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美しき依存の招待状
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エルヴァイン公爵邸。かつて私が離れの納屋に追放されたあの日とは、邸内の空気が一変していた。
玄関ホールを抜ける私の歩調に合わせ、使用人たちが蜘蛛の子を散らすように道をあける。
彼らの目にあるのは、蔑みではなく、底知れぬ恐怖と期待だ。今やこの屋敷の維持費、彼らの給料さえも、私の運営する「ルミナス・ラボ」の利益から捻出されていることを、誰もが理解していた。
「お帰りなさい、ルクレツィア。……随分と待たせてくれたわね」
応接間のソファに深々と腰掛け、扇子を広げているのは後妻のアメリアだ。その隣には、不機嫌を隠そうともしない父、エルヴァイン公爵が座っている。
二人の前には、豪勢な茶菓子が並んでいるが、その暮らしぶりはどこか危うい。リード商会への投資失敗、そしてエドワード王子への不渡り寸前の貸付。公爵家の金蔵は、今や底が見え始めているのだ。
「ルクレツィア、お前が始めたその『ラボ』とやら、王宮での評判は聞いている。……だが、娘が勝手に商売を始めるとは、公爵家の教育を疑われる。すぐに代表権を私に譲渡し、全資産を家の管理下に置きなさい。それがエルヴァインの娘としての務めだ」
父の言葉は、相変わらず厚顔無恥だった。私はその正面に立ち、微笑みを浮かべて小瓶を取り出した。
「お父様、それは難しい相談ですわ。……ですが、今日はそんな殺伐としたお話をしに来たのではありませんの。……アメリア様、最近、目元の小皺と肌の『しぼみ』にお悩みではありませんか?」
アメリアの扇子がピタリと止まった。
彼女は現在三十代後半。没落しかけた子爵家から、若さと美貌だけを武器に公爵夫人の座を勝ち取った女だ。それゆえに、忍び寄る老いへの恐怖は人一倍強い。
「な、何を失礼なことを……。私は、いつだって完璧に整えていますわ」
「そうかしら? 鏡をよくご覧になって。リード商会の粗悪な油分を使い続けたせいで、貴女の肌は自ら水分を蓄える力を失い、砂漠のように乾ききっているわ。……でも、大丈夫。これをお使いになってみて」
私は、乳白色に輝く特製の美容液『エターナル・ブルーム』をテーブルに置いた。
これは、魔力銀でナノ化したヒアルロン酸もどきに、細胞を強制的に活性化させる『魔導性成長因子』を過剰に配合したものだ。
「これは……?」
「私のラボの最高傑作。一度塗るだけで、十年前のハリと輝きを取り戻せる『時間泥棒』の美容液ですわ。……アメリア様、貴女にだけ、特別に差し上げますわ」
アメリアは疑わしげな目を向けながらも、抗いがたい誘惑に負け、その滴を指に取り、目元に馴染ませた。
直後、彼女が短い悲鳴を上げた。
魔力が細胞を急速に押し上げ、数秒のうちにシワが消え、肌が発光するようなピンク色に染まったのだ。
「ま、まあ……! 何これ、凄いわ! 見て、あなた! 私の顔が……二十代の頃みたい!」
「おお、これは……! ルクレツィア、貴様、これほどの商品を作っていたのか!」
父の目にも、下卑た欲の火が灯った。この美容液があれば、社交界の貴婦人たちからどれほどの金を吸い上げられるか、計算したのだろう。
「気に入っていただけて光栄ですわ。……ですが、アメリア様。この美容液は非常にデリケート。毎日使い続けなければ、その輝きは維持できません。……そして、この『エターナル・ライン』のフルセット、一ヶ月の維持費は金貨五十枚ほどになりますわ」
「ご、金貨五十枚……!? 馬鹿な、そんな大金!」
「あら、アメリア様の美しさを維持するためですもの。お安い御用でしょう? ……お父様、公爵家の資産で十分賄えますわよね?」
私は、慌てて帳簿を確認し始めた父を冷ややかに見つめた。
金貨五十枚は、普通の貴族が一年遊んで暮らせる額だ。それを毎月、ただ「見た目」を維持するためだけに消費させる。一度この「魔法」を知ったアメリアが、元の枯れた肌に戻ることを選べるはずがない。
「……ああ、それから。ルミナス・ラボの製品は、私が認めた方にしか販売いたしません。……もし代表権を奪おうとしたり、私を不当に扱おうとすれば……その瞬間に、アメリア様の『美しき時間』は止まってしまいますわね」
アメリアの顔が、期待から恐怖へと変わった。
美しさという名の麻薬。私は彼女の「生存戦略」そのものを人質に取ったのだ。
「お、お金なら出すわ! あなた、なんとかして! 私、絶対に元の顔には戻りたくないわ!」
「アメリア、落ち着け! だが、金貨五十枚など……今の家の状況では……」
「あら、お困りなら融資いたしましょうか? 公爵家の領地を担保に、私の商会がお貸ししますわ」
私は、あらかじめ用意していた融資契約書を差し出した。
公爵家が私の美の奴隷となり、自らの領地を切り売りして私に貢ぐ構造。……これこそが、金で物を言わせる復讐。
「さあ、お父様。……アメリア様の美貌を守るため、サインをいただけますかしら?」
ペンを差し出す私の手元を、父は震えながら見つめていた。
かつて私をゴミのように捨てた男が、今、娘の掌の上で転がされている。
中田ひよりの「成分分析」は終わった。
この家族に必要な成分は、愛でも赦しでもない。「金」という血液が枯渇していく、じわじわとした絶望だ。
______________
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🎉新作スタート!【『足指に運命の指輪がはまりました。~腹黒王太子は私の死を許さず、逃げた先で産んだ子供ごと連れ戻す~ 】💍💕
玄関ホールを抜ける私の歩調に合わせ、使用人たちが蜘蛛の子を散らすように道をあける。
彼らの目にあるのは、蔑みではなく、底知れぬ恐怖と期待だ。今やこの屋敷の維持費、彼らの給料さえも、私の運営する「ルミナス・ラボ」の利益から捻出されていることを、誰もが理解していた。
「お帰りなさい、ルクレツィア。……随分と待たせてくれたわね」
応接間のソファに深々と腰掛け、扇子を広げているのは後妻のアメリアだ。その隣には、不機嫌を隠そうともしない父、エルヴァイン公爵が座っている。
二人の前には、豪勢な茶菓子が並んでいるが、その暮らしぶりはどこか危うい。リード商会への投資失敗、そしてエドワード王子への不渡り寸前の貸付。公爵家の金蔵は、今や底が見え始めているのだ。
「ルクレツィア、お前が始めたその『ラボ』とやら、王宮での評判は聞いている。……だが、娘が勝手に商売を始めるとは、公爵家の教育を疑われる。すぐに代表権を私に譲渡し、全資産を家の管理下に置きなさい。それがエルヴァインの娘としての務めだ」
父の言葉は、相変わらず厚顔無恥だった。私はその正面に立ち、微笑みを浮かべて小瓶を取り出した。
「お父様、それは難しい相談ですわ。……ですが、今日はそんな殺伐としたお話をしに来たのではありませんの。……アメリア様、最近、目元の小皺と肌の『しぼみ』にお悩みではありませんか?」
アメリアの扇子がピタリと止まった。
彼女は現在三十代後半。没落しかけた子爵家から、若さと美貌だけを武器に公爵夫人の座を勝ち取った女だ。それゆえに、忍び寄る老いへの恐怖は人一倍強い。
「な、何を失礼なことを……。私は、いつだって完璧に整えていますわ」
「そうかしら? 鏡をよくご覧になって。リード商会の粗悪な油分を使い続けたせいで、貴女の肌は自ら水分を蓄える力を失い、砂漠のように乾ききっているわ。……でも、大丈夫。これをお使いになってみて」
私は、乳白色に輝く特製の美容液『エターナル・ブルーム』をテーブルに置いた。
これは、魔力銀でナノ化したヒアルロン酸もどきに、細胞を強制的に活性化させる『魔導性成長因子』を過剰に配合したものだ。
「これは……?」
「私のラボの最高傑作。一度塗るだけで、十年前のハリと輝きを取り戻せる『時間泥棒』の美容液ですわ。……アメリア様、貴女にだけ、特別に差し上げますわ」
アメリアは疑わしげな目を向けながらも、抗いがたい誘惑に負け、その滴を指に取り、目元に馴染ませた。
直後、彼女が短い悲鳴を上げた。
魔力が細胞を急速に押し上げ、数秒のうちにシワが消え、肌が発光するようなピンク色に染まったのだ。
「ま、まあ……! 何これ、凄いわ! 見て、あなた! 私の顔が……二十代の頃みたい!」
「おお、これは……! ルクレツィア、貴様、これほどの商品を作っていたのか!」
父の目にも、下卑た欲の火が灯った。この美容液があれば、社交界の貴婦人たちからどれほどの金を吸い上げられるか、計算したのだろう。
「気に入っていただけて光栄ですわ。……ですが、アメリア様。この美容液は非常にデリケート。毎日使い続けなければ、その輝きは維持できません。……そして、この『エターナル・ライン』のフルセット、一ヶ月の維持費は金貨五十枚ほどになりますわ」
「ご、金貨五十枚……!? 馬鹿な、そんな大金!」
「あら、アメリア様の美しさを維持するためですもの。お安い御用でしょう? ……お父様、公爵家の資産で十分賄えますわよね?」
私は、慌てて帳簿を確認し始めた父を冷ややかに見つめた。
金貨五十枚は、普通の貴族が一年遊んで暮らせる額だ。それを毎月、ただ「見た目」を維持するためだけに消費させる。一度この「魔法」を知ったアメリアが、元の枯れた肌に戻ることを選べるはずがない。
「……ああ、それから。ルミナス・ラボの製品は、私が認めた方にしか販売いたしません。……もし代表権を奪おうとしたり、私を不当に扱おうとすれば……その瞬間に、アメリア様の『美しき時間』は止まってしまいますわね」
アメリアの顔が、期待から恐怖へと変わった。
美しさという名の麻薬。私は彼女の「生存戦略」そのものを人質に取ったのだ。
「お、お金なら出すわ! あなた、なんとかして! 私、絶対に元の顔には戻りたくないわ!」
「アメリア、落ち着け! だが、金貨五十枚など……今の家の状況では……」
「あら、お困りなら融資いたしましょうか? 公爵家の領地を担保に、私の商会がお貸ししますわ」
私は、あらかじめ用意していた融資契約書を差し出した。
公爵家が私の美の奴隷となり、自らの領地を切り売りして私に貢ぐ構造。……これこそが、金で物を言わせる復讐。
「さあ、お父様。……アメリア様の美貌を守るため、サインをいただけますかしら?」
ペンを差し出す私の手元を、父は震えながら見つめていた。
かつて私をゴミのように捨てた男が、今、娘の掌の上で転がされている。
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