人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 王の間で陛下と2人、お茶を飲む。
 陛下は華奢なカップを指先で持ち上げて、優雅に紅茶を口に含んだ。
「オリヤンと乗り合わせた者達を捕らえた。どうやら不正に対して異議を唱え、海に突き落とされた様だ。そのオリヤンには王城で侍女として勤めている女がいたという。…まぁアイラで間違いないだろうな」
 私はカップを置いて溜め息を吐いた。
「……海原に突き落とすなんて、酷いですね……。さぞ恐ろしかった事でしょう……」
 陛下もカップをソーサーに置いて、仰った。
「海賊の処刑ではよくある方法だからな。追い詰めて飛び込ませる。そのまま無人島に置き去りにしたりな。その時期にその海域を通った船に問い合わせたが救助した者は無い。あまり期待は出来んな」
 私はアイラさんにこれを伝えるべきか悩む。
「……この事、アイラさんに伝えるべきなんでしょうか……?伝えるにしてもなんて言えばいいんでしょう……」

 陛下はじっと紅茶の中身を見つめて黙っている。長い沈黙の後、思い切った様に言った。
「……昔、儂の傲慢で死なせた男がいてな」
 私は陛下のお顔に目をやる。
 陛下は紅茶をソーサーから持ち上げて、また口に含んだ。それを飲み下すとまた落とす様に語り始める。
「その男の死をその妻に伝えた。その妻は知れてよかった、ありがとうございますと気丈に言った」
 私は陛下のお顔をじっと見つめて耳を傾けた。
「その妻は2人の子供がいたが立派に育てている。上の子は今年海軍に入った。……前を向く為に、必要な痛みもあるのかも知れんぞ?」

 私は思い至った。
「……その方は、以前お花を手向けた方ですか?」
「ああ、そうだ」
 私は陛下に笑って見せた。
「……また、お花を手向けに行きましょう?」
 その言葉に陛下は優しく微笑んでくれた。
「……ああ。付き合ってくれ」

 私は決意する。
「わかりました。私、アイラさんに真実を言います」
 私がすくっと立ち上がると、陛下もカップをソーサーに置いて、同じ様に立ち上がった。
「……陛下?」
 陛下は私の頭を撫でる。
「行くのだろう? 風見鶏に。儂が供をしよう」
 もう今日は御政務も終わられてゆっくりしている時間だし、確かに問題ない。
「……では、お願いします」

 私達は服を着替えて抜け路に入った。
 手を繋いで足場の悪い抜け路を歩く。
「そういえばレイティア。娼館でデボラという女と会ったぞ」
「デボラ……まさか、デボラ姉さん⁈」
「お前とはマグダラスで懇意にしていたと聞いた」
「あのデボラ姉さんなのね! 元気でしたか⁈」
「ああ、元気そうだったぞ。お前のマグダラスでの話を色々と聞かせてもらった」
 私はキョトンとする。
「マグダラスでの?」
「例えば、山に家出して大騒動になった事とかか?」
 よりによってその話を陛下に知られてしまうなんてっ! 恥ずかしいっ!
「……っ! それはっ! 色々と事情があって……」
「マグダラス王と諍いになったと聞いたが?」
 顔が火照ってくるのを感じたので俯く。
「……きっかけは些細な事だったんです……。もっと落ち着いて女らしく振る舞えと言われて……腹が立って……家出したんです……。山の灌木の窪みに隠れていたら、大騒動になってしまって……」
 私が恥ずかしさのあまり俯いていると、陛下は頭を撫でてくれる。
「儂と諍いを起こしても決して家出などするな? 国を上げて探し出して永遠に閉じ込める」
 私は陛下のお顔を見上げた。そのお顔は真剣そのものだったので、少し戸惑って、でもすぐに微笑んだ。
「……はい」
「落ち着く必要も、女らしく振る舞う必要もないがな」
 その言葉に少し驚いてジッと見つめてしまう。その視線を受け止めて、陛下はまた私の頭を撫でて、微笑んだ。
「お前はお前のままでいい。そのままでいろ」
 私は胸が熱くなる。もう一度この人に恋をしたように。
「……陛下……。いえ、ありがとうございます、アナバス様」

 抜け路を抜けて、風見鶏に到着する。辺りはそろそろ夕方に迫る時間。
 店に入るとアイラさんが店の手伝いをしていた。
「ティアさん! あれから無事だったか心配してたの!」
 アイラさんは笑顔を見せてくれて、私に駆け寄ってくれた。
「……アイラさん、お店の忙しい時間に悪いんだけど、ちょっとだけ、いい?」
「今ちょうどひと段落した所だから大丈夫よ。少し出るわね、兄さん!」
「おう、ティアちゃん、いらっしゃい! 旦那さんも一緒か! 行ってきていいぞ、気をつけてな」
 風見鶏のご主人は厨房から顔を覗かせて声をかけてくれた。

 私達は店を出て、店裏の路地の木箱の上に座り込んだ。
「……あのね、ヴェルウェルト商会が潰れた話は知ってる?」
「ええ、何でも密輸を商会ぐるみでやっていてそれが陛下にバレたって、聞いたけど」
「……あの……アイラさんの恋人の名前……オリヤンさん?」
「……そうよ? どうして……。あの人に何かあったの⁈」
「オリヤンさん、ヴェルウェルトの船に乗ってたみたいなの……。それでね、その密輸の事を正そうとして……」
 私はこの後の言葉をうまく紡げない。残酷過ぎてやっぱり言えない。
「……殺されたのね……?」
「……多分、生きてはいないと思う……」
 私はオリヤンさんの御守りを懐から差し出した。
「……これ、直前に取り上げられたみたい」
 アイラさんは震える手で御守りを受け取ると、それを額に当てて泣き崩れた。私はその肩を抱いた。
 アイラさんは嗚咽をあげて話し始める。
「……真面目な人だったの……っ! と、とてもっ! せ、誠実で、良い人だったのっ……!」
「……うん」
「……どっ……どうしてっ……! オリヤンっがっ!」
「……うん」
「うわぁぁぁぁぁ~~っっ‼︎‼︎」
 その後は言葉にならなかった。
 
 ただただ声を上げてアイラさんは泣き続けて、私はそれが嗚咽に変わって、落ち着くまでずっと、肩を抱き続けた。
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