六歳下の幼馴染に溺れた夫。白い結婚を理由に離縁を申し立てたら、義弟(溺愛)に全力で求婚されました

恋せよ恋

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幼馴染の少女の誕生会

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 数日後、シンシアは重い足取りでカーフィ子爵邸の門を潜っていた。
 今日はジェニファーの『十五歳』の誕生日。本来、低位貴族の娘の私的な祝いに、次期伯爵夫人が直々に足を運ぶ必要などない。だが、ニコラスが「ジェニファーがどうしても君に来てほしいと言っているんだ。あの子は君に憧れているからね」と強引に誘ってきたのだ。

 会場に一歩足を踏み入れると、そこには独特の熱気が渦巻いていた。
 今年から学園の一年生となる、十五歳前後の令嬢たちが集うガーデンパーティ。色とりどりのドレスを纏った少女たちは、春の訪れに浮き足立つ雛鳥のようだ。

「あら、ニコラスお兄様! お待ちしておりましたわ!」
 主役のジェニファーが、淡いピンクのドレスの裾を揺らして駆け寄ってくる。彼女はニコラスの腕に当然のように絡みつくと、背後に控えるシンシアを見て、わざとらしく目を丸くした。

「まあ、シンシア様もご一緒でしたの? お忙しいのに、わざわざ『おば様』の静養の時間を削らせてしまってごめんなさい」
 その一言で、周囲の令嬢たちがクスクスと扇の陰で笑い声を漏らした。

 十八歳のシンシアを「おば様」扱い。あまりにも不敬な物言いだが、隣に立つニコラスは咎めるどころか、困ったように笑ってジェニファーの鼻先を軽くつついた。
「こらジェニファー、シンシアはまだ十八だよ。……まあ、確かに落ち着きすぎているから、君たちのような瑞々しい世代から見れば、少しばかり『大人すぎる』のかもしれないけれどね」
 夫の無神経な言葉に、シンシアの瞳が僅かに細められた。
 彼は妻が公の場で侮辱されたことにすら気づかず、むしろジェニファーの若さを称賛する側に回っている。

「ふふふ。私、学園の制服を着るのが楽しみで! シンシア様はもう、学園の思い出なんてのことでしょう? 私たちと違って、なんだか……いらっしゃいますし」
「本当ね、落ち着きがあって『お母様』みたい」
「私たちはこれから恋の季節ですもの、シンシア様のような『終わった』方には分からない悩みも多いですわ」
 取り巻きの令嬢たちの、容赦ない言葉の刃。

 シンシアの侍女が憤怒に肩を震わせるが、当のシンシアは泰然自若としていた。
「ええ、皆様の仰る通りですわ。十五歳という時期は、確かに一生に一度きりの、輝かしい『子供時代』ですものね。今のうちに、そのを存分に楽しまれるとよろしいわ。カーフィー子爵令嬢、お誕生日おめでとうございます」
 シンシアは慈愛に満ちた、聖母のような微笑みを浮かべた。
 その言葉の裏にある「無礼が許されるのも今のうちだ」という冷徹な響きに、令嬢たちは一瞬だけ気圧されたように黙り込む。

 だが、ニコラスだけは「さすが僕の妻だ、器が大きい」と言わんばかりに満足げに頷いている。
「さあ、シンシア。せっかくだから彼女たちの輪に入ってやってくれ。僕はあちらでカーフィ卿に挨拶をしてくる」
 ニコラスが席を外すと、ジェニファーの態度はさらに牙を剥いた。彼女はシンシアの耳元に顔を寄せ、蜜のような、しかし毒に塗れた声で囁く。

「ねえ、シンシア様。いくら気取っても、ニコラス様は私の方が可愛いって仰るのよ。だって、あの方は私のために飛んできてくださったもの。貴女、本当は……一度もご一緒に夜を過ごしていないんでしょう?」
 十五歳の少女とは思えない下卑た瞳。

 シンシアは、その視線を正面から受け止めたまま、ゆっくりと周囲を見渡した。そして、その場にいる令嬢たちの顔ぶれ、身に纏う宝石、家紋を冷静に記憶の帳簿へと書き記していく。
(……トロイ子爵家、ブラウン男爵家、ミラー准男爵家……。なるほど、これらが次期伯爵夫人の私に泥を塗った者たち)

 シンシアは、ジェニファーの挑発を一切無視し、淑女としての完璧な所作でティーカップを手にした。
「素敵なお誕生会でしたわ、カーフィー子爵令嬢。皆様のことは、忘れません。バスチア伯爵家の『次期夫人』として、皆様の将来を心から見守らせていただきますわね」
 その「見守る」という言葉の真意に気づく者は、まだここにはいない。

 シンシアは背筋を真っ直ぐに伸ばし、最後まで優雅な笑みを絶やすことなく会場を後にした。馬車に乗り込んだ瞬間、彼女の瞳から全ての温度が消える。
 若さという名の無敵艦隊に乗り、他人の尊厳を踏みにじる少女。そしてそれを助長する愚かな夫。
 彼女らがその傲慢さの代償を支払う日は、いずれ必ずやってくるのだから。
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