人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 へリュ様と一緒にグリムヒルト一番の目抜き通りであるサントニア通りを歩いて、馬車の集まる馬場へと向かう。
 マイヤール領行きの定期便の馬車に乗る為だ。
 この馬車は定員でない限り何処ででも乗せてくれるし、何処ででも降ろして貰える。
 庶民の重要な足だ。

 馬場に行く道すがらへリュ様に見繕ってもらって旅支度を整える。
 何せ私は自分で歩く様な旅は全くの初めてなので、何をどう用意していいのかわからない。
 ホントにへリュ様に付いて来てもらえてよかった。
 先ずは外套を購入して、腰に巻ける革の鞄に乾燥させた簡単な保存食、ロープやナイフ、お椀なんかを入れて更に水筒を鞄の横側にしっかり吊るす。
 長旅ではないので本当に簡単な装備で、軽量で扱い易い物を選んで頂いた。
 服装もいつもの巻きスカートではなくて、男性用のズボンを腰帯ロインクロスで留めるスタイルにして、靴も丈夫な革のブーツにする。

 サントニア通りはグリムヒルトの物流の全てが集まる場所だ。なので色んな珍しい物が溢れていて私はついついキョロキョロとあちこち見回してしまう。
「凄い人ですね」
「この国の中心街だから、人も物も情報もここに集まる」
「サントニア通りは初めてグリムヒルトに来た時に馬車で通りかかりましたけど、こうして歩くのは初めてです。あ、ニヨルダの衣装! 本当に色んな国の人が行き交ってますね」
 プトレド、ジャハランカ、ボラオルーシ、ビアニア、グリムヒルトと国交のある国々の交易船が所狭しと交易港であるヴィエタ港に停泊している。
 そして屈強な人達が大汗をかきながら大きな木箱を積み下ろししていて、それらはヴィエタ港に隣接する市場で売買されて、グリムヒルトの国内に流通する。
 その市場の通りをサントニア通りという。

「アラギス林道なら、着くのは夕方になる。
 恐らく集落には林道を抜ける旅人相手の宿屋があると思われるので、一泊するのがいいだろう」
「わかりました。幻獣は夜出るらしいですからちょうど良いですね」
 一番街の花街を横目に街を南西に突っ切る。
 郊外に近づくほど街は住宅街になり、更に田園風景が広がる。今は小麦の穂が福福として黄金色の実をつけている。
 もうすぐ収穫の時期だろう。
 グリムヒルトでは年に2回小麦が採れる。
 王都の中心部の喧騒とは違う、長閑な風景だ。
 年に2回も小麦が採れるという事はそれだけたくさんの人を養えるという事なので、その分治安もいい。
 王都周辺は女性が夜一人で歩いていても大丈夫なくらいに安全で、その事自体がグリムヒルトの豊かさを物語ってる。
 もちろん、軍の警備が行き届いている事もあるけれど、やはり豊かである事は人に罪を犯させずに済む事は多々ある。

 こうして王都を歩いていると、陛下の治世が泰平である事を実感する。
 陛下はご自分の事を武断の王だと仰るけど、王都の様子は戦とはほど遠く民の顔もとても明るい。
 陛下は陛下が思っているよりもずっとずっと賢王なのに、自嘲される。
 よく治った街並みや郊外の様子を馬車から見て陛下を想った。

「お疲れではないか?」
 へリュ様が声をかけてくれる。
「大丈夫ですよ! 何故ですか?」
「先程から黙っておられるので疲れられたのかと思った。……私は無骨者故、もしそうであるなら言って頂けると助かる」
「ああ、違いますよ。少し考え事をしていたのです」
「それなら良いが……。先日ウルリッカ殿に叱られた」
「叱られた?」
「王妃は軍人でも剣士でもないのだから、気遣いを忘れるなと。しかし私はそういったものがストンと抜ける。申し訳ない」
 私は慌てて否定する。
「そんなに気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ⁈私だって広い王城を往復して足腰も鍛えられていますし、そもそも、マグダラスでは野山を駆け回ったりしていたので、体力はありますから。心配いらないですよ?」
「そうであれば良いが……」
「さっきは王都はよく治っているなぁと、陛下の治世に感心していただけなのですよ」
「……王都はよく治っている。だが他領には色々ある」
「そうなのですか?」
「……海側の領はまだ良い。内陸側に行けば行くほど、反乱などが起きている」
「……地の民が暴徒化したり、反乱を起こしたりするんですね……」
「そうだ。地の民は搾取されているから、どうしても不満を溜めて暴徒化する。その鎮圧に多くの血が流れる」
「……領兵で収まらない時には王都からも兵を派遣していますね」
「そうだ。戦がない訳ではない」
 国としての法を整備して従わせることは出来るけど、領の統治は領主の権限だから基本的に領主のする事に王は口出し出来ない。
 なので地の民に対する改革もなかなか上手くいかないのが現状なんだと思う。
 きっと陛下も苦慮なさっているんだろう。
「グリムヒルトは完全に平和という訳ではないんですね……」
 自分に出来る事は少ない。
 地の民の姫を正妃に迎えた位ではこの状況はきっと無くならない。
 私に出来る事はなんだろう……。
 そんな事を考えながら、へリュ様と二人、アラギス林道へと急いだ。
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