アイツのきもち

うにたん

文字の大きさ
上 下
14 / 26

第14話 成人式② ~再会~

しおりを挟む
 悠馬が会場に到着した時には既に人はごった返しており、どこに誰がいるのかすら分からない程の有り様だった。

「着付けに時間掛っちゃったから…… もっと早く起きればよかった」

 左右を確認しながら、人を確認して進んでいくが一向に透と明日奈は見当たらない。
 
 少しの間歩いていると、肩を叩かれた。
 
 振り向くとそこにいたのは……
 
「ねえねえ、きみきみ。滅茶苦茶可愛いね。マジで一目惚れしちゃったよ。式典が終わったらさ、一緒に飲みにでも行かない?」

 男の頃から告白された事はある…… しかし、ナンパされたのは初めてだった悠馬はどうしていいかわからない。
 
 金髪に袴でごっつい金のネックレスに加えて指のほとんどに指輪をハメている所謂ヤンキーという奴だった。
 
 普段見慣れない人種に話しかけられてあたふたしていると、ナンパ男の友人たちが何か何かと集まり始めた。
 
 ナンパ男が友人の方に振り向いた直後を見て、「ごめんなさーい」と言いながら逃げ出した。
 
 最早どこを走ってるのか分からない。ただ、ナンパ男から距離を取りたい。
 
 しかも振袖姿であったため、とても走りづらく途中の石畳の隙間に下駄が嵌ってしまい、体勢を崩して転びそうになった所……
 
「危ない、大丈夫ですか」

 無事にキャッチしてくれた一人の青年がいた。
 
 その青年に振り向いた悠馬は探していたターゲットの一人である事を認識した。
 
「と、透君…… 良かった、やっと見つかった。えへへ、キャッチしてくれてありがとう。私の事、分かるかな?」

 一方で透の方は、固まっていた。
 
(誰だ…… この滅茶苦茶美人は…… なんで僕の事を知ってるんだ? これ程の美人を見忘れる訳がない…… どこだ? どこで出会った?)

 少なくとも同じ専門学校にはいない。

 そう考えた透は頭の中で過去二年間で参加した合コン履歴から該当する女性を探していた。
 
 しかし、思い当たらない。

 もっと範囲を広げる透は高校時代を含めて思い出そうとした。
 
 高校時代も含めて思い浮かばない…… と思った矢先、突然一人の人物が頭の中に出て来たのだ。
 
 それは高校三年生時の文化祭で圧倒的得票数で優勝した時の悠馬だった。
 
 そのせいか、ついぽろっと口走ってしまった。
 
「…………悠馬」

「あれ? もうばれちゃった。もう少し引っ張れるかと思ったのに…… しょうがないか、会うのは久しぶりだね」

「は?」

 自分でその名前を出しておいて現状を把握できていない透。
 
 たまたま悠馬を連想してしまって口に出しただけなのに目の前の美女が反応していた。
 
「私に気付いて言ったんじゃなかったの? おーい、透君? あれ、固まってる?」
 
 透は頭の中身を高速で整理していた。
 
 確かに悠馬は身長高くないし、女顔で女装するとどこからどうみても女性なのはわかる。
 
 しかし、当時は体つきは細身とはいえ、それなりに筋肉はついていた。
 
 今抱きかかえた感じ…… どう思い返しても女性の体格だった。しかも、軽いとまで来た。
 
 ただの女装だったらこうはならないだろ……。
 
 そんな固まっている透をよそに二人のやり取りを聞いていた周辺の高校の同級生たちも反応し始めて徐々に拡散していった。

「え? 誰、あのかわいい子」

「高峰君? 今日も女装して来てるの? ヤダ、振袖めっちゃ似合うんだけど」

「高峰君、どこどこ?」

「悠馬君、とんでもない美人さんだ…… 私、もう自身無くす……」

「何で初めから勝てると思った?」

 などと、高校の同級生たちから囲まれて再会の喜びに浸っていた。
 
 周辺に居た同級生たちは高校三年生の三学期の事は当然頭に入っていたが、今そんな余計な事を言うと空気が悪くなってしまうと察したのか誰もその話題は出さなかった。
 
 と思った矢先、一人の空気読めない系女子がその話題を出してしまった。
 
「悠馬君、一条君とはもう仲良くして平気なの?」

 盛り上がっていた雰囲気が一転して、一気に盛り下がる。
 
 目線で「バカヤロー」、「余計なこと言ってんじゃねえ」と伝えるものの、空気読めない系女子にそんな高等テクニックは通用しない。
 
 それに気づいた悠馬がチャンスとばかりに行動に出る。
 
「ゴメンね、みんな。ちょっとその辺も含めて話をしたいことがあるから透君を借りていいかな?」
 
 流石にこの雰囲気でダメですという奴はない。「あ、どうぞどうぞ」、「ごゆっくり~」などと明らかに気を使われてる感を感じながら固まっている透の手を掴んでその場から去っていく。
 
 その姿を見ていた同級生たちは「あれ? 思ったより関係拗れていないのでは?」と思ったそうな。
 
 ようやく我に返った透は手を掴んで同級生たちから遠ざかっていく光景をみていた。
 
「ゆ、悠馬…… どこまで行くんだ?」

「人が少ない所。じゃないとゆっくり話も出来ないでしょ」

「式典ももうすぐ始まるぞ」

「私の目的は式典に出る事じゃないから。透君と明日奈に会って『ちゃんと話をすること』だから」
 
 成人式に参加していた新成人たちは、広場から隣接していた建物に続々と入っていく。
 
 悠馬と透は逆にそこから遠ざかっていく。
 
 式典の会場の横を流れる川沿いに沿って建物から遠ざかる様に歩いてく二人。
 
 ある程度距離を取った所で前を歩いていた悠馬は透に振り向く。
 
「ねえ、透君には今の私はどう見えてるかな?」

「どうって……」

 何が聞きたいのか分からなくて頭を捻っている所をみて、可笑しくなって微笑む悠馬。

「とりあえずは見たまんまでもいいよ。じゃあ、知らない人が私の事を見たらどう思うかでもいいよ」

「そりゃあ…… 綺麗な人がいるなって思うけど……」

「ありがとう…… あのね、これが本当の私・・・・なの」

 ここに来て漸く悠馬の第一人称が『私』になっている事に気付いた透はもしやと思ったが、センシティブな内容でもあるため、万が一違った場合に下手に口にすると「間違えました。ごめんなさい」ではすまない。
 
 精神的に傷つける可能性もある…… 正直口に出すのも憚れるため、どうしたもんかと考えていたところ悩んでいる透を見た悠馬が続けて口を開く。
 
「…………気付いた? 私ね、MtF(Male to Female)トランスジェンダーなの」

「MtF? 確か…… 身体が男性で心が女性だっけか」

「そうそう、人によっては身体が女性で心が男性(FtM:Female to Male)って人もいるし、性別がどれにも該当しない(XtX:X to X)なんて人もいるし…… なんか重い話しちゃってゴメンね」※1

(確かに内容としては重いかもしれない。普通はこんな重要な事、赤の他人にペラペラ喋れないだろう。人によると迫害の可能性もある訳だし…… それでも悠馬は話してくれる。僕の事を信用してくれてる何よりの証拠だ)

「聞かせてくれるか? 悠馬の抱えてたもの…… 何でもいいんだ」

 悠馬はムスッとした顔で透に詰め寄る。
 
「『高峰 悠馬』という人間はもうこの世にはいないんだよ。今の私は『悠里ゆうり』…… 『高峰 悠里』だよ。改めてよろしくね」

「それって自分で決めたのか?」

「ううん、お母さんがね…… 私が生まれる前に考えてたんだって…… 男の子だったら『悠馬』、女の子だったら『悠里』ってつけるつもりだったって。だからそこから拝借したの。片方無駄にならずに済んで良かったよね」

 悠馬…… 改め悠里はケラケラ笑っているが、透は気が気じゃない。
 
(ツッコミしづらいネタをぶっこんでくるのは辞めてくれ。反応に困る……)

「と、とにかくだ。ゆう…… りの話を聞かせてくれるか。全部聞くからさ」

「うん…… ありがとう。それじゃ、小学生の時に遡るんだけど――」
しおりを挟む

処理中です...