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密輸の件が公になって、御用商人が変わった。
今までずっとヴェルウェルト商会が担っていた王城に卸されていた物品は全てキヴィレフト商会が商う事になった。
ヴェルウェルト商会は取り潰しとなって、多くの雇用が宙に浮く事になってしまったけど、それらを全てキヴィレフト商会が請け負った。
ヴェルウェルト商会の事業全てを買い取る形で引き継いで、キヴィレフト商会は国内で最も大きな商会になった。
実はあまり公にされていないけど、キヴィレフト商会は陛下や重臣の皆さんの合同出資で出来た商会らしく、陛下の案で私も参与する事になった。
私も太公様の遺産から出資して事業を買い取る資金の足しにしてもらった。
これでヴェルウェルトに追徴されている税金と罰則金も賄えるらしい。
宰相様はこの件と更に内政の混乱でとても忙しいらしくて、流石に陛下のお仕事は増えた様だった。
私は私でこれを機に後宮の物品管理を任される事になって、毎日が目まぐるしく過ぎていく。
何がどう購入されて、幾ら使われて幾ら残っているのか、そういった細かい報告を全て受けて矛盾がないか確認する。
紅茶の葉っぱから後宮に卸される貴金属、装飾品や被服に至るまで。
今までは宰相様が全て担っていらしたと言うから本当に凄い。
この所、勉強とこの管理だけで、私の一日はあっという間に過ぎている。
陛下が早くに仕事を終えられても、私が済んでいない事が多くて、最近は昼間にお会い出来ずにいる。
その所為で陛下は最近とても不機嫌だ。
なので私も全力で仕事に勉強にと取り組んでいるけど、なかなか陛下の様には上手くはこなせなくて、申し訳ない。
今日もやっとの事で仕事と勉強を終えて、陛下と夕食を共にする。
陛下は葡萄酒に口をつけてそれをテーブルに置くと私に言った。
「レイティア、仕事には慣れたか?」
私は正直に言う。
「……正直に言うと、慣れません……。毎日毎日こんなにもたくさんの物が後宮に卸されているなんて、考えてもいませんでした……」
私が管理してるのは後宮の物品だけだ。王城全体じゃない。それなのにこんなにもたくさんの物が売り買いされてるなんてマグダラスとは規模が全然違う。
「あまりに辛い様なら、また宰相に振っても良いぞ?」
陛下は少し心配気に私を見つめてそう言った。
「いいえ。大丈夫です。いずれは私が熟さなければならない仕事ですから、このまま頑張ります」
私は笑って陛下に答えた。陛下は私から目を離してナイフとフォークを手に取った。
「明日の仕事は代わってもらえ」
唐突にそう言われてキョトンとしてしまう。
「明日、ですか?」
「明日はお前の好きな祭りがある」
陛下はソテーされた魚を器用にナイフとフォークで切り分けて、それを口に運んだ。その様はいつ見ても優雅だ。
「お祭り……? あれ? プストはまだ先ではありませんか?」
私は祭りという言葉につい心躍るけれど、一緒に浮かんだ疑問を口にした。
「今回の祭りは花街で開催される祭りだ。ファシングという。花街全体で共催される祭りらしい。お前はそういう物が好きだろうと思ってな。宰相に許しを得た」
陛下は私の使い方をよくご存知だなと少し気恥ずかしくなる。
私がちょっとだけ毎日の仕事に疲れて来てるのをわかっているのだろう。そして配慮してくれたのだと思う。
何もかも見透かされている様で、照れ臭い。
「……連れて行って下さるのですか?」
「ああ、お前と楽しみたい」
陛下は優しく微笑む。
「嬉しいです……、陛下。ありがとうございます」
私はほっこり嬉しい気持ちになりながら、食事の手を進めた。
「花街のお祭りという事は、夜開催されるのですか?」
「いや、昼間に行く。昼夜休まず三日に渡って開催されるらしいが、初日の昼間に行く」
この間花街は行ったけど、三番街の花街の更に治安の悪い所に行っただけなので、色々行けるなら楽しみだ。
「……お前に馴染みの者とも逢わせてやれるだろうからな」
陛下は今度は添え物の野菜を優雅に口に運びながら、ぽそりと呟く様に言った。
「……あの、もしかして、デボラ姉さんの件ですか?」
「ああ、気にしておるのだろう?」
陛下がデボラ姉さんと会ったと聞いた時から、とても気になっていた。
デボラ姉さんがグリムヒルトに来てからもう3年位は経っているだろうと思う。
娼婦はとても厳しい商売だ。話には聞いていたけど、セオ島の娼館の現状を知って、聞いていた話よりももっと過酷だとわかった。
基本的に娼館は一部屋を娼婦が借りて、毎日の売り上げからその賃料を差し引かれる。その上、食事もタダではないし、衣装や化粧品も全て、娼館から買わなくてはいけない。そして更には借金を返す。
そんな塩梅ではいつまで経っても借金は減らないだろう。下手をすれば毎日の生活さえまともには送れないかもしれない。
セオ島の娼館に関しては私の権限で、そういったものは全て娼館側が持つように指示して改革した。
その他にも、館内の衛生にも力を入れたし、セオ島は温泉が湧くので、娼館に引いて毎日娼婦の皆さんに入ってもらえる様に義務付けた。
そうすると、衛生管理がよく出来ていてサービスの行き届いた娼館になったとお客さんが増えたらしい。
そもそも観光事業にも力を入れる様に指示したので、どんどん観光客が来る様になった。
その観光客が娼館に行くので、売上がどんどん上がってしまっている。
それもこれも、マグダラスでの宿屋の女将さんの教えの賜物だ。
客商売は清潔感が大事だと、口を酸っぱくして言われた。特に不潔だと忌み嫌われる所ほど清潔に保つ様にと言われたので、私はそれを守るように指示しただけ。
マグダラスでの経験は私にそういう形で役立っている。
もちろん、デボラ姉さんも同じ様に私に大切な教えを齎してくれた、大切な一人だ。不遇を囲っているなら、なんとか力になりたい。
「……陛下?ありがとうございます」
「ならば、今宵もお前を所望する。儂に褒美をくれ」
陛下の言葉に私は顔を朱に染め俯いて、小さく答えた。
「……はい……」
今までずっとヴェルウェルト商会が担っていた王城に卸されていた物品は全てキヴィレフト商会が商う事になった。
ヴェルウェルト商会は取り潰しとなって、多くの雇用が宙に浮く事になってしまったけど、それらを全てキヴィレフト商会が請け負った。
ヴェルウェルト商会の事業全てを買い取る形で引き継いで、キヴィレフト商会は国内で最も大きな商会になった。
実はあまり公にされていないけど、キヴィレフト商会は陛下や重臣の皆さんの合同出資で出来た商会らしく、陛下の案で私も参与する事になった。
私も太公様の遺産から出資して事業を買い取る資金の足しにしてもらった。
これでヴェルウェルトに追徴されている税金と罰則金も賄えるらしい。
宰相様はこの件と更に内政の混乱でとても忙しいらしくて、流石に陛下のお仕事は増えた様だった。
私は私でこれを機に後宮の物品管理を任される事になって、毎日が目まぐるしく過ぎていく。
何がどう購入されて、幾ら使われて幾ら残っているのか、そういった細かい報告を全て受けて矛盾がないか確認する。
紅茶の葉っぱから後宮に卸される貴金属、装飾品や被服に至るまで。
今までは宰相様が全て担っていらしたと言うから本当に凄い。
この所、勉強とこの管理だけで、私の一日はあっという間に過ぎている。
陛下が早くに仕事を終えられても、私が済んでいない事が多くて、最近は昼間にお会い出来ずにいる。
その所為で陛下は最近とても不機嫌だ。
なので私も全力で仕事に勉強にと取り組んでいるけど、なかなか陛下の様には上手くはこなせなくて、申し訳ない。
今日もやっとの事で仕事と勉強を終えて、陛下と夕食を共にする。
陛下は葡萄酒に口をつけてそれをテーブルに置くと私に言った。
「レイティア、仕事には慣れたか?」
私は正直に言う。
「……正直に言うと、慣れません……。毎日毎日こんなにもたくさんの物が後宮に卸されているなんて、考えてもいませんでした……」
私が管理してるのは後宮の物品だけだ。王城全体じゃない。それなのにこんなにもたくさんの物が売り買いされてるなんてマグダラスとは規模が全然違う。
「あまりに辛い様なら、また宰相に振っても良いぞ?」
陛下は少し心配気に私を見つめてそう言った。
「いいえ。大丈夫です。いずれは私が熟さなければならない仕事ですから、このまま頑張ります」
私は笑って陛下に答えた。陛下は私から目を離してナイフとフォークを手に取った。
「明日の仕事は代わってもらえ」
唐突にそう言われてキョトンとしてしまう。
「明日、ですか?」
「明日はお前の好きな祭りがある」
陛下はソテーされた魚を器用にナイフとフォークで切り分けて、それを口に運んだ。その様はいつ見ても優雅だ。
「お祭り……? あれ? プストはまだ先ではありませんか?」
私は祭りという言葉につい心躍るけれど、一緒に浮かんだ疑問を口にした。
「今回の祭りは花街で開催される祭りだ。ファシングという。花街全体で共催される祭りらしい。お前はそういう物が好きだろうと思ってな。宰相に許しを得た」
陛下は私の使い方をよくご存知だなと少し気恥ずかしくなる。
私がちょっとだけ毎日の仕事に疲れて来てるのをわかっているのだろう。そして配慮してくれたのだと思う。
何もかも見透かされている様で、照れ臭い。
「……連れて行って下さるのですか?」
「ああ、お前と楽しみたい」
陛下は優しく微笑む。
「嬉しいです……、陛下。ありがとうございます」
私はほっこり嬉しい気持ちになりながら、食事の手を進めた。
「花街のお祭りという事は、夜開催されるのですか?」
「いや、昼間に行く。昼夜休まず三日に渡って開催されるらしいが、初日の昼間に行く」
この間花街は行ったけど、三番街の花街の更に治安の悪い所に行っただけなので、色々行けるなら楽しみだ。
「……お前に馴染みの者とも逢わせてやれるだろうからな」
陛下は今度は添え物の野菜を優雅に口に運びながら、ぽそりと呟く様に言った。
「……あの、もしかして、デボラ姉さんの件ですか?」
「ああ、気にしておるのだろう?」
陛下がデボラ姉さんと会ったと聞いた時から、とても気になっていた。
デボラ姉さんがグリムヒルトに来てからもう3年位は経っているだろうと思う。
娼婦はとても厳しい商売だ。話には聞いていたけど、セオ島の娼館の現状を知って、聞いていた話よりももっと過酷だとわかった。
基本的に娼館は一部屋を娼婦が借りて、毎日の売り上げからその賃料を差し引かれる。その上、食事もタダではないし、衣装や化粧品も全て、娼館から買わなくてはいけない。そして更には借金を返す。
そんな塩梅ではいつまで経っても借金は減らないだろう。下手をすれば毎日の生活さえまともには送れないかもしれない。
セオ島の娼館に関しては私の権限で、そういったものは全て娼館側が持つように指示して改革した。
その他にも、館内の衛生にも力を入れたし、セオ島は温泉が湧くので、娼館に引いて毎日娼婦の皆さんに入ってもらえる様に義務付けた。
そうすると、衛生管理がよく出来ていてサービスの行き届いた娼館になったとお客さんが増えたらしい。
そもそも観光事業にも力を入れる様に指示したので、どんどん観光客が来る様になった。
その観光客が娼館に行くので、売上がどんどん上がってしまっている。
それもこれも、マグダラスでの宿屋の女将さんの教えの賜物だ。
客商売は清潔感が大事だと、口を酸っぱくして言われた。特に不潔だと忌み嫌われる所ほど清潔に保つ様にと言われたので、私はそれを守るように指示しただけ。
マグダラスでの経験は私にそういう形で役立っている。
もちろん、デボラ姉さんも同じ様に私に大切な教えを齎してくれた、大切な一人だ。不遇を囲っているなら、なんとか力になりたい。
「……陛下?ありがとうございます」
「ならば、今宵もお前を所望する。儂に褒美をくれ」
陛下の言葉に私は顔を朱に染め俯いて、小さく答えた。
「……はい……」
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