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次の日の夜、儂とテームとマルコは脱獄する。
先ずはテームが鍵をこじ開ける。
この錠前はそもそもが簡素な作りのものに変えてある。
通常であれば複雑な構造の鍵を使っているので錠前を開けるのにはテームの腕を持ってしても30分から1時間はかかるだろう。
その間に定期的な見廻りがやって来る。
その様にして脱獄を防ぐ様指示してある。
だが儂でもこの位の簡素な物なら自ら開けられるので、靴の底に忍ばせておいた法相の用意した針金を使い錠をこじ開ける。
その間も余りに手際が良いとマルコに怪しまれるので少しもたついて見せる。
簡単に開けられる物を焦らすのもなかなか演技力が必要とされ、笑いを堪えるのに忍耐がいる。
「開かないのか⁈」
マルコがソワソワして牢の格子を掴み、儂とテームに訴えかける。
「まぁそう慌てるな」
マルコに笑いかけてやると、幾許か落ち着いた様子ではあったが、不安な心持ちは滲み出ていた。
「……いけそうか?」
「問題ない」
もう少し焦らしてやろうかと思ったが、まぁこういった事は惚れた女に仕掛ける方が楽しい事を知ってしまったので、不意に飽きが来た。さっさと開けてしまう。
「開いたぞ」
「そうか! 俺の方も頼む!」
テームも儂に合わせて錠前を開ける。
「俺は先に行って得物を探して来る」
テームにマルコの錠を開けさせている間に儂の剣を回収する。
あれでなくても扱えるが、他の奴に触らせる気のない大事なものがあれには付いている。回収せねばならない。
牢から出て階段を登る。
儂は扉を少し開け、影から中の様子を伺う。
兵士達の詰所がある。今はちょうど二人。
恐らく法相の指示で警備体制が緩くなっているのであろう。
本来であればこの牢の上階に位置する詰所には、5人ほどの兵士が常に見張りについている。
こんなにザルでは逆に疑問を持つ奴が出て来るのではなかろうか?
法相には後で少し小言の一つでも見舞ってやろう。
だが、足手纏いを連れて脱獄するのであれば、緩い警備であるほどこちらの都合はいい。
儂は扉を揺らし木の擦れる音を立ててやる。
ギィと重厚感のある高い嫌な音が部屋に響く。その音に兵士達は訝しむ。
一人がゆっくり扉に近づいて来た。
もう一方の兵士はそれを緊張した様子で見守っている。
兵士がゆっくりこちらに近づき、扉まであと一歩の所で儂は思い切り扉を全開にして虚をつく。
驚いた兵士は後退り対応が遅れ、腰の剣を抜けなかった。儂は兵士の柄を右手で押しやり左手で拳を作り、兵士の鳩尾に見舞う。
兵士が気を失い、倒れ込む。もう一人が声を上げようとした瞬間、後ろに回り込む。
口を塞いで後頭部に手刀を打ち込んでやる。
うぐっ! っと呻き声を上げて兵士は倒れた。それを支えてやるとそっと床に寝かせてやる。
「済まんな。うぬらに咎はない。赦す」
兵士達を一瞥して一言小さく呟いた。
儂の剣はこの部屋の隅に保管されていた。儂の大事な物もちゃんとある。
帯刀ベルトを巻き、剣を腰に差す。
そうした所にテームとマルコがやって来て、マルコは儂に声をかけた。
「あんたホントに腕が立つんだな。で、この後は?」
「ああ、西の警備が手薄だ。西の塀なら登れる」
西の塀はわざと登れる様に作ってある。
有事の際の備えとして、更にはこうした脱獄者を誘き寄せるためだ。
普段の警備で西側に逃げれば袋の鼠になる。今日の西側の幕壁は難なく登れる様になっているだろう。
木の影や植え込みに隠れて見廻りの衛士達をやり過ごす。
牢破りが露見する前になんとか幕壁を登ってしまいたい。人数が増えると面倒だ。
特に大きな問題もなく幕壁まで辿り着く。
壁に植え込まれているタラップを登ると防御城塔まで見える。
城内をその位置からしばし眺める。衛士達に慌てた様子はなく、通常任務をこなしている様だ。
幕壁を降りると水堀がある。この水堀は泳いで渡るしかない。
「水音を立てるなよ。衛士に気づかれる」
声を潜ませてマルコに伝えると、マルコは心得た様に頷いて見せた。
マルコもグリムヒルトの男だ。それなりに泳ぎは達者だろう。
水堀の向こう岸は結構な距離があるのである程度以上は泳げなければ話にならない。
城は海に面していて、水堀は海水を引き込んである。
その距離を泳ぎ切り、息の上がっているマルコを待った後、海伝いに漁場のあるエリアに向かい、漁師達が使う小屋を使わせてもらう。
火を焚き、服を乾かす。ずぶ濡れではいくら夜半とはいえ目立ち過ぎる。
「さて、乾いたら動けるが、ここからはお前の裁量だ」
儂は火の傍でマルコを見た。
「おう。今から『凪屋』って料理屋に行く。そこから元締めに連絡が取れる」
「どこにある?」
「三番街の花街のガストレア通りだ」
「なるほど……。テーム、案内出来るか?」
「お任せを」
王都に3つある花街の内の一つ、一番格の落ちるのが三番街だ。腹を探られたくない輩が潜むには丁度良い場所だろう。
そろそろ脱獄が露見している頃だろう。この小屋も捜索される可能性が高い。さっさと移動するのが正解だ。
その前にとテームが儂にストールを差し出す。
「アナバス様の髪色は目立ちます。これを」
言われた通りにストールを頭に巻く。
テームが脱獄の際に用意していたらしい。
あまり自覚はないが儂の容姿は目立つ部類らしい。普段はどうでもいいが、こういう時には不利に働く様だ。
結局花街までの裏道もテームの案内で衛士達と出会す事なく、『凪屋』まで辿り着くことが出来た。諜報としての本領を発揮したと言う所か。
しかしそれも複雑な心境だ。こんな風に裏道を駆使されれば逃げ切られてしまう可能性があるという事だ。
一度警備を見直させる必要がありそうだな。
「やめて! 離してっ!」
『凪屋』に入店すると聞き覚えのある声と共に見知った髪色が儂の目に飛び込んできた。
先ずはテームが鍵をこじ開ける。
この錠前はそもそもが簡素な作りのものに変えてある。
通常であれば複雑な構造の鍵を使っているので錠前を開けるのにはテームの腕を持ってしても30分から1時間はかかるだろう。
その間に定期的な見廻りがやって来る。
その様にして脱獄を防ぐ様指示してある。
だが儂でもこの位の簡素な物なら自ら開けられるので、靴の底に忍ばせておいた法相の用意した針金を使い錠をこじ開ける。
その間も余りに手際が良いとマルコに怪しまれるので少しもたついて見せる。
簡単に開けられる物を焦らすのもなかなか演技力が必要とされ、笑いを堪えるのに忍耐がいる。
「開かないのか⁈」
マルコがソワソワして牢の格子を掴み、儂とテームに訴えかける。
「まぁそう慌てるな」
マルコに笑いかけてやると、幾許か落ち着いた様子ではあったが、不安な心持ちは滲み出ていた。
「……いけそうか?」
「問題ない」
もう少し焦らしてやろうかと思ったが、まぁこういった事は惚れた女に仕掛ける方が楽しい事を知ってしまったので、不意に飽きが来た。さっさと開けてしまう。
「開いたぞ」
「そうか! 俺の方も頼む!」
テームも儂に合わせて錠前を開ける。
「俺は先に行って得物を探して来る」
テームにマルコの錠を開けさせている間に儂の剣を回収する。
あれでなくても扱えるが、他の奴に触らせる気のない大事なものがあれには付いている。回収せねばならない。
牢から出て階段を登る。
儂は扉を少し開け、影から中の様子を伺う。
兵士達の詰所がある。今はちょうど二人。
恐らく法相の指示で警備体制が緩くなっているのであろう。
本来であればこの牢の上階に位置する詰所には、5人ほどの兵士が常に見張りについている。
こんなにザルでは逆に疑問を持つ奴が出て来るのではなかろうか?
法相には後で少し小言の一つでも見舞ってやろう。
だが、足手纏いを連れて脱獄するのであれば、緩い警備であるほどこちらの都合はいい。
儂は扉を揺らし木の擦れる音を立ててやる。
ギィと重厚感のある高い嫌な音が部屋に響く。その音に兵士達は訝しむ。
一人がゆっくり扉に近づいて来た。
もう一方の兵士はそれを緊張した様子で見守っている。
兵士がゆっくりこちらに近づき、扉まであと一歩の所で儂は思い切り扉を全開にして虚をつく。
驚いた兵士は後退り対応が遅れ、腰の剣を抜けなかった。儂は兵士の柄を右手で押しやり左手で拳を作り、兵士の鳩尾に見舞う。
兵士が気を失い、倒れ込む。もう一人が声を上げようとした瞬間、後ろに回り込む。
口を塞いで後頭部に手刀を打ち込んでやる。
うぐっ! っと呻き声を上げて兵士は倒れた。それを支えてやるとそっと床に寝かせてやる。
「済まんな。うぬらに咎はない。赦す」
兵士達を一瞥して一言小さく呟いた。
儂の剣はこの部屋の隅に保管されていた。儂の大事な物もちゃんとある。
帯刀ベルトを巻き、剣を腰に差す。
そうした所にテームとマルコがやって来て、マルコは儂に声をかけた。
「あんたホントに腕が立つんだな。で、この後は?」
「ああ、西の警備が手薄だ。西の塀なら登れる」
西の塀はわざと登れる様に作ってある。
有事の際の備えとして、更にはこうした脱獄者を誘き寄せるためだ。
普段の警備で西側に逃げれば袋の鼠になる。今日の西側の幕壁は難なく登れる様になっているだろう。
木の影や植え込みに隠れて見廻りの衛士達をやり過ごす。
牢破りが露見する前になんとか幕壁を登ってしまいたい。人数が増えると面倒だ。
特に大きな問題もなく幕壁まで辿り着く。
壁に植え込まれているタラップを登ると防御城塔まで見える。
城内をその位置からしばし眺める。衛士達に慌てた様子はなく、通常任務をこなしている様だ。
幕壁を降りると水堀がある。この水堀は泳いで渡るしかない。
「水音を立てるなよ。衛士に気づかれる」
声を潜ませてマルコに伝えると、マルコは心得た様に頷いて見せた。
マルコもグリムヒルトの男だ。それなりに泳ぎは達者だろう。
水堀の向こう岸は結構な距離があるのである程度以上は泳げなければ話にならない。
城は海に面していて、水堀は海水を引き込んである。
その距離を泳ぎ切り、息の上がっているマルコを待った後、海伝いに漁場のあるエリアに向かい、漁師達が使う小屋を使わせてもらう。
火を焚き、服を乾かす。ずぶ濡れではいくら夜半とはいえ目立ち過ぎる。
「さて、乾いたら動けるが、ここからはお前の裁量だ」
儂は火の傍でマルコを見た。
「おう。今から『凪屋』って料理屋に行く。そこから元締めに連絡が取れる」
「どこにある?」
「三番街の花街のガストレア通りだ」
「なるほど……。テーム、案内出来るか?」
「お任せを」
王都に3つある花街の内の一つ、一番格の落ちるのが三番街だ。腹を探られたくない輩が潜むには丁度良い場所だろう。
そろそろ脱獄が露見している頃だろう。この小屋も捜索される可能性が高い。さっさと移動するのが正解だ。
その前にとテームが儂にストールを差し出す。
「アナバス様の髪色は目立ちます。これを」
言われた通りにストールを頭に巻く。
テームが脱獄の際に用意していたらしい。
あまり自覚はないが儂の容姿は目立つ部類らしい。普段はどうでもいいが、こういう時には不利に働く様だ。
結局花街までの裏道もテームの案内で衛士達と出会す事なく、『凪屋』まで辿り着くことが出来た。諜報としての本領を発揮したと言う所か。
しかしそれも複雑な心境だ。こんな風に裏道を駆使されれば逃げ切られてしまう可能性があるという事だ。
一度警備を見直させる必要がありそうだな。
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