人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 グリムヒルトのサントニア通りの中でも最も大きな宿屋『波折なおり屋』にシビディアの使者は滞在していた。
 こういう大きな宿屋には必ずある懇談室を一室押さえて、シビディアの『ティオ・ジェルヴェ・シュラール』様を呼び出す。
 懇談室に入って来たのは私と同じ位の男の子。
殆ど銀と言っていいくらいのほんの少しだけ黄味がかった金髪。
 瞳は澄んだ青空の様に綺麗な蒼だ。
 背丈は私よりも頭一つ分大きい位。朗らかに唇には微笑みを乗せて、この辺りやマグダラスでもあまり見かけないゆったりとした長衣を着て、腰紐を巻いている。そのどれもがシンプルだけど、とても仕立てが良いのがわかる。
 その背後にはその男の子の頭がちょうど胸当たりになる位の長身の男性がいた。
 私の様に毛先だけが畝ってしまうウェーブではなく、髪全体がウェーブがかったハッキリとした金髪で少し複雑な虹彩をしている。
 角度によって色々な色に見える不思議な色。
 その長い金髪を三つ編みにして背中に垂らしている。
 そして瞳も同じ様に光を纏う度にキラキラと忙しく色を変えた。
 その人を見た瞬間、私は衝動に駆られた。
そうしなきゃいけないと思って私はすぐに膝を折る。
「お初にお目にかかります。神獣様」
 私はその人に深く叩頭する。
「ありゃ、もうバレちゃった」
 その人は軽い口調でそう言った。男の子はそんなその人にやっぱり軽い調子で不満そうに苦情を述べた。
「もうっ! だから部屋で待っててくださいって言ったんですよ、賢者様」
「立っていいよ、レイティア」
 その人は私にそう命じる。その言葉を受けて、私は立ち上がる。
「レイティアは巫女としての素養が強いんだね。すぐに私の正体に気が付くなんてね。ティオなんて全く気が付かなかったもんね」
「……鈍いって言いたいんでしょ?わかってますよ、自分でも」
 男の子は拗ねた様に言った。
「……と、いう事は王妃様、という事ですよね?」
 この場合、陛下の事も一緒に言った方がいいのかしら?
 チラリと陛下の方を見ると、陛下は黙ってろと瞳で制して来た。
「はい、私はレイティア・エレオノーラ・グランクヴィスト。グリムヒルト王妃です」
「お初にお目にかかります。私はティオ・ジェルヴェ・シュラールと申します」
 私はそのティオと名乗る男の子ににこりと笑って言い連ねた。
「私、本当はグリムヒルトの文官の振りをして使者の方がどんな方なのか拝見しようと思っておりました。でも、まさか神獣様がいらっしゃるなんて夢にも思っていませんでしたから、つい自分から正体を明かしてしまいました。でも、これってとってもアンフェアなのではないですか?」
 男の子は眉尻を下げて微笑む。
 こうして神獣を伴っている時点でこの人はただの使者な筈はない。そして私と同じ年頃のシビディアの要人と言えば、もう思い当たるのは一人だ。
「確かに王妃の仰る通りですね……。では、後ろの護衛の騎士様にも名乗って頂いても宜しいですか?」
 陛下が意地悪な顔をして男の子に笑いかけた。
「こちらもエラくあっさりバレたな。儂を知っておったか?」
 ティオと名乗る男の子は頬を指先で掻きながら困り顔で陛下の方を見た。
「はい。実はお二人のご成婚は遠目ではあるのですが、拝見しておりました。その時に」
 陛下が腕組みしながらティオに問う。
「見たと言っても城のバルコニーは遠かろう?」
「ええっと、一般の方には混じらず、空から拝見しました」
「……成程。騎乗して空から見ておったか。空は警戒させておらなんだ。今後は空にも警戒させよう。助言感謝する、シビディアの王太子殿」
 陛下は不敵に笑う。
 それを受けてティオは改めて礼を取った。
「お初にお目にかかります。グリムヒルト国王陛下、並びにグリムヒルト王妃陛下。私はシビディア王国王太子、ディディエ・ジェスト・ファーヴェルと申します」
その挨拶に応えようと口を開いた時、不意に手を取られた。
「ねえ、レイティア? なんで私がわかったの?」
 まるでフワリと微風の様に私の眼の前にやって来て手を取った、神獣様が人の形態をしたその人は複雑なオパールの様な虹彩の瞳を私に向けて訊ねた。
「あ、あの、それはですね、その複雑な色味には見覚えがあって、産母種のモノと近いなぁと思ったのです。後は……殆ど直感です」
「産母種……。ああ! ライラか!」
 私は神獣様の言葉にハッと顔を上げる。
「あの、あの……、ライラは、無事に神獣様の元に?」
 ついつい取られていた手を握り返す。
「うん、祈りの少ないこの土地で一生懸命に頑張ってくれた仔だ、苦労させてしまったね。……レイティアにとても感謝しているって」
「……そうですか……。今は安らかに?」
 神獣であるその人は、キラキラとしたオパールの様な虹彩の瞳を優しげに細めて微笑みかけてくれた。
「大丈夫だよ。根源である私の元で安らかに眠っているよ」
 私はホッと胸を撫で下ろす。
「レイティアも可愛いなぁ~♡ ねえ? 連れてっていい?」
 握られた手の甲にキスが落とされる。そして耳元に唇が寄せられ、優しく私にしか聞こえない程小さく囁く様に、でも威厳に満ちた声音でハッキリと告げられた。
「アナティアリアス。貴女に神獣の祝福と加護を与える」
 そのついでの様にその唇がフワリと私の頬に乗せられた。
 混乱して赤面した私の目の端には明らかに不機嫌になった陛下と呆れる様に神獣様を見つめて溜息を吐く、シビディアの王太子殿下のお顔が映った。
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