18 / 24
払暁の戴冠、真実の再臨
しおりを挟む
ジャリー侯爵家が築き上げた虚飾の城が瓦解した翌朝。王都を包んだのは、騒乱の予感ではなく、清々しいまでの静寂と、それに続く爆発的な歓喜の渦だった。
王宮正門前の広場には、夜明け前から数万の民衆が詰めかけていた。その中には、私が石鹸を贈った孤児院の子供たちや、安価な傷薬で命を救われた労働者たちの姿もあった。
彼らが手にしているのは、王家への不満を綴ったプラカードではない。私のラボが提供した、安らぎの香り漂うラベンダーの花束だ。
「……準備はいいか、ルクレツィア」
王宮の控室。鏡の前で、ユリウスが私を呼んだ。
今日の彼は、裏ギルドの長の黒衣ではなく、王家の象徴である深紅と金の正装に身を包んでいる。銀髪を端正に整え、その胸には王弟派の正統性を示す「青い薔薇」の勲章が輝いていた。
「ええ。理系女子として、ここからは『検証』ではなく『証明』の段階ね」
私は自室で仕立てた、最後の勝負服――これまでの「真珠色」に、王室の威厳を示す「紺碧」を配合した光学迷彩ドレスの裾を整えた。私の肌は、自作の「フィニッシング・オーラ」によって、もはや人間離れした神々しさを放っている。
バルコニーへの扉が開かれる。
現れたのは、十数年の隠遁生活を経て、再び表舞台へと戻ってきた王弟、いや、新王となるべきクロード殿下だった。その隣には、正妃として迎えられるエカテリーナ様が、一点の曇りもない笑顔で立っている。
「――民よ、長く待たせた」
クロード新王の朗々とした声が広場に響き渡る。
ジャリー侯爵家の謀反捏造、エドワード王子の廃嫡、そして現王の病による譲位。すべてが法的な正当性を持って民衆に開示された。
「そして。この真実を照らし、我々を闇から救い出したのは――エルヴァイン公爵令嬢、ルクレツィアである!」
新王が私を指し示した瞬間、地鳴りのような歓声が王都を揺らした。
「ルクレツィア様万歳!」
「聖女様! 美の女神よ!」
私はユリウスに手を取られ、バルコニーの最前列へと進み出た。
眼下に広がる民衆の海。かつてのルクレツィアが誰にも見向きもされず、ただ孤独に震えていたこの世界が、今、私の「知識」と「意志」によって熱狂している。
「ルクレツィア。……君が見せたかったのは、この景色かい?」
ユリウスが耳元で囁く。
「いいえ。これはただの副産物よ。……私が本当に証明したかったのは、『正しく磨かれたものは、決して汚されない』ということ。……そして、それを支える技術には、国を救う力があるということよ」
私は民衆に向けて、優雅に、けれど勝利を確信した研究者のように微笑んだ。
一方、王宮の地下牢では。
かつて私を「見苦しい」と嘲笑ったエドワードが、身の回りの世話をする者もいない冷たい床で、自身の顔に沈着した「緑色のシミ」を掻きむしっていた。隣の牢からは、アメリアが「美容液を、私に美容液を!」と、かつての面影もない老婆のような声で叫び続けている。
彼らには、もはや一滴の慈悲も、一粒の成分も与えられることはない。
美しさを蔑ろにし、他者を踏みにじった者たちにふさわしい、一生消えることのない「汚れ」という名の罰だ。
「……さあ、ユリウス。……これからは、忙しくなるわよ」
私はバルコニーから室内へと戻り、次のプロジェクトを記した手帳を広げた。
「王立科学院の設立、全国民への衛生教育、そして……隣国との『美の外交』。……不純物を取り除いた後のこの国を、どう合成していくか。……私たちの本当の研究は、これからよ」
ユリウスは私の手を取り、その甲に深く、誓いのキスを落とした。
「ああ、王太子妃。……いや、僕の導き手。……君のレシピに従おう。永遠に」
中田ひよりの「異世界美容革命」は、今、一介の令嬢の復讐劇を超え、王国の未来を創り出す国家プロジェクトへと昇華した。
(見ていて、ルクレツィア。……貴方が死ぬほど嫌いだったこの世界は、もうどこにもないわ。……最高にクリアで、最高に美しい世界を、貴方に捧げるわ)
窓から差し込む朝日は、新時代の「純度」を象徴するように、一点の曇りもなく輝いていた。
______________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
王宮正門前の広場には、夜明け前から数万の民衆が詰めかけていた。その中には、私が石鹸を贈った孤児院の子供たちや、安価な傷薬で命を救われた労働者たちの姿もあった。
彼らが手にしているのは、王家への不満を綴ったプラカードではない。私のラボが提供した、安らぎの香り漂うラベンダーの花束だ。
「……準備はいいか、ルクレツィア」
王宮の控室。鏡の前で、ユリウスが私を呼んだ。
今日の彼は、裏ギルドの長の黒衣ではなく、王家の象徴である深紅と金の正装に身を包んでいる。銀髪を端正に整え、その胸には王弟派の正統性を示す「青い薔薇」の勲章が輝いていた。
「ええ。理系女子として、ここからは『検証』ではなく『証明』の段階ね」
私は自室で仕立てた、最後の勝負服――これまでの「真珠色」に、王室の威厳を示す「紺碧」を配合した光学迷彩ドレスの裾を整えた。私の肌は、自作の「フィニッシング・オーラ」によって、もはや人間離れした神々しさを放っている。
バルコニーへの扉が開かれる。
現れたのは、十数年の隠遁生活を経て、再び表舞台へと戻ってきた王弟、いや、新王となるべきクロード殿下だった。その隣には、正妃として迎えられるエカテリーナ様が、一点の曇りもない笑顔で立っている。
「――民よ、長く待たせた」
クロード新王の朗々とした声が広場に響き渡る。
ジャリー侯爵家の謀反捏造、エドワード王子の廃嫡、そして現王の病による譲位。すべてが法的な正当性を持って民衆に開示された。
「そして。この真実を照らし、我々を闇から救い出したのは――エルヴァイン公爵令嬢、ルクレツィアである!」
新王が私を指し示した瞬間、地鳴りのような歓声が王都を揺らした。
「ルクレツィア様万歳!」
「聖女様! 美の女神よ!」
私はユリウスに手を取られ、バルコニーの最前列へと進み出た。
眼下に広がる民衆の海。かつてのルクレツィアが誰にも見向きもされず、ただ孤独に震えていたこの世界が、今、私の「知識」と「意志」によって熱狂している。
「ルクレツィア。……君が見せたかったのは、この景色かい?」
ユリウスが耳元で囁く。
「いいえ。これはただの副産物よ。……私が本当に証明したかったのは、『正しく磨かれたものは、決して汚されない』ということ。……そして、それを支える技術には、国を救う力があるということよ」
私は民衆に向けて、優雅に、けれど勝利を確信した研究者のように微笑んだ。
一方、王宮の地下牢では。
かつて私を「見苦しい」と嘲笑ったエドワードが、身の回りの世話をする者もいない冷たい床で、自身の顔に沈着した「緑色のシミ」を掻きむしっていた。隣の牢からは、アメリアが「美容液を、私に美容液を!」と、かつての面影もない老婆のような声で叫び続けている。
彼らには、もはや一滴の慈悲も、一粒の成分も与えられることはない。
美しさを蔑ろにし、他者を踏みにじった者たちにふさわしい、一生消えることのない「汚れ」という名の罰だ。
「……さあ、ユリウス。……これからは、忙しくなるわよ」
私はバルコニーから室内へと戻り、次のプロジェクトを記した手帳を広げた。
「王立科学院の設立、全国民への衛生教育、そして……隣国との『美の外交』。……不純物を取り除いた後のこの国を、どう合成していくか。……私たちの本当の研究は、これからよ」
ユリウスは私の手を取り、その甲に深く、誓いのキスを落とした。
「ああ、王太子妃。……いや、僕の導き手。……君のレシピに従おう。永遠に」
中田ひよりの「異世界美容革命」は、今、一介の令嬢の復讐劇を超え、王国の未来を創り出す国家プロジェクトへと昇華した。
(見ていて、ルクレツィア。……貴方が死ぬほど嫌いだったこの世界は、もうどこにもないわ。……最高にクリアで、最高に美しい世界を、貴方に捧げるわ)
窓から差し込む朝日は、新時代の「純度」を象徴するように、一点の曇りもなく輝いていた。
______________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
540
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる