、私、貴方々の立場ってとっても危ういと思うのよ?」
 真っ直ぐにグレーゲルを見て言った。
「は? どういう事だ?」
「貴方々とマルコは全然立場が違うもの」
 出来る限り着ているドレスに見合う様な立ち居振る舞いで優雅に椅子に座って見せた。
「マルコは貴方々の組織の中では特別なんじゃないの? 彼を助ける様に貴方々の事も助けるとは思えないわ。それにね、今もう既に捕まるという失態を犯してしまってる。
 今はまだその情報がいってないだろうけど……もし伝わってしまったら、その時は貴方々には死んで欲しいと望むんじゃないかしら?
 ……とても危ういわよ、貴方々」
 グレーゲルは青ざめている顔を無理矢理歪ませて笑って見せた。
「……そんな科白セリフで歌うと思うか?」
「……あのね?私達が直々に貴方を捕まえたって事がどういう事かわからない?」
 意味を測りかねている顔をしてグレーゲルは私をじっと見つめた。
「グリムヒルト王に目をつけられたって事よ? それはつまり、もう貴方々の雇い主は終焉が見えたって事なの」
 私はグレーゲルに聖女の微笑みを返した。
 グレーゲルは項垂れて彼の知る全てを話し始めた。
「……俺達ゃ大元の雇い主はわからねぇ。いつも呼ばれるのは『凪屋』って三番街の花街にある小さな料理屋だ。そこで依頼を受けて金も受け取る。大体はマルコから受け取っていたが、たまに面布の男がやって来てな、依頼と金を置いて行く」
「……私を売ろうとしたのは?」
「単純に娼館に売ってやろうと思ったんだよ。小遣い稼ぎに」
「アイラさんはどうするつもりだったの?」
「あいつは殺せと命じられた。金は半金貰ってる」
「……他に知ってる事は?」
「そうだな……、面布の男の名はアーベルと名乗ってた。だが、まぁ偽名だろうな」
「貴方々はそのアーベルやマルコの依頼を受けて船には乗ったことあるの?」
「毎回じゃないが何度かはある」
「荷の引き渡し場所は?」
「毎回違ったな。前はジグルの港の沖で引き渡してたし、その前はゲナリアの港の沖だった」
 宰相様がグレーゲルに詰問する。
「どこも小さな漁村だ。そんな所に大型船が停まったら船員が訝しむだろう?」
「コソコソ荷の引き渡しがあるのは知ってるが、見て見ぬふりを決め込んでんだろうな。なんたって立派な大型船だ。待遇もいいんだろうしな。誰も職は失いたくないだろ?」
 グレーゲルは饒舌に私達に語って聞かせた。
 宰相様はグレーゲルを睨み据える様に見つめる。
「……お前、大元がどこか察しがついてるんじゃないのか?」
 グレーゲルがニヤリと笑う。
「歌ってやってもいいが、条件を呑んだら、だ」
「……なんだ?」
「俺を釈放しろ。取引だ」
 宰相様が私をチラリと見た。
 私はわざとしばしの沈黙の後にふぅと溜息を吐いた。
「いいでしょう。その代わり、貴方が関わった荷受けとその場所を全て教えて下さいね?」
「へへっ。王妃様は話がわかって助かるぜ」
 宰相様がグレーゲルの軽口を遮る様に訊ねた。
「……その商会とは?」
「……ヴェルウェルト商会だよ」
 私と宰相様は絶句した。
「……根拠はあるのか?」
 宰相様が厳しい口調でグレーゲルに詰問する。
「旗だよ。漁港に寄る時は旗は下ろしてるか、偽装した旗を上げるんだが、俺ぁ目がいいんだ。漁港を去ってしばらくしたら旗が上がる。その時に見えるのがヴェルウェルト商会の旗だったんだよ」

 ヴェルウェルト商会と言えば、
 大きな船をたくさん所有していて、ヴィンザンツ大陸の友好国との輸出入を多く担ってる。
 グリムヒルトの経済についての勉強を教えて頂く時によく名前の上がる様な、とっても手広い商売をしている大きな商会だ。

 こんな商会が潰れたりしたら……大変な騒ぎになってしまう……。

 私は意を決して口を開いた。
「ねぇ、グレーゲル? 私に提案があるの。もちろん、報酬はお支払いするわ。
 私を捕まえて、アジトに連れて行って?」
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