人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 お客様達は三部に別れて解放された。
 元々、彼らは純血の海の民の方が大半だったので、叛逆軍は最初から解放する気だったようだ。
 妾妃のお二人や数十名の侍女達も解放する様に訴えたけど、それは聞き入れてもらえなかった。
 私付き侍女や妾妃のお二人の侍女達は気を張ってるのか険しい顔をして状況を見守っているけど、今回お茶会の手伝いで給仕などをしていただけの侍女達は抱き合いながら泣き崩れている子もいる。
 私はその子達に声をかける。
「大丈夫よ。貴方達に危害が及ぶ事はないから。安心して」
 努めて笑顔を振り撒く。
「王妃陛下……。私、怖いです」
「大丈夫。何も怖い事なんてないわ。私が他国に赴けばそれで納得する様だから、貴女達は何にも心配要らないのよ」
「でも……、それでは王妃様が……」
「私は元々他国の人間だもの。どこで暮らそうと国が変わっただけの事でしょ? どこでだって暮らしていけるわ」
 マリが私に耳打ちする。
「レイティア様? 本気で仰ってる訳ではありませんよね? そんな事陛下がお許しになる筈がありません」
 私もこっそりマリの耳元に話しかける。
「状況が変わらない限り、条件を呑むと答えるしかないでしょう?」
「……私はどこへでもどんな国にでもお供します」
 マリが彼女らしい優しい目元を更に綻ばせて微笑んだ。
「私も、ご一緒します」
 レーナも強い決意を宿したような瞳で私を真っ直ぐ見つめた。
 私は二人ににっこり笑った。
「ありがとう、二人とも」
 膠着状態が続いて、結局夜になってしまう。
 この海遊庭園は半分テラスになっているから、夜風の潮風が吹き抜けて少し寒い。
 皆疲れの色が隠せない。そんな中でも妾妃のお二人は凛と椅子に腰掛け、落ち着いた佇まいだ。
 一人の侍女が私の横にスッと自然な形で並んだ。
「王妃陛下。ハーヴィスト閣下からの託けです。後約30分後にこの場所を制圧しに来ますとの事です。それまで私が御身をお守り致します」
 こっそりと話しかけられたその声音には聞き覚えがある。
「サリさん。宰相様と法相様の状況はわかりますか?」
「カーサライネン閣下は一時執務室にて拘束されましたが、ハーヴィスト閣下は御不在でした。機転を効かせたルオマ補佐官がハーヴィスト閣下の振りをなさった様です」
「なるほど、それで宰相様は自由が効く訳ですね。法相様はご無事なのですか?」
「現在、交戦中です」
「サリさん、私は大丈夫ですから、法相様をお助けしてくれませんか?」
「ハーヴィスト閣下が王妃陛下ならそう仰るだろうと言っておられました。ですが私にはもう一つ与えられた任務があります。ここに残って内側から敵を確固撃破する事です」
「外と内、双方から同時攻撃を仕掛ける訳ですね」
「その通りです」
 どおりで時間がしっかりと指定されてる訳だ。
 今、敵はきっと法相様達の対応で手一杯だろう。宰相様はそれを陽動にして、私を助けて下さるつもりなのだと思う。
 これがシビディアの王太子殿下の仰っていた、グリムヒルトの将の得意な『いざという時の連携』だ。
 以前、陛下にお聞きした事があった。
 陛下や重臣の皆さんは本当に仲が良いのですねと。
 そうすると陛下は仲がいいと言う訳ではなく、海戦では密な連絡は取り辛い。故に個々の判断が大きく戦況に影響するのだそうだ。
 なので、共に戦う将の得意な戦法や性格を把握しておく必要があるのだと仰っていた。
 陛下達の信頼関係は戦いの中で培ったもので、馴れ合いではないのだと思い知った。多分、ただ仲がいい以上の信頼関係なのだろう。
 ここは私がしゃしゃり出るよりも、宰相様と法相様とサリさんにお任せするのがいい。
「わかりました。サリさん、どうか無理はなさらないで下さいね?」
「御意」
 サリさんと話終えて20分ほど経って、先ほどのヒョロリと背の高い軍人が私の元にやってきた。
「さあ王妃、約束通り一緒に来て頂こう」
「……そろそろ行き先を教えても良いのではありませんか?」
 後10分、なんとか時間を稼がないと。
「王妃には海を渡って頂く。その後はさる国の要人が王妃を愛人として囲って下さる」
 え? ちょっと待って? 私、どこかに幽閉されるのだと思っていたけど、どこかの国の要人の愛人になるの? そんなの絶対に嫌だ!
「……他国の要人とは?」
「それは出発されてからお教えする」
「私の貞操は陛下にのみ捧げております。幽閉ならば甘んじて受け入れますが、愛人になれとの要求は受け入れかねます。せめてその国の名だけでも今この場で教えなさい」
 男は冷ややかな目で私を見つめた。
「時期を見て、王妃に返り咲こうという魂胆か? 小賢しい女だ。これだから地の民の女は油断ならん」
 海に隣接しているこの庭園には、ちょっとした船着場があって、小型の遊覧船位なら乗り入れができる。その船着場に一隻の舟が着岸した。
「さあ、時間だ、王妃。話は舟に乗ってからだ」
「国の名を言わないのであれば、乗りません」
 忌々しげに私を見た男は吐き捨てるように言った。
「国を教えれば乗るのだな? 王妃がこれから暮らす国はビアニアだ。さあ、乗れ!」
 男は私の前に進み出て、腕を掴もうとする。その間にマリが割って入った。
「レイティア様に触れないで! レイティア様のお世話をする者が必要でしょう? 私を一緒に連れて行きなさい!」
 男はマリの肩を掴んで払い除けた。マリは倒れ込んでしまう。
「どけ! 行くぞ、王妃!」
「マリ! 大丈夫ですか?! 非戦闘員の婦女子に乱暴を働くなんて、貴方には軍人としての矜持はないのですか?!」
 倒れるマリを抱き起こしながら、男を睨め付けた。
「黙れ! さあ、さっさと立て、王妃!」
 男が私の腕を掴もうとしたその時、サリさんが男に短剣を突きつけた。
「……時間だ」
 そうサリさんが呟いた途端、庭園の出入り口からけたたましい叫び声が聞こえた。

「うわぁあぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!」
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