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陛下と私は今、王都の最大のお祭り、プストに来ている。
私達はまた露店で買った仮面をつけて、音楽で賑やかされ、色鮮やかに飾られた街並みを手を繋いで歩いている。
「アナバス様? 今度はあのお店を見てみてもいいですか?」
「ああ、構わん」
私は興奮気味に露店を覗く。
可愛い小物が売っている露店やアクセサリーを売る露店、壺や日用品の陶器なんかを扱う露店、焼き立ての魚を売る露店、丸焼きの肉を削いで売ってくれる露店、色んな国の色んな文化がここに集まっていて、私は楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
何よりも、今私の隣にはアナバス様が居る。
その事実が嬉しくて、とても興奮してはしゃいでしまった。
もしビアニアに連れ去られていたら、この楽しい時間は過ごせなかっただろう。
皆の協力のおかげで私は連れ去られずに済んだ。本当に感謝しかない。
しかも王城はまだまだ落ち着かないというのに、宰相様は陛下とこうしてプストに出かける事を許して下さった。
明るい音色のマンドリンの奏でる音楽はワクワクしてくるし、山車の上からファベルのお姉さん達が撒いている花びらはヒラヒラと宙を舞って、花の香りが鼻腔をくすぐって、煌びやかで幻想的だ。
やっぱり陛下はファベルのお姉さん達から何度も花を贈られていたけど全部断っていた。
めいっぱい昼間の喧騒を楽しんで、夜になる。
今年もやっぱり広場に大きな燎火が焚かれ、その周りを老若男女問わず、色々な人達が楽し気に踊っている。
はしゃぎ過ぎて疲れてしまった私は陛下と二人、燎火から少し外れたちょっとしたベンチに腰掛けている。
「アナバス様? 今年もつれて来てくれてありがとうございます!」
「ああ。お前が喜ぶのなら毎回来ても構わんぞ」
そういえば、冬のプストには参加した事がない。
「冬のプストは何か違いがあるのですか?」
「特に大きな違いはないな。夏よりも気候が良い分、人の数はもっと増える。他領からはもちろん、他国からもこの祭り目当てに人が多数やって来る」
「これよりももっと賑わうのですか?! 凄いですね!」
「前回は結婚式の準備が忙しかったから来られなかったが次回の冬のプストには参加しよう」
「はい!」
私はその約束が嬉しくついついにやけてしまう。
そんな私を見て、陛下は優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「お前は変わらないな。嫁ぐ前から何も変わらない」
「そうでしょうか……。それでは困ってしまいます……」
「勤めはよく果たしてくれている。そういう意味ではない。お前の心根は初めて逢ったあの時から何も変わらない」
「そうですか? ふふっ……。なんだかずっと昔の様な気もしますし、つい昨日の事の様にも思います」
初めて逢った時の事を思い出す。
あの時の私はとても緊張していた。だって、陛下のお噂はとても怖い方だってものばかりだったし、私の肩にマグダラスの行く末がかかってるかと思うと、本当に怖かった。
でも、陛下と初めて目が合った時、何か、初めて逢った気がしなくて、懐かしいような、泣き出したくなるような、そんな気持ちが過ぎったのを覚えている。
話しかけて下さる陛下はお噂とは全然違ってとても優しくて、心から安堵してそして何かとても嬉しくなってしまった。
それで調子に乗ってたくさんたくさんお喋りをして疲れ果てて眠ってしまうという失態を犯してしまった。
「ティア。お前はそのままでいい。ずっと変わらずそのままで、俺の傍にいてくれ」
「……。ふふっ。本当に仰って下さった通りでした」
陛下のお顔に疑問が浮かぶ。
「宰相様に言われたのです。そのままでいい、アナバス様もそう望んでいるからって」
「……そうか」
「アナバス様? 私、今回の事で本当にこのグリムヒルトが大好きで、この国でアナバス様と共にいたいって、実感しました。……なので、ずっとずっと、お傍に置いて下さいね」
私はこの国に来られて本当に良かったし、幸せだ。
だって、ここにはアナバス様がいるのだもの。
そんな物思いにふけりながら、陛下のお顔をじっと見つめていると陛下は私の頬に優しく触れて、優しい優しいキスをしてくれた。
……まるで、木の上で初めて口づけてくれた時の様に。
「……あの……、アナバス様……」
私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。きっと顔は真っ赤だろうけど、燎火に照らされて気づかれずに済みそうだ。
だけど、そんな私の顎を優しく引き上げて、陛下は真剣な眼差しで私の目を覗き込んだ。
「俺はお前が好きだ。愛している。誰よりも」
その南国の海の様な綺麗な翠の瞳の中に戸惑う私の姿が映ってる。
だって、陛下がこんな風に面と向かって好きだと、愛してると言ってくれたのは初めてだから。
「……あの……、わた……、私も……です……、アナバス様……、あ、愛しています」
私は恥ずかしいのを堪えて、しどろもどろになってしまったけど、お応えする。
そんな私を陛下は優しく抱きしめてくれた。
「……あの? でも、どうして……?」
陛下は私の髪を優しく撫でながら答えてくれた。
「よくよく考えてみれば、面と向かって言葉にした事はなかったと思ってな。俺はもう、お前なしでは生きてはいけん。俺の様な禄でもない男に愛想を尽かす事無く、ずっと傍にいてくれ」
陛下の腕にぎゅっと力が篭もったから、私は陛下の背中に腕を回す。
こんなに安心する温もりを、私は他に知らない。
こんなに懐かしい気持ちで胸が締め付けられそうになる香りを、私は他に知らない。
こんなに耳に心地いい響きのお声を、私は他に知らない。
この気持ちはきっと、どんな言葉を尽くしても正しくは伝わらない。
だから私は、たった一言だけ、陛下の耳元で囁いた。
「生涯、私はアナバス様だけのものです」
更に陛下の私を抱く腕に力が篭もる。長い長い間、私たちはそうしてた。
昼間の明るい音色とは違う、マンドリンの優しい音色が辺りを包む。
わははと燎火の傍で歓声が上がる。
そんな全部が遠く遠く感じられて、ただただ、その温もりを、香りを、耳に拾う鼓動を味わう様に何よりも近くに感じられる幸せを私は堪能していた。
そして、プストの夜は賑やかに更けていく……。
私達はまた露店で買った仮面をつけて、音楽で賑やかされ、色鮮やかに飾られた街並みを手を繋いで歩いている。
「アナバス様? 今度はあのお店を見てみてもいいですか?」
「ああ、構わん」
私は興奮気味に露店を覗く。
可愛い小物が売っている露店やアクセサリーを売る露店、壺や日用品の陶器なんかを扱う露店、焼き立ての魚を売る露店、丸焼きの肉を削いで売ってくれる露店、色んな国の色んな文化がここに集まっていて、私は楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
何よりも、今私の隣にはアナバス様が居る。
その事実が嬉しくて、とても興奮してはしゃいでしまった。
もしビアニアに連れ去られていたら、この楽しい時間は過ごせなかっただろう。
皆の協力のおかげで私は連れ去られずに済んだ。本当に感謝しかない。
しかも王城はまだまだ落ち着かないというのに、宰相様は陛下とこうしてプストに出かける事を許して下さった。
明るい音色のマンドリンの奏でる音楽はワクワクしてくるし、山車の上からファベルのお姉さん達が撒いている花びらはヒラヒラと宙を舞って、花の香りが鼻腔をくすぐって、煌びやかで幻想的だ。
やっぱり陛下はファベルのお姉さん達から何度も花を贈られていたけど全部断っていた。
めいっぱい昼間の喧騒を楽しんで、夜になる。
今年もやっぱり広場に大きな燎火が焚かれ、その周りを老若男女問わず、色々な人達が楽し気に踊っている。
はしゃぎ過ぎて疲れてしまった私は陛下と二人、燎火から少し外れたちょっとしたベンチに腰掛けている。
「アナバス様? 今年もつれて来てくれてありがとうございます!」
「ああ。お前が喜ぶのなら毎回来ても構わんぞ」
そういえば、冬のプストには参加した事がない。
「冬のプストは何か違いがあるのですか?」
「特に大きな違いはないな。夏よりも気候が良い分、人の数はもっと増える。他領からはもちろん、他国からもこの祭り目当てに人が多数やって来る」
「これよりももっと賑わうのですか?! 凄いですね!」
「前回は結婚式の準備が忙しかったから来られなかったが次回の冬のプストには参加しよう」
「はい!」
私はその約束が嬉しくついついにやけてしまう。
そんな私を見て、陛下は優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「お前は変わらないな。嫁ぐ前から何も変わらない」
「そうでしょうか……。それでは困ってしまいます……」
「勤めはよく果たしてくれている。そういう意味ではない。お前の心根は初めて逢ったあの時から何も変わらない」
「そうですか? ふふっ……。なんだかずっと昔の様な気もしますし、つい昨日の事の様にも思います」
初めて逢った時の事を思い出す。
あの時の私はとても緊張していた。だって、陛下のお噂はとても怖い方だってものばかりだったし、私の肩にマグダラスの行く末がかかってるかと思うと、本当に怖かった。
でも、陛下と初めて目が合った時、何か、初めて逢った気がしなくて、懐かしいような、泣き出したくなるような、そんな気持ちが過ぎったのを覚えている。
話しかけて下さる陛下はお噂とは全然違ってとても優しくて、心から安堵してそして何かとても嬉しくなってしまった。
それで調子に乗ってたくさんたくさんお喋りをして疲れ果てて眠ってしまうという失態を犯してしまった。
「ティア。お前はそのままでいい。ずっと変わらずそのままで、俺の傍にいてくれ」
「……。ふふっ。本当に仰って下さった通りでした」
陛下のお顔に疑問が浮かぶ。
「宰相様に言われたのです。そのままでいい、アナバス様もそう望んでいるからって」
「……そうか」
「アナバス様? 私、今回の事で本当にこのグリムヒルトが大好きで、この国でアナバス様と共にいたいって、実感しました。……なので、ずっとずっと、お傍に置いて下さいね」
私はこの国に来られて本当に良かったし、幸せだ。
だって、ここにはアナバス様がいるのだもの。
そんな物思いにふけりながら、陛下のお顔をじっと見つめていると陛下は私の頬に優しく触れて、優しい優しいキスをしてくれた。
……まるで、木の上で初めて口づけてくれた時の様に。
「……あの……、アナバス様……」
私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。きっと顔は真っ赤だろうけど、燎火に照らされて気づかれずに済みそうだ。
だけど、そんな私の顎を優しく引き上げて、陛下は真剣な眼差しで私の目を覗き込んだ。
「俺はお前が好きだ。愛している。誰よりも」
その南国の海の様な綺麗な翠の瞳の中に戸惑う私の姿が映ってる。
だって、陛下がこんな風に面と向かって好きだと、愛してると言ってくれたのは初めてだから。
「……あの……、わた……、私も……です……、アナバス様……、あ、愛しています」
私は恥ずかしいのを堪えて、しどろもどろになってしまったけど、お応えする。
そんな私を陛下は優しく抱きしめてくれた。
「……あの? でも、どうして……?」
陛下は私の髪を優しく撫でながら答えてくれた。
「よくよく考えてみれば、面と向かって言葉にした事はなかったと思ってな。俺はもう、お前なしでは生きてはいけん。俺の様な禄でもない男に愛想を尽かす事無く、ずっと傍にいてくれ」
陛下の腕にぎゅっと力が篭もったから、私は陛下の背中に腕を回す。
こんなに安心する温もりを、私は他に知らない。
こんなに懐かしい気持ちで胸が締め付けられそうになる香りを、私は他に知らない。
こんなに耳に心地いい響きのお声を、私は他に知らない。
この気持ちはきっと、どんな言葉を尽くしても正しくは伝わらない。
だから私は、たった一言だけ、陛下の耳元で囁いた。
「生涯、私はアナバス様だけのものです」
更に陛下の私を抱く腕に力が篭もる。長い長い間、私たちはそうしてた。
昼間の明るい音色とは違う、マンドリンの優しい音色が辺りを包む。
わははと燎火の傍で歓声が上がる。
そんな全部が遠く遠く感じられて、ただただ、その温もりを、香りを、耳に拾う鼓動を味わう様に何よりも近くに感じられる幸せを私は堪能していた。
そして、プストの夜は賑やかに更けていく……。
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