可哀想な令嬢?いいえ、私が選ぶ側です 〜悪役令嬢で上等よ〜

恋せよ恋

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選別される社交界、剥奪される資格

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『ルクレツィア院長主催・新春園遊会』
 その招待状は、今や王都の貴族たちにとって、爵位や領地よりも価値のある「生存証明書」となっていた。なぜなら、その招待状を手にできないということは、すなわち王立科学院が提供する最新の美容・健康製品の「供給停止」を意味するからだ。

 会場となる科学院の空中庭園には、かつて私を「地味で無能な公爵令嬢」と嘲笑った令嬢や夫人たちが、青ざめた顔で立ち並んでいた。彼女たちの肌は、私が開発した製品を使っている者と、販売を拒否されている者とで、残酷なまでに「二極化」していた。

「……ご機嫌よう、皆様。本日はようこそお越しくださいました」

 私がバルコニーに姿を現した瞬間、庭園にいた数百人の貴族たちが一斉に膝を突いた。その中心で、私は最高純度の魔導銀を織り込んだ純白の白衣ドレスを纏い、冷徹なまでの美しさを振りまく。

「ルクレツィア様! お願いです、どうかお聞きください!」

 人混みをかき分けて縋り付いてきたのは、かつてアリスの取り巻きとして、私を「毒婦」と罵った侯爵令嬢ベアトリクスだった。

 彼女の顔は、市販の安物化粧品で必死に隠しているものの、乾燥で粉を吹き、目元には深いクマが刻まれている。

「我が家への『ルミナス・セラム』の納品が止まって三ヶ月……。このままでは、来月の王太子殿下の誕生晩餐会に出席できません! 以前の無礼は、すべてアリスに唆されたことなのですわ!」

「唆された、ですか。ベアトリクス様」

 私は彼女を冷たく見下ろし、手に持ったタブレット型の魔導記録板を操作した。

「私の記録によれば、貴女は一年前の雨の日、私が泥を跳ねられた際、『汚らわしい。その泥こそ、貴女の卑しい心根にふさわしいわ』と仰いましたわね。……残念ながら、私の科学院の製品は『清らかな心根』を持つ方にしか浸透しない処方になっておりますの」

「そ、そんな……! たった一度の失言ではありませんか!」

「研究職にとって、一度の不純物混入は、全ロットの廃棄を意味しますの。……貴女は、私の世界における『廃棄対象』ですわ。……マーサ、彼女を名簿から完全に抹消して」

「かしこまりました、院長」

 マーサが冷淡にペンを走らせる。ベアトリクスは絶望の悲鳴を上げながら、衛兵によって庭園の外へと引きずり出されていった。

 周囲の夫人たちは、その光景を見て震え上がった。

 かつての社交界は、血筋やコネで回っていた。だが今の社交界は、ルクレツィアという一人の女性が握る「成分」によって支配されている。私に嫌われた瞬間に、彼女たちは「美」を奪われ、文字通り社交界から「汚れた存在」として排除されるのだ。

「さて……。本日、皆様にお集まりいただいたのは、新作の『抗老化魔導カプセル』の優先配布権についてお話しするためです」

 私が小瓶を掲げると、会場の空気が一変した。渇望と欲望。

 私はその様子を、顕微鏡で微生物の動きを観察するように眺める。

「配布の条件は、過去一年間の『道徳的貢献度』、および科学院への『研究協力』の姿勢です。……私を蔑み、真実を捻じ曲げようとした方々に、若さを保つ権利などありません。……皆様、ご自身の過去の行動を、今一度精査なさることね」

 園遊会が終わる頃には、数人の有力貴族が「不適格」としてその場を去り、残された者たちは私への忠誠を競い合うように、寄付金や領地の権利を差し出していた。
 

 夜。誰もいなくなった庭園で、私はユリウスと二人、冷えたシャンパンを傾けた。

「……残酷だね、ルクレツィア。彼女たちにとって、美しさを奪われることは死よりも辛い。君は、彼女たちの魂を直接解剖しているようなものだ」

「解剖なんて。私はただ、因果応報という数式を解いているだけよ。……ユリウス、貴方は私が怖いかしら?」

 私が問うと、ユリウスは私の腰を抱き寄せ、その首筋に顔を埋めた。

「いいえ。僕も、君という劇薬に侵された患者の一人だからね。……君のいない世界なんて、モノクロの論文のようなものだ。……一生、僕を飼い慣らしてくれ。僕の聖女」

 私は彼の銀髪に指を這わせ、夜の闇に消えていく王都を眺めた。
 

 中田ひよりの復讐は、もう終わった。
 今の私は、復讐者でも、ただの令嬢でもない。

 この国の美しさを、倫理を、そして未来を合成する者なのだ。

(ルクレツィア。……貴方が欲しかった『愛』は、今や『畏敬』という形で私の足元に積み上がっているわ。……もう、誰にも貴方を傷つけさせない。……この国そのものを、貴方のための防腐剤にしてあげたから)

 私はユリウスの胸の中で、勝利と、そして少しの感傷に浸りながら、静かに目を閉じた。
 
 
 翌朝。王立科学院の私の机には、新たな不純物――すなわち、隣国の不穏な動きを記した報告書が届いていた。
 
「……あら、次は『美の戦争』かしら? ……面白いわ。……どんな毒でも、私の処方箋で無害化してあげる」
 
 理系女子の逆襲劇、その幕は、まだ下りそうにない。
______________

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