人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 へリュ様が騎士団に御指南される日だと聞いて、私一人で見学に行った演習場で休憩中の新米の騎士さん達と会話する。
 やっぱり私は威厳の無い王妃なのか、皆んな砕けた感じで話してくれる様になった。
「最近、街ではどんな話題があるの?」
「街って訳じゃないですけど、王都の外れにちょっとした集落があるんですが、そこに化け物が出るって噂なんですよ」
 私と同じ位の歳のアトロという今年騎士になったばかりの青年は教えてくれる。
「化け物っつっても玉蟲色した毛並みの綺麗な大きな狼みたいな奴らしいですよ」
「……で? その狼何かしたの?」
「いや、何もせずどっか行くみたいですね。ただ夜な夜な出て来るらしいんで集落の連中ビビってるって話ですよ」
 ……それって、もしかして幻獣なんじゃない?
 マグダラス王家所有の幻獣にもそういう毛並みの馬型のものがいた。
 幻獣は色んな型のものがいる。
 馬、牛、羊、虎、獅子、豹、狼、大鷲。
 私が聞いた事があったり見たりした事があるのはこのくらい。
 白の勝った虹色、黒の勝った玉蟲色、赤銅金、蒼白銀、大体そういう毛並みをしている。
 総じて草食で飼い葉で養う事が出来るので、飼うに困る事もない。
 昔幻獣が今よりもっとたくさんいた頃は牛や馬型は特に農耕用にも使われてたらしい。
 普通の馬や牛より飼いやすくてよく懐くので、長らく原住の民の生活を根本から支えていた。
 ただ、彼らは子孫を残さない。
 交配できないし、死んでしまえば即座に塵に還ってしまう。
 彼らが何処から生まれて、どうして死んでしまえば塵になるのか誰にもわからない。
 その性向は穏やかで大人しい……けれど、それは懐いた主人がいた場合で、そうでない幻獣は気が荒いものもある。
 そして、幻獣は純血の民しかその背に乗せない。
 幻獣は神獣の現し身だから、契約で結ばれている原住の民の言う事しか聞かない。
 異民の民に対しては荒ぶる獣になってしまう。
 だから、もしも獣が暴れたりしたらグリムヒルトの民を傷つけてしまうかもしれない。

「ねぇ、その集落って何処にあるの?」
「王都から南西に進んだアラギス林道に入る前の集落ですよ」
「わかったわ!アトロありがとう!」
 私は駆け出す。
「え⁈わかったって王妃どういう事ですか⁈」
 アトロは背後から声をかける。
「行ってみるわ!」
「はぁ⁈」

 先ずは、陛下に置き手紙をして、着替えなくちゃ。
 私は王妃の間に急ぐ。
 足早に歩いていると宰相様と出くわした。
「宰相様!」
「これは王妃。何かお急ぎですか?」
「あのですね、実は先程王都郊外に化け物騒ぎがあると聞いたんです。でもそれは多分幻獣なので、私が行って宥めて来ますので、陛下にその旨お伝え願えますか?」
「は?ちょっとよくわからないんですが……」
「つまり、幻獣が出たので、ちょっと出て来ます、という事です」
 私はニッコリと笑って宰相様に言った。
「……何言ってるんですか! お一人で市井にお出しする訳には行きませんよ⁈」
「でも……大丈夫ですし……」
「大丈夫な訳ないでしょう? しかも幻獣⁈」
 私が困っていると背後から、声がかかる。
「私が同行しよう」
 振り返るとへリュ様が居た。
 へリュ様は腰に2本のカトラスを差していて、一緒に私が贈った御守りも帯刀ベルトにつけてくれている。
「へリュ様?どうして?」
「若い騎士が私に王妃が城から一人で抜け出そうとしていると訴えてきたので、同行しようと追いかけた」
 そうか、アトロがへリュ様に伝えてくれたんだ。
「宰相様? へリュ様とアラギス林道って所まで行ってきます。陛下には書き置きを残しますので、それを渡して頂きたいんです」
「待って下さい、王妃。先ずは調査に向かわせます。それから協議して」
「それだと遅過ぎます。怪我人が出る前にどうにかしなければ。それに幻獣であるならばどちらにせよ純血の者にしか御せません。結局私が出向くしかないと思いますので、私が今直接行くのが一番合理的です」
「……それは間違いなく幻獣なんですか?」
「玉蟲色の毛並みの狼だという事なんで、ほぼ間違いないかと」
「……わかりました。陛下には俺からお伝えします。書き置きだけはお願いします」
「わかりました! ありがとうございます、宰相様!」
 私は許してもらえたのが嬉しくなって思わず宰相様の両手を握る。
「すぐに手紙を書きますね! へリュ様、着替えますのでお待ち下さい!」

 私は急いで王妃の間に行って平民の服に着替えを済ませて手紙を書いた。
 そしてさっき宰相様とお会いした場所まで戻るとお忙しいのに待っていて下さった。
「詳細は陸軍所属の騎士のアトロ・エイノ・サラマに聞いて下さい。どうぞこれを陛下に」
 私は手紙を手渡しながら宰相様に伝える。
「王妃、くれぐれも無茶だけは決してしないで下さいね?大事な御身なのですから」
 宰相様は真剣な眼差しで私の瞳を覗き込む。
「わかりました。ちゃんと気をつけます。へリュ様も同行して下さるし、大丈夫ですよ」
 私はそれに笑顔で答える。
 狼型の幻獣は気性の荒いものが多いと聞いた事がある。
 でも、この幻獣は何もせずに去っていくみたいだからきっと穏やかな気性なんだと思う。
 なので、きっと大丈夫だろう。

 私はへリュ様と共に王城を後にした。
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