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落日の懸念と、新たな影
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夕暮れに染まる生徒会室。
オレンジ色の濃密な光が、校舎の影を長く引き延ばしていた。
生徒会長ラウル・チロルは、広げたままの書類の束に視線を落としつつ、机に肘をついて深く息をついた。
「……カトリーヌ。ユリウスのあの噂、君はどう思う? 僕には、どうにも腑に落ちないんだ」
ユリウス・エルンスト――同じ侯爵家の子息として、幼い頃から共に学んできた友。
富豪レーヴェン伯爵家への婿入りという将来を約束されながら、領地経営ではなく騎士の道を志し、騎士科へ進んだ風変わりな男。
階級の壁を越え、誰にでも誠実で、聡明だったはずの彼が、今、学園を騒がせている「無節操な優男」と同一人物だとは、到底信じられなかった。
これまでは「不特定多数」の令嬢への親切が話題だった。だが、最近の噂の焦点は一人の令嬢に絞られている。
セシリア・クレポン。騎士爵家の三女。
一世代限りの爵位を持つ、貧しい下級貴族の娘。特筆すべき美貌も成績もないが、女性騎士を目指して騎士科の門を叩いた二年生。
『昨日はセシリア様と手合わせをしてあげたらしい』
『セシリア様の手作りハンカチを受け取ったんですって』
『食堂で、二人きりでランチを――』
情報の断片が、ラウルの脳内で嫌な音を立てて繋がっていく。
「大丈夫よ、ラウル」
不意に、柔らかな温もりが彼の手を包んだ。帰宅の準備を終えた婚約者、カトリーヌが傍らに立っていた。
「私たちがいる限り、リリを一人にはさせないわ」
ラウルはその言葉に小さく息を吐き、カトリーヌの手をそっとなぞる。
「……ありがとう、カトリーヌ。僕の愛しいキティ。君はいつも、僕のささくれだった心を凪いでくれる」
「当然でしょう? あなたは私の婚約者なんですもの」
カトリーヌは頬を微かに染めながら、愛おしそうに囁いた。
ラウルは愛おしさに堪えきれず、彼女の手を自身の頬に寄せ、指先に軽く唇を触れさせた。
「ああ……君がいてくれれば、僕はどんな難題も超えられる気がする。だが、リリは……あの誇り高いリリは、今、独りで嵐の中にいる」
カトリーヌはラウルの髪を優しく撫で、母親のような慈しみを湛えて微笑んだ。
「今はただ、そばにいてあげましょう。白薔薇の棘が、自分自身を傷つけてしまわないように」
ラウルはカトリーヌを静かに抱き寄せた。窓の外に広がる、血のような夕焼け。二人は互いの体温を確かめ合いながら、自分たちの幸せの影にある、親友の危うい均衡を案じていた。
窓を叩く風の音が、不穏な予感を運んでくる。
リリアーナへの友愛と、互いへの深い愛情。その入り混じる感情の中で、二人はまだ知らずにいた。
ユリウスがその「セシリア」という少女に、どのような眼差しを向けているのかを。
________________________
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オレンジ色の濃密な光が、校舎の影を長く引き延ばしていた。
生徒会長ラウル・チロルは、広げたままの書類の束に視線を落としつつ、机に肘をついて深く息をついた。
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「大丈夫よ、ラウル」
不意に、柔らかな温もりが彼の手を包んだ。帰宅の準備を終えた婚約者、カトリーヌが傍らに立っていた。
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ラウルはその言葉に小さく息を吐き、カトリーヌの手をそっとなぞる。
「……ありがとう、カトリーヌ。僕の愛しいキティ。君はいつも、僕のささくれだった心を凪いでくれる」
「当然でしょう? あなたは私の婚約者なんですもの」
カトリーヌは頬を微かに染めながら、愛おしそうに囁いた。
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「ああ……君がいてくれれば、僕はどんな難題も超えられる気がする。だが、リリは……あの誇り高いリリは、今、独りで嵐の中にいる」
カトリーヌはラウルの髪を優しく撫で、母親のような慈しみを湛えて微笑んだ。
「今はただ、そばにいてあげましょう。白薔薇の棘が、自分自身を傷つけてしまわないように」
ラウルはカトリーヌを静かに抱き寄せた。窓の外に広がる、血のような夕焼け。二人は互いの体温を確かめ合いながら、自分たちの幸せの影にある、親友の危うい均衡を案じていた。
窓を叩く風の音が、不穏な予感を運んでくる。
リリアーナへの友愛と、互いへの深い愛情。その入り混じる感情の中で、二人はまだ知らずにいた。
ユリウスがその「セシリア」という少女に、どのような眼差しを向けているのかを。
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