愛してると泣かれても迷惑です〜お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ〜

恋せよ恋

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親友という名の共犯者

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 マキシム様が涙ながらに誓ったあの日から、彼は驚くほどマメに私を訪ねてくるようになった。

 学園の放課後、真っ先に私の元へ駆けつけ、以前にも増して贅沢な贈り物で私を飾り立てる。それはまるで、自らの罪を金色のヴェールで覆い隠そうとする必死な試みのようだった。

 そんなある日の午後、邸の庭園でマキシム様と散策していると、一通の手紙が届けられた。

「マキシム様……あちらで、わたしの親友のリーザが、ご挨拶を兼ねてお待ちしておりますの。悩みがあるようで、『どうしてもマキシム様にしか相談できない』と……」

 親友のリーザ。彼女は私の隣で、誰よりも私の幸せを願ってくれていたはずだった。

 ――少なくとも、その時の私は、そう信じて疑わなかった。

 リーザは以前から、「学園のことで、男性の立場からの意見がほしい」と零していた。それが、マキシム様でなければならない理由なのだと、私は疑いもしなかったのだ。

 マキシム様は一瞬、わずらわしそうに眉を寄せたが、「君の親友の頼みなら無下にできないね」と、私の頬を優しく撫でて席を立った。

「すぐに戻るよ、ジュリア。そこで僕を待っていて」

 その背中を見送りながら、私は木陰のベンチに腰を下ろした。

 ふと視界に入ったのは、少し離れた回廊に立つ兄ダニエルの姿だった。彼は壁に背を預け、冷めた目でマキシム様が去った方向を見つめている。

「お兄様」

 声をかけると、兄は私に気づき、痛みをこらえるような表情を浮かべた。

「……ジュリア。お前は、いつまで待つつもりだ?」

「え……?」

「あいつは、お前の前では誠実な顔をしているが、裏では何も変わっていない。いや、お前に執着すればするほど、後始末が下手になっている」

 兄の言葉は重く、鋭かった。ダニエルお兄様はマキシム様と友人だからこそ、彼の「男の顔」を知っているのだ。だが、お兄様はそれ以上を語ろうとはしなかった。友人を売ることもできず、妹を救うこともできない――その板挟みの苦しみを知るには、当時の私はあまりに無知だった。

 マキシム様が戻ってくるのを待つ間、私は暇つぶしに隣国語の単語帳をめくっていた。

 ふと、リーザとマキシム様が向かった東屋の方から、風に乗って話し声が聞こえてきた。嫌な予感がして、私は吸い寄せられるように足音を殺して近づいた。

「――ねえ、マキシム。彼女にはあんなに謝ったのに、私には何もなし?」

 聞こえてきたのは、リーザの甘ったるい、だが棘のある声だった。

「リーザ、やめろ。ジュリアがそこにいるんだ。今はもう、君と二人で会うわけにはいかない」

「ひどいわ。ジュリアが大人になるまで寂しいからって、私を抱き寄せたのは誰? 安心して。もし、このことがバレたら、『リーザに強引に迫られて、断れなかった』って言えばいいのよ。
 ――私が、そう言ってあげるんだから。だから……会ってくれるでしょう?」

 心臓が凍りつく。マキシム様の、ひどく狼狽した声が続く。

「黙れ! 分かった、今夜……今夜また、いつもの場所へ行く。だから今は大人しくしていてくれ。ジュリアを失うわけにはいかないんだ」

「ふふ、そうね。ジュリアはあなたの『最高傑作』だものね。でも、忘れないで。あなたの本性を知っているのは、あんなお人形さんじゃなくて、私なんだから」

 湿った音が響く。何かが触れ合う、嫌悪感を催す音。
 私は口元を押さえ、その場から逃げ出した。

 マキシム様は、ジュリアに真摯に謝罪した。それは嘘ではなかったのだろう。彼は本気で私を愛そうとしていた。

 だが、彼がこれまで振りまいてきた「偽りの愛」の対価は、そう簡単に踏み倒せるものではなかった。女たちは、マキシムがジュリアを大切にすればするほど、彼女を「脅しの材料」として使うようになった。

「会ってくれなければジュリアに言う」

 その言葉一ひとつで、彼は再び女たちの部屋へと足を踏み入れる。ジュリアを守るための謝罪が、さらなる裏切りの口実になるという、終わりのない悪循環。

 自室に戻ると、姉のサンドラが窓辺で外を見ていた。

「……リーザとマキシムが、何をしていたか見たのね」

「お姉様……どうして、みんな私を騙すの?」

 震える声で尋ねる私に、姉はゆっくりと振り返った。その手には、マキシム様が私に贈ったものと同じ香水の瓶が握られていた。

「騙しているのではないわ。私たちは、ただ公平に、彼を『共有』しているだけよ」

 姉は優雅に香水を一振りした。部屋中に満ちる、あの清楚な花の香り。
 それが、姉と親友、そして婚約者が共有する「裏切りの証」であることを、私は血を吐くような思いで理解した。

 翌朝、マキシム様から届いた手紙には、昨夜の密会を覆い隠すような、甘ったるい言葉が冒頭に並んでいた。私は、それ以上読むことなく、暖炉へ放り込んだ。

 私の心の中で、何かが音を立てて死んだ瞬間だった。
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