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マルグリット様とエミリア様が私に頭を下げる。
「王妃陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
まずはマルグリット様が私に声をかけ、その後をエミリア様が追った。
「王妃陛下、お招きありがとうございます」
私は席から立ち上がって二人に微笑む。聖母の様な笑みではなくて、近しい人に向ける様に笑って見せた。
「マルグリット様、エミリア様、本日はお運び頂いて、ありがとうございます。いつも助けて頂いているお二人には特別に是非プレゼントしたい物があったのです」
「まあ、なんでしょう?」
マルグリット様は可愛く小首を傾げて私に微笑まれる。本当に可愛らしい方だ。とても歳上だとは思えない位、愛らしい。
「王妃陛下からのプレゼントだなんて、感激ですわ」
エミリア様が溌剌としたお声を弾ませた。相変わらず浅紫の瞳には強い意志が込められて、見つめられると少しドキッとする。
日頃から、お二人には後宮の質素倹約を勧める手助けをしてもらっている。
お二人も私に倣って、不要なドレスや貴金属の購入は控えて下さっている。
だけど、陛下の妾妃としてそれなりに見栄えを整えないといけない場面はたくさんある。そういう時は遠慮なく購入して下さいと言っているけれど、お二人はそれでも控えて下さっている様だ。
そんなお二人に、労いの意味を込めて用意していた物をマリとレーナに持ってきてもらう。
「お二人にこれを」
青いベルベットの化粧箱に仕舞われたそれは、セオ島で採れた大きな緑柱石。その中でも最も陛下の瞳の色に近い、深い南国の海の綺麗な翠。
それをメインに金剛石で加工した、ネックレスとイヤリング。
「ちょうど揃いの緑柱石が採れたそうなので、作って頂きました。きっとお二人共とてもお似合いになると思って」
化粧箱を受け取ったお二人は嬉しそうに笑顔を向けて下さる。
「王妃陛下、こんな素敵な物をありがとうございます」
マルグリット様は優しい笑顔を私に向けて下さった。
エミリア様も同じ様に感激して下さったようで、お礼の言葉を紡がれる。
「本当に素敵な緑柱石ですね。これはどちらの?」
「これは私の持つセオ島で採れた緑柱石を王都の宝石彫刻師に細工して頂きました。お二人をイメージした物です」
「セオ島は今や、大変に人気の観光地ですわよね? 王妃陛下の御手腕、お見事ですわ」
「勤めて下さってる皆の努力の賜物です。私の力ではありません」
エミリア様は口元に手を当てて、淑やかに笑った。
「ご謙遜を。王妃陛下がお輿入れなさってから、陛下もしっかりご政務をなさる様になられて、近頃はお嫌いでいらした視察にまでお出かけになられておりますでしょ?」
「陛下はただ国の安寧を願っておいでなのですよ。私の輿入れとは何の関係ありません」
私が和かにそう答えると、エミリア様は更に目を細めて笑った。
「本当に謙虚でいらっしゃいますわね、王妃陛下。その様なお人柄に陛下もきっと虜になられたのでしょうね」
マルグリット様がエミリア様に同意する。
「本当に。私共にまでこの様にお気遣い下さる方ですもの。陛下からの信頼が厚いのも納得いくというものですわね」
なんだか二人に褒め称えられる様な形になってとても恥ずかしい。
「私はきっとこれで最後のお茶会になりますから、この様なお心遣いを頂けて本当に嬉しいですわ」
マルグリット様は先日、自ら廃妃を陛下に申し出、陛下もそれをお聞き入れになった。彼女が妾妃でいられるのもあと一ヶ月。その後はラルセン家の縁戚にあたる上級官吏の元に後妻としてお嫁にいかれる予定だ。
「寂しくなってしまいますね……。マルグリット様は本当に陛下に献身的に尽くして下さったので、いらして下さるだけでとても心強かったのに」
同じ陛下をお支えする妃として、同志の様に思うマルグリット様が去られるのは、本当に寂しいし、そして心許ない。しっとりと笑っておられるけれど、どこかどっしりとした印象のあるマルグリット様は私にとっても心のどこかで支えになっていた。
「私はただ、陛下をお慰めしていただけですわ。献身的に支え、お慰めして、更にはお助けまでされている王妃陛下には到底及びません」
マルグリット様はふんわりとした笑顔を向けられた。お人柄の出る優しい笑顔だ。
「私は皆に支えられてやっと自分の務めを果たせている様なもの。マルグリット様も私を支えて下さるそのお一人です」
「勿体無いお言葉ですわ、王妃陛下」
「もちろん、エミリア様もです。いつも私の執務や家政も手伝って下さってありがとうございます。私一人ではあまりに膨大な数の書類や家政の整理をこなす事は出来ませんから」
「王妃陛下をお助けするのは妾妃の務めですもの。私は陛下をお慰めする事は出来ませんから、せめて執務や家政でお役に立たなければ」
エミリア様は自身の侍女に私が渡したベルベットの化粧箱を手渡す。そして預けていたドレスと揃いの扇子を受け取った。
「本当に助けて頂いています。もう少し私自身で出来る事が増えるとエミリア様のご負担も軽くなると思うのですが。精進致します」
エミリア様が扇子を開いて口元を隠して笑う。
「まあ、王妃陛下が今よりももっとご活躍なさると私の立場が無くなってしまいそうですわ」
冗談めかしてそう言った時大勢の武装した兵士達が会場に乱入してきた。
兵士達は皆、左腕に黄色い布を巻いている。
「動くな! この場は我々が占拠した! これより、我々の指示に従って頂く!」
……え? これってもしかして、謀反……?
「王妃陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
まずはマルグリット様が私に声をかけ、その後をエミリア様が追った。
「王妃陛下、お招きありがとうございます」
私は席から立ち上がって二人に微笑む。聖母の様な笑みではなくて、近しい人に向ける様に笑って見せた。
「マルグリット様、エミリア様、本日はお運び頂いて、ありがとうございます。いつも助けて頂いているお二人には特別に是非プレゼントしたい物があったのです」
「まあ、なんでしょう?」
マルグリット様は可愛く小首を傾げて私に微笑まれる。本当に可愛らしい方だ。とても歳上だとは思えない位、愛らしい。
「王妃陛下からのプレゼントだなんて、感激ですわ」
エミリア様が溌剌としたお声を弾ませた。相変わらず浅紫の瞳には強い意志が込められて、見つめられると少しドキッとする。
日頃から、お二人には後宮の質素倹約を勧める手助けをしてもらっている。
お二人も私に倣って、不要なドレスや貴金属の購入は控えて下さっている。
だけど、陛下の妾妃としてそれなりに見栄えを整えないといけない場面はたくさんある。そういう時は遠慮なく購入して下さいと言っているけれど、お二人はそれでも控えて下さっている様だ。
そんなお二人に、労いの意味を込めて用意していた物をマリとレーナに持ってきてもらう。
「お二人にこれを」
青いベルベットの化粧箱に仕舞われたそれは、セオ島で採れた大きな緑柱石。その中でも最も陛下の瞳の色に近い、深い南国の海の綺麗な翠。
それをメインに金剛石で加工した、ネックレスとイヤリング。
「ちょうど揃いの緑柱石が採れたそうなので、作って頂きました。きっとお二人共とてもお似合いになると思って」
化粧箱を受け取ったお二人は嬉しそうに笑顔を向けて下さる。
「王妃陛下、こんな素敵な物をありがとうございます」
マルグリット様は優しい笑顔を私に向けて下さった。
エミリア様も同じ様に感激して下さったようで、お礼の言葉を紡がれる。
「本当に素敵な緑柱石ですね。これはどちらの?」
「これは私の持つセオ島で採れた緑柱石を王都の宝石彫刻師に細工して頂きました。お二人をイメージした物です」
「セオ島は今や、大変に人気の観光地ですわよね? 王妃陛下の御手腕、お見事ですわ」
「勤めて下さってる皆の努力の賜物です。私の力ではありません」
エミリア様は口元に手を当てて、淑やかに笑った。
「ご謙遜を。王妃陛下がお輿入れなさってから、陛下もしっかりご政務をなさる様になられて、近頃はお嫌いでいらした視察にまでお出かけになられておりますでしょ?」
「陛下はただ国の安寧を願っておいでなのですよ。私の輿入れとは何の関係ありません」
私が和かにそう答えると、エミリア様は更に目を細めて笑った。
「本当に謙虚でいらっしゃいますわね、王妃陛下。その様なお人柄に陛下もきっと虜になられたのでしょうね」
マルグリット様がエミリア様に同意する。
「本当に。私共にまでこの様にお気遣い下さる方ですもの。陛下からの信頼が厚いのも納得いくというものですわね」
なんだか二人に褒め称えられる様な形になってとても恥ずかしい。
「私はきっとこれで最後のお茶会になりますから、この様なお心遣いを頂けて本当に嬉しいですわ」
マルグリット様は先日、自ら廃妃を陛下に申し出、陛下もそれをお聞き入れになった。彼女が妾妃でいられるのもあと一ヶ月。その後はラルセン家の縁戚にあたる上級官吏の元に後妻としてお嫁にいかれる予定だ。
「寂しくなってしまいますね……。マルグリット様は本当に陛下に献身的に尽くして下さったので、いらして下さるだけでとても心強かったのに」
同じ陛下をお支えする妃として、同志の様に思うマルグリット様が去られるのは、本当に寂しいし、そして心許ない。しっとりと笑っておられるけれど、どこかどっしりとした印象のあるマルグリット様は私にとっても心のどこかで支えになっていた。
「私はただ、陛下をお慰めしていただけですわ。献身的に支え、お慰めして、更にはお助けまでされている王妃陛下には到底及びません」
マルグリット様はふんわりとした笑顔を向けられた。お人柄の出る優しい笑顔だ。
「私は皆に支えられてやっと自分の務めを果たせている様なもの。マルグリット様も私を支えて下さるそのお一人です」
「勿体無いお言葉ですわ、王妃陛下」
「もちろん、エミリア様もです。いつも私の執務や家政も手伝って下さってありがとうございます。私一人ではあまりに膨大な数の書類や家政の整理をこなす事は出来ませんから」
「王妃陛下をお助けするのは妾妃の務めですもの。私は陛下をお慰めする事は出来ませんから、せめて執務や家政でお役に立たなければ」
エミリア様は自身の侍女に私が渡したベルベットの化粧箱を手渡す。そして預けていたドレスと揃いの扇子を受け取った。
「本当に助けて頂いています。もう少し私自身で出来る事が増えるとエミリア様のご負担も軽くなると思うのですが。精進致します」
エミリア様が扇子を開いて口元を隠して笑う。
「まあ、王妃陛下が今よりももっとご活躍なさると私の立場が無くなってしまいそうですわ」
冗談めかしてそう言った時大勢の武装した兵士達が会場に乱入してきた。
兵士達は皆、左腕に黄色い布を巻いている。
「動くな! この場は我々が占拠した! これより、我々の指示に従って頂く!」
……え? これってもしかして、謀反……?
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