「君を抱くつもりはない」初夜に拒絶した公爵様、身代わりの後妻(私)が姉の忘れ形見を守り抜く間に、なぜか執着が始まっています?

恋せよ恋

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ナタリーの悪意

  ステファニーは涙を拭い、立ち上がった。
 手帳には、ナタリーが毒薬を隠している場所の推測や、主治医ロベルトとの密会場所についても記されていた。フィオーラは死の直前まで、いつか誰かが自分の仇を討ってくれることを信じ、その道標を残していたのだ。

 その時、離宮の入り口の方で物音がした。

 ステファニーは素早く手帳を隠し、表情を殺した。
 現れたのは、ナタリーだった。彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、手にトレイを持っていた。

「あら、奥様。こんな埃っぽいところで何をしておいでですの? 旦那様から、貴女が寂しくないようにとお夜食を預かって参りましたわ」

 ナタリーが置いたトレイの上には、湯気を立てるスープがあった。
 ステファニーは、ナタリーの目を真っ直ぐに見つめ返した。

「パトリック様が、私に? それとも、貴女が勝手にお持ちになったのかしら」

「ふふ、どちらでもよろしいではありませんか。冷めないうちに召し上がれ。……フィオーラ様もね、このスープが大好きでいらしたのよ。最後の方は、これしか口にできなかったけれど」

 ナタリーの声は、毒蛇が這うような粘り気を持ってステファニーの鼓膜を打った。
 彼女は今、暗に「姉と同じように死ね」と告げているのだ。パトリックの目を盗み、隔離されたこの離宮で、ステファニーを仕留めるつもりなのだろう。

 ステファニーは、兄から預かった銀のナイフを、ポケットの中でそっと握りしめた。

「ナタリーさん。貴女は、自分が勝ったと思っているのね」

「あら、勝負なんて。私はただ、公爵家にあるべき秩序を取り戻しただけですわ。……さあ、召し上がれ?」

 ナタリーは、ステファニーがスープを飲むのを、期待に満ちた目で見守っている。
 ステファニーはゆっくりと椅子に座り、スープの器を引き寄せた。そして、わざとらしくスプーンを落としてみせた。

「あら、いけない。……ナタリーさん、代わりのスプーンを持ってきてくださる?」

「……。ちっ、手間のかかる方ですね。少しお待ちを」

 ナタリーが舌打ちをして部屋を出た瞬間、ステファニーは懐から銀のナイフを取り出し、その刃をスープに浸した。

 一瞬だった。
 美しく磨かれた銀の刃が、触れた部分から禍々しい黒紫色に変色していく。

「……!」

 言葉が出なかった。これほどまでに露骨な毒。
 フィオーラには少しずつ、気づかれないように。だが、邪魔なステファニーには、一刻も早く消えてもらうために、致死量を盛ったのだ。

 ステファニーはすぐさまスープを窓の外の植え込みに捨て、器を空にした。
 そして、急いで元通りの表情を作り、戻ってきたナタリーを待った。ナタリーが戻った時、空になった器を見て、彼女は満足そうに口角を上げた。

「お口に合いましたかしら?」

「ええ、とても……温かかったわ。お姉様の最後を思い出すような味でしたわね」

 ステファニーの言葉に、ナタリーは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐに背を向けて去っていった。

 扉が閉まった後、ステファニーは激しく波打つ胸を押さえた。
 恐怖はある。しかし、それ以上に「証拠」を掴んだという確信が、彼女を強くさせていた。

「お姉様、見ていて。……明日の夜会、パトリック様が私を追い出すために開くあの場所で、すべてを終わらせます」

 ステファニーの瞳には、かつての平凡な令嬢の面影はなかった。
 姉の遺志を継ぎ、愛する者を守る「公爵夫人」としての覚悟が、そこには宿っていた。
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