人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 宰相様の後に付いていく。宰相様の指示に従って、彼の背中に隠れた。
 あの庭園から私の知る一番近い抜け路の入り口は王妃の間だ。
 私は侍女の格好をして宰相様と二人、いつ敵と出くわすかわからない王城内を移動している。
 服はサリさんと交換した。
 宰相様が小さな声で私に話しかけた。
「ここの廊下は大丈夫そうです。行きましょう」
「はい」
 私達は廊下に出て、一気に駆け抜けた。次の角を曲がれば王妃の間だ。
 王妃の間の前には黄色い布の兵士達がいる。
「ありゃ、押さえられてますね」
「ここに抜け路がある事が知られているのでしょうか?」
「いや、一概にはそうとも言えません。ここに王妃が戻る事を想定して捕らえようと思っているのでしょう」
「では、陛下のお部屋からの入り口でも問題ないです。そちらに変更しましょうか?」
「いや、あの程度の人数ならどうにでもなりますよ」
 五人もいるのに凄い。確かに宰相様のお強さなら、並の兵士程度ならなんて事ないだろう。
「王妃、隠れていて下さい」
「はい」
 宰相様の指示に従って角の影に隠れて待つ。宰相様はあっという間に五人を屠ってしまった。
「もう大丈夫ですよ」
「はい。ありがとうございます」
 倒れ込んだ黄色い布の兵士達の脇を通る。
 一人の男が呻き声を上げた。
「……ぅぅぅ……」
 私は膝を付いてその男の手を取る。
 その男は的確に急所を切られているので、きっともう助からない。
「……何か言いたい事はある?」
「…………しに……たくなぃ……」
「……大丈夫よ、今薬師が来てくれるから」
「……こぇ……よ……」
「ちゃんと付いていてあげるから。怖くなんてないわ」
 ぎゅっと手を握ると男はポロリと涙を流して息絶えた。
 男の手を取りながら、片手で目を閉じさせる。そして握っていた手をそっと下ろして両手を組ませた。それが終わると笑顔で宰相様を振り返った。
「お待たせしました。行きましょう?」
「……何故、彼らに情をかけるのですか?」
 宰相様は神妙な顔で私に訊ねた。
「だって、彼らは陛下の民ですから」
「彼らは叛逆者です」
 私は宰相様に微笑む。
「ならば尚更、この人達はやっぱり陛下の民です。決して反意があったわけではないでしょう?」
「彼らは貴女を排斥しようとしています」
「それはもしかしたら正しい事かもしれないでしょう?」
「正しいはずがないでしょう?! 陛下は貴女が来てから明らかに変わった。民を想う貴女の願いに応えようと自ら動く事を厭われる事も無くなった。我らグリムヒルトの民は貴女に救われたのです!」
「でも、私が嫁いでから陛下が着手された事は、地の民にとって有利な事ばかりです。不満に思う者がいるのも仕方がないと思うのです」
「今までが異常だったのですから、そんな事は当たり前でしょう?! 何も貴女が責を負い、ましてや排斥などされる謂れは何処にもない!」
「私だって彼らが正しいとは思っていませんよ? 叛逆というやり方は間違ってるし、剣を手に取るよりもまず、出来る事があったはずです。でも、間違っていたとしても、彼らが陛下を想っているのは事実ですもの」
「……」
「あのね? 宰相様。私が陛下をお諌めする内容が本当に正しいのか、私、この間の陛下とシビディアの王太子殿下との会談で、わからなくなってしまったんです。グリムヒルトのような大国が国交を結ぶ事で寿命を縮めるなんて、想像もしなかった」
「……俺もです」
「陛下の見えてらっしゃる事は私達よりもずっと、深くて遠い。私の様に目先のモノしか見えてない者にはわからない事が見えてらっしゃるのかもしれないと、改めさせられました。だから、私の考えが必ずしもグリムヒルトの民の為になるとは限らないって思うんです」
「……一つだけ、お諌めさせて頂きます」
 宰相様は神妙な顔を崩さずに私を見つめて言った。私は小首を軽く傾げて先を促す。
「だからと言って、変わらないで下さい。貴女は貴女のままでいい。陛下もそうお望みです」
「そうでしょうか? だといいのですけど」
 私は宰相様に悪戯っぽく笑った。それを受けて、宰相様もまたいつもの笑顔に戻られた。
「王妃がお諌めして下さらないと、陛下が怠け者に戻ってしまいますから。そんな事になったらまた俺の仕事が増えて休暇も取れやしません」
 また大袈裟に芝居がかった様子で溜息を吐かれたので、私は可笑しくなった。
「うふふ。宰相様にはしっかりお暇を取って頂いて、しっかり勤めて頂かないと。ちゃんと陛下をお諌めしますから、ご安心下さい」
 私達はしばしの間、小さく笑い合った。
 ひとしきり笑い合って、私が膝をポンと打った。
「さあ、そろそろ行きましょう」
「はい、王妃はこの城内の現状を陛下にお伝え下さい。俺はここをどの位お守りすれば良いですか?」
「着替えは抜け路に置いてありますから、大丈夫。すぐに法相様をお助けしてあげて下さい」
「本当に大丈夫ですか?」
「抜け路に入ってしまえばきっと誰にも見つからないでしょうから、大丈夫です」
 宰相様は私に手を差し伸べた。
「ありがとうございます」
 私はその手を取って、立ち上がらせて貰う。
「さあ、行って下さい」
「宰相様?」
「はい?」
「これは王妃としての命です」
「なんでしょう?」
「決して死んではなりません。法相様にも伝えて下さい」
 宰相様は恭しく頭を下げた。
「御意」
「きっと陛下も同じ命を下すはずです」
 廊下の向こうからバタバタと複数の走る足音と怒声が聞こえる。
「王妃の部屋はこっちだ!」
 その声が聞こえた途端、宰相様は私の腕を掴んで王妃の間に私を押し込んで扉を閉めた。
「お早く」
 そう一言だけ告げると、駆ける足音がして扉の向こうに人の気配は無くなった。

 私は後ろ髪を引かれる思いで王妃の間の寝室に急いだ。
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