可哀想な令嬢?いいえ、私が選ぶ側です 〜悪役令嬢で上等よ〜

恋せよ恋

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歪んだ証拠、崩れる理論

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 弟ユーリを実質的な管理下に置いた私は、次なる標的へと狙いを定めた。

 宰相子息、ギルバート・ヘイゼル侯爵令息。

 彼はあの夜会で、眼鏡の奥の目を光らせながら「証拠は揃っています」と私を断罪した。アリスが用意した偽の証言と、出所不明の毒薬の瓶。それを論理的に組み立てて私を追い詰めた知略家気取りの男。

 だが、理系女子から言わせてもらえば、彼の言う論理など、前提条件が間違った欠陥数式に過ぎない。

 私は、裏ギルドのユリウスを通じて、ある場を用意させた。

 それは、王宮の法務官と、彼の父である宰相が同席する再審議の場だ。

「ルクレツィア嬢。今更、往き苦しい言い逃れをするつもりですか? 貴女がアリス嬢の紅茶に毒を盛ったという証拠……あの筆跡の残る指示書と、成分の合致した毒瓶。これ以上の真実などありませんよ」

 ギルバートは、王宮の会議室で書類を広げ、自信満々に私を見下ろした。その横には、悲劇のヒロインを演じ続けるアリス(今は厚いベールで黒ずんだ顔を隠している)と、彼女を庇うエドワード王子が座っている。

「真実、ですか。……ギルバート様、貴方はその眼鏡で、一体何を見ていらっしゃるのかしら?」

 私は持参した「魔法銀の拡大鏡」と、いくつかの試薬瓶をテーブルに並べた。

「この指示書。私が侍女に毒を用意するよう命じたとされる手紙ですね。……ギルバート様、このインクの『乾燥状態』を分析したことはありますか?」

「乾燥……? 何を馬鹿なことを。文字が書かれていれば十分でしょう」

「いいえ。インクというものは、時間経過とともに成分が酸化し、紙の繊維への定着率が変わります。……私がこの手紙を書いたとされるのは一ヶ月前。ですが――」

 私は、手紙の端に青い試薬を一滴垂らした。

「この試薬は、書かれてから一週間以内の『未定着の鉄分』に反応して赤く発色します。……さて、見てくださいな」

 一瞬にして、手紙の文字が鮮やかな赤に染まった。会場にどよめきが走る。

「……一ヶ月前に書かれたはずの文字が、なぜこれほど鮮やかに反応するのかしら? 答えは簡単。これは、ほんの数日前に書かれた『偽造品』だからよ」

「な……! そ、それは、保管状況によって反応が……!」

「いいえ、言い逃れは無用ですわ」

 私は次に、証拠の「毒薬の瓶」を指差した。

「この毒。アリス嬢の体調を崩した原因とされる『アトロカ草』の抽出液ですね。……ギルバート様、この瓶の口に残った残留物を、貴方は『私の指紋』と共に検出したと主張しましたわね」

「そうだ! 貴女の魔力波形とも一致したのだ!」

「……それが、最大の計算違いよ」

 私は冷たく笑い、自らの指先を白日の下に晒した。

「私が開発した『ルミナス・バリアクリーム』。これは現在、騎士団の標準装備品となっています。このクリームを塗った指先から、生の魔力波形が直接瓶に定着することはありません。つまり――瓶に付着していたのは、私が『クリームを塗っていない時期』に、意図的に採取された古い魔力波形を、後から魔法で貼り付けたもの。いわゆる『魔力転写の偽装』ですわ」

 私は、ギルバートの目の前に身を乗り出した。

「貴方は、私の知識を侮った。研究者はね、物質がどう変化し、どう偽装されるか……そのプロセスを逆算するのが仕事なの。貴方が組み立てた『完璧な論理』は、この瓶に残った『インクの酸化速度』という、たった一つの物理事象に敗北したのよ」

 ギルバートの額から脂汗が流れる。
 彼は知略家として、法務官たちの疑念の視線に晒されるという、人生で初めての屈辱を味わっていた。

「さらに言わせていただければ、この毒の成分。……アリス嬢、貴女が常用している『肌を無理に白く見せるための秘薬』と、主成分が全く同じですわね?」

「え……っ」
 ベールの下のアリスが震えた。

「貴女は、自分の美容のために服用していた薬を、少し多めに摂取して体調を崩し、それを『毒を盛られた』と偽装した。ギルバート様は、その杜撰な計画を『知略』で補強してしまった。……ああ、なんて無様。眼鏡が曇っているのではなく、頭脳そのものが曇っていらしたのね」

「ル、ルクレツィア……貴様ぁ……!」

 ギルバートが立ち上がろうとしたが、隣に座っていた父である宰相が、彼の肩を強く押さえつけた。

「……もうよい、ギルバート。これほど完璧な科学的証明を突きつけられて、まだ醜態を晒すつもりか。……法務官、息子を連れて行け。……冤罪の罪、免れぬだろう」

 宰相の言葉に、ギルバートは糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
 
 捏造、偽証。

 エドワード王子の側近の一人、知略家と呼ばれた男のキャリアは、インクの一滴によって、跡形もなく消え去ったのだ。

「……ルクレツィア、君という女性は……」
 エドワード王子が戦慄の表情で私を見る。

 私は、ゆっくりと身の回りの道具を片付けながら、王子の視線を真正面から受け止めた。

「殿下。次は、私を直接突き飛ばした、あの野蛮な『騎士様』の番ですわね」
 私は、会議室を出る間際、カイル・ベルナールを射抜くような視線で見つめた。
 
 さて、筋肉で思考するあの男には、どのような絶望を配合してあげましょうか。
______________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

📢✨新連載2本スタート✨📢
🌹【愛してると泣かれても迷惑です~お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ~】💍💔
🌹【泥だらけの迷い犬を拾ったら、牙の鋭い捕食者(伯爵家嫡男)に育ちました。~公爵令嬢は、教え子の愛に逃げ場を失う~】
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