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第6話 それぞれの想い
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「大丈夫かしら…… 透君」
玄関で透を見送った後、階段で二階に上って悠馬の部屋のドアをノックしてドア越しに悠馬に話しかける。
「ユウ、起きてる?」
「うん、起きてるよ。何か下でドタバタ聞こえたんだけど、何かあったの?」
「ちょっと透君とリビングでお話ししてたんだけど、体調を崩しちゃったみたいなのね」
「えっ? やだっ、透君がリビングに居たの? 帰ったんじゃなかったの?」
「うん、噂の透君と少しお話してみたくてね」
若干の間があった後、悠馬らしからぬドスの利いた声で母親を問いただす。
「……変な事…… 話してないでしょうね……?」
「私は聞いてた側だからね…… 色々教えてもらったよ、特に校内女装コンテスト三連覇の事とか」
「あっ、あれは…… みんながどうしてもっていうから出ただけで…… 本当は…… あんな目立ち方はしたくなかったんだけど……」
悠馬はまさかあれが母親の耳に入るなんて思っておらず、焦ったような口調で否定するが、それでも満更でもなかったように感じる。
「フフッ、まあいい経験が出来て良かったじゃない。それよりも、ユウは本当にいいの?」
悠馬が決断した事とはいえ、後悔はないのか? と母親は神妙な面持ちで念押しで悠馬に問いただす。
「うん、自分で決めたことだから。それよりもお母さんに色々迷惑かけちゃってゴメンね」
「気にしないの! 私はユウの意思を尊重します。だから、自分のやりたい事をやりなさい。お母さんは最大限サポートをしていくから」
「……ありがとう」
「ご飯できたら呼ぶから、もう少し待っててね」
そう言うと、悠馬の母親は階段を下りて行った。周りに誰も居なくなった悠馬は一人で小さく何か呟いていた。
「待っててね、――」
◆
悠馬の家を訪ねた時間は昼過ぎだったのにもう辺りは暗くなっていた。
空を見上げて大きく深呼吸をして先程あった嘔吐感を紛らわそうとしていた。
その直後、後方から突然背中を何かにより強打して蹲ってしまった。
何が起きたのか皆目見当がつかない透はその方向を振り向くと腕を組んで仁王立ちした鬼…… もとい、明日奈が立っていた。
「おい、ヘラヘラ男。お前は悠馬の家で何をしていた」
「いたたた、なんだ明日奈か。何って…… ていうか何でそんな事を君が知ってるんだよ…… あっ、そういえば隣の家だっけ?」
確かに悠馬の家を探している最中に「喜多川」と書かれた表札を見たことを思い出していた。
それなら入るところを見られてもおかしくはないが、明日奈がまさか悠馬の家を監視してるのでは? などと邪推したが強ち間違いではない。
そんな明日奈は仁王立ちしたまま、振り返った透の胸元にトイレで発生したイベントの残骸がこびりついたモノが視界に入った。
「ちょっと、胸元のそれは何なのよ? アンタ…… まさか、瑠璃さんに迷惑かけてないでしょうね」
「瑠璃さん……? あぁ、悠馬のお母さんの事か」
その単語を聞いた明日奈は怒りのあまり地べたに座っていた透の顔面に蹴りを飛ばそうとしたが、透の奇跡的な反射神経のおかけで見事に回避した。
「アンタにお義母さん呼びを許した覚えはない!」
「なんで君の許可がいるんだよ! っていうか名前知らなかったんだから他に呼び方がなくても仕方ないだろう?」
(なんか微妙に会話が噛み合ってなかったけど、気のせいかな?) ※気のせいではない
「チッ、いい訳だけはいっちょ前なのね。まあいいわ、ちょっと着いてきなさい」
「えっ…… なんで?」
「はぁ? こんな道のど真ん中で言い争いなんかしてる所を近所の人に見られてみなさいよ。痴話喧嘩かと思われるかもしれないでしょ」
「えぇ、面倒だなあ。別に近所の人くらいなら見られても良くない?」
「ここはアタシの実家の近所なの! 万が一、アンタみたいな気の利かない鈍感ヘラヘラすっとこどっこいと一緒にいる所を見られでもしたら、たまったもんじゃないわ」
「わかった、わかった。俺の呼び名がどんどん長くなる前にサッサと行こう」
「近くに公園があるからそこに行くわよ」
明日奈が指した指の先にある公園に行くために立ち上がり、一旦伸びをする。
そのまま見上げた空に浮かんだ月を見ながら「悠馬、今何をしてるんだ?」と呟く。
それを見た明日奈はイライラを募らせて声を張り上げる。
「黄昏時でもないのに何を黄昏てんのよ。すっとこどっこいクソヤロー! さっさと来なさい」
「……あぁ、今行く……」
◆
明日奈は公園入口の自動販売機でコーヒーを二つ買うと一つを透に投げつけた。
思ったより高速に顔面に迫った為、回避しながらなんとかキャッチ。
「あっぶな! 君は俺の事を嫌いなだけじゃなくて恨みまであるのか?」
「さぁ?」
すっとぼける明日奈は心の中で透に対する怒りゲージを淡々と溜めて物騒な事を考えている。
(何でないと思ってるのかしら? 鈍すぎてキレそうなんだけど! それにコイツと話をしているとあの時の事をどうしても思い出しちゃう。あー、ダメだわ。今すぐコイツを道場に連れ込みたいわ。組手の最中による不幸な事故なら骨の四、五本くらいセーフよね)
その様子を見た透は若干、明日奈から距離を取る。
「君の思い出し笑いはを夜にあまり見たくないんだよね。何しろ、君の笑い方って邪悪さを感じるからさ……」
(はい、骨三本追加入りまーす)
二人は公園のブランコにそれぞれ座るとコーヒーを飲み、一息ついてから明日奈が口を開いた。
「で、結局悠馬には会えたの?」
「いや、本人は「会いたくない」だそうだ……」
「じゃあ、悠馬は部屋の中でずっと私の事を考えて続けているのかもしれないわね。ウフフ、悠馬の心を独り占めよ」
「どんだけ前向きなんだ、君は……。あと、瑠璃さんから色々聞かれたよ。」
「ふーん、どんな内容?」
瑠璃との会話内容に隠すべき内容は特にないと判断したため、透は部活の事、校内女装コンテスト
そして……
透と明日奈のニセモノの関係の事……
「やっぱ気付いてたんだ…… 瑠璃さんに隠し事はやっぱり無理だったわね。あの人、鋭い所あるから…… 多分悠馬にもこの事も言わないと思う」
「あぁ、そんなこと言ってたね。 ……そもそも君がこういう行動に出たのって1年の夏に何かがあったからじゃないのか?」
「…………」
「君は俺を巻き込んだんだから、その辺りを説明する義務くらいはあると思うよ」
確かにキッカケはあの事…… そして透を巻き込んだのは他でもない明日奈。
故に明日奈自身もそれは理解して透に説明する事にした。
「…… まあ、いいわ。教えてあげる。1年の夏休みの時、私は悠馬に告白をしたの…… 十年分のありったけを込めた愛の告白…… でもダメだった。私じゃ悠馬には届かなかったんだ」
明日奈は空に浮かんだ月に手を伸ばして捕まえようとする。しかし、その掌に掴めたものはなかった。
(逆だと思ってた……。てっきり悠馬が明日奈に告白して振られたのだと思っていた。それでギクシャクするのは分かるんだけど‥‥ だったらあの時、どうしてあんな表情をしたんだ。もしくは振った事を後悔して……? 実は明日奈に未練があったとか……?)
透があーでもない、こーでもないと頭を悩ませてると、その光景を見た明日奈は「悩め、悩め」と呪いの波動を送るもそれに飽きたようで飲み干したコーヒー缶をごみ箱に捨て帰宅準備をしていた。
「さて、私が話せるのはここまで。これ以上は、家族も心配しちゃうからお開きにするわよ」
「……あ、あぁ。そうしようか。それじゃ、また年明けに……」
「ええ、さようなら」
明日奈は公園から去っていく透の背中を見ながら決意を新たにする。
「確かに届かなかった…… でも、まだ諦めたつもりはないから……」
玄関で透を見送った後、階段で二階に上って悠馬の部屋のドアをノックしてドア越しに悠馬に話しかける。
「ユウ、起きてる?」
「うん、起きてるよ。何か下でドタバタ聞こえたんだけど、何かあったの?」
「ちょっと透君とリビングでお話ししてたんだけど、体調を崩しちゃったみたいなのね」
「えっ? やだっ、透君がリビングに居たの? 帰ったんじゃなかったの?」
「うん、噂の透君と少しお話してみたくてね」
若干の間があった後、悠馬らしからぬドスの利いた声で母親を問いただす。
「……変な事…… 話してないでしょうね……?」
「私は聞いてた側だからね…… 色々教えてもらったよ、特に校内女装コンテスト三連覇の事とか」
「あっ、あれは…… みんながどうしてもっていうから出ただけで…… 本当は…… あんな目立ち方はしたくなかったんだけど……」
悠馬はまさかあれが母親の耳に入るなんて思っておらず、焦ったような口調で否定するが、それでも満更でもなかったように感じる。
「フフッ、まあいい経験が出来て良かったじゃない。それよりも、ユウは本当にいいの?」
悠馬が決断した事とはいえ、後悔はないのか? と母親は神妙な面持ちで念押しで悠馬に問いただす。
「うん、自分で決めたことだから。それよりもお母さんに色々迷惑かけちゃってゴメンね」
「気にしないの! 私はユウの意思を尊重します。だから、自分のやりたい事をやりなさい。お母さんは最大限サポートをしていくから」
「……ありがとう」
「ご飯できたら呼ぶから、もう少し待っててね」
そう言うと、悠馬の母親は階段を下りて行った。周りに誰も居なくなった悠馬は一人で小さく何か呟いていた。
「待っててね、――」
◆
悠馬の家を訪ねた時間は昼過ぎだったのにもう辺りは暗くなっていた。
空を見上げて大きく深呼吸をして先程あった嘔吐感を紛らわそうとしていた。
その直後、後方から突然背中を何かにより強打して蹲ってしまった。
何が起きたのか皆目見当がつかない透はその方向を振り向くと腕を組んで仁王立ちした鬼…… もとい、明日奈が立っていた。
「おい、ヘラヘラ男。お前は悠馬の家で何をしていた」
「いたたた、なんだ明日奈か。何って…… ていうか何でそんな事を君が知ってるんだよ…… あっ、そういえば隣の家だっけ?」
確かに悠馬の家を探している最中に「喜多川」と書かれた表札を見たことを思い出していた。
それなら入るところを見られてもおかしくはないが、明日奈がまさか悠馬の家を監視してるのでは? などと邪推したが強ち間違いではない。
そんな明日奈は仁王立ちしたまま、振り返った透の胸元にトイレで発生したイベントの残骸がこびりついたモノが視界に入った。
「ちょっと、胸元のそれは何なのよ? アンタ…… まさか、瑠璃さんに迷惑かけてないでしょうね」
「瑠璃さん……? あぁ、悠馬のお母さんの事か」
その単語を聞いた明日奈は怒りのあまり地べたに座っていた透の顔面に蹴りを飛ばそうとしたが、透の奇跡的な反射神経のおかけで見事に回避した。
「アンタにお義母さん呼びを許した覚えはない!」
「なんで君の許可がいるんだよ! っていうか名前知らなかったんだから他に呼び方がなくても仕方ないだろう?」
(なんか微妙に会話が噛み合ってなかったけど、気のせいかな?) ※気のせいではない
「チッ、いい訳だけはいっちょ前なのね。まあいいわ、ちょっと着いてきなさい」
「えっ…… なんで?」
「はぁ? こんな道のど真ん中で言い争いなんかしてる所を近所の人に見られてみなさいよ。痴話喧嘩かと思われるかもしれないでしょ」
「えぇ、面倒だなあ。別に近所の人くらいなら見られても良くない?」
「ここはアタシの実家の近所なの! 万が一、アンタみたいな気の利かない鈍感ヘラヘラすっとこどっこいと一緒にいる所を見られでもしたら、たまったもんじゃないわ」
「わかった、わかった。俺の呼び名がどんどん長くなる前にサッサと行こう」
「近くに公園があるからそこに行くわよ」
明日奈が指した指の先にある公園に行くために立ち上がり、一旦伸びをする。
そのまま見上げた空に浮かんだ月を見ながら「悠馬、今何をしてるんだ?」と呟く。
それを見た明日奈はイライラを募らせて声を張り上げる。
「黄昏時でもないのに何を黄昏てんのよ。すっとこどっこいクソヤロー! さっさと来なさい」
「……あぁ、今行く……」
◆
明日奈は公園入口の自動販売機でコーヒーを二つ買うと一つを透に投げつけた。
思ったより高速に顔面に迫った為、回避しながらなんとかキャッチ。
「あっぶな! 君は俺の事を嫌いなだけじゃなくて恨みまであるのか?」
「さぁ?」
すっとぼける明日奈は心の中で透に対する怒りゲージを淡々と溜めて物騒な事を考えている。
(何でないと思ってるのかしら? 鈍すぎてキレそうなんだけど! それにコイツと話をしているとあの時の事をどうしても思い出しちゃう。あー、ダメだわ。今すぐコイツを道場に連れ込みたいわ。組手の最中による不幸な事故なら骨の四、五本くらいセーフよね)
その様子を見た透は若干、明日奈から距離を取る。
「君の思い出し笑いはを夜にあまり見たくないんだよね。何しろ、君の笑い方って邪悪さを感じるからさ……」
(はい、骨三本追加入りまーす)
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「で、結局悠馬には会えたの?」
「いや、本人は「会いたくない」だそうだ……」
「じゃあ、悠馬は部屋の中でずっと私の事を考えて続けているのかもしれないわね。ウフフ、悠馬の心を独り占めよ」
「どんだけ前向きなんだ、君は……。あと、瑠璃さんから色々聞かれたよ。」
「ふーん、どんな内容?」
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「やっぱ気付いてたんだ…… 瑠璃さんに隠し事はやっぱり無理だったわね。あの人、鋭い所あるから…… 多分悠馬にもこの事も言わないと思う」
「あぁ、そんなこと言ってたね。 ……そもそも君がこういう行動に出たのって1年の夏に何かがあったからじゃないのか?」
「…………」
「君は俺を巻き込んだんだから、その辺りを説明する義務くらいはあると思うよ」
確かにキッカケはあの事…… そして透を巻き込んだのは他でもない明日奈。
故に明日奈自身もそれは理解して透に説明する事にした。
「…… まあ、いいわ。教えてあげる。1年の夏休みの時、私は悠馬に告白をしたの…… 十年分のありったけを込めた愛の告白…… でもダメだった。私じゃ悠馬には届かなかったんだ」
明日奈は空に浮かんだ月に手を伸ばして捕まえようとする。しかし、その掌に掴めたものはなかった。
(逆だと思ってた……。てっきり悠馬が明日奈に告白して振られたのだと思っていた。それでギクシャクするのは分かるんだけど‥‥ だったらあの時、どうしてあんな表情をしたんだ。もしくは振った事を後悔して……? 実は明日奈に未練があったとか……?)
透があーでもない、こーでもないと頭を悩ませてると、その光景を見た明日奈は「悩め、悩め」と呪いの波動を送るもそれに飽きたようで飲み干したコーヒー缶をごみ箱に捨て帰宅準備をしていた。
「さて、私が話せるのはここまで。これ以上は、家族も心配しちゃうからお開きにするわよ」
「……あ、あぁ。そうしようか。それじゃ、また年明けに……」
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