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浮気は自宅禁止です
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「ねえ、これって、どういうことかしら?」
わたしは今、寝台の上で頭を下げて座る男女を見据え、腕を組んで仁王立ちしている。
――側から見たら、さぞ恐ろしい女に見えるでしょうね。ええ、ええ、わかってますとも。わたしだって、こんなことはしたくなかった。
それでも、わたしが仁王立ちしている理由は、ただ一つ。
ここが、わたしの家だからだ。
そして、見知らぬ女と並んで頭を下げている男が、わたしの彼氏で同棲相手のレオン。
浮気相手を自宅に連れ込む――どう取り繕っても、外道以外の何者でもない。
なにより許せないのは、給金をコツコツ貯め、ようやく手に入れた、わたしのお気に入りの“ふかふか布団”の上で、二人が並んでいることだった。
「ちょっと、レオン。ちゃんと説明してちょうだい。これは、どういうことなの?」
____ダンッ!
床を踏み鳴らした音に、寝台の上の二人が同時に身を強張らせる。
(……ああ、ムカつく。反応まで一緒だなんて、仲がよろしいことで)
「レオン、いい加減にして。いつまでそのままでいるつもり? わたしは早く済ませて、明日に備えたいの。さあ、説明してちょうだい」
上目遣いでこちらを見るレオンが、気まずそうに口を開く。
「えっと、この前、市内の見回り中に声をかけられて……それで、美味しい串焼きをたくさん買ってもらったんだ。ミレーユも、あれ美味しいって食べてたでしょ?」
にっこりと浮かべられた笑顔。
――きっと、無邪気に串焼きを頬張っていた、あの日のわたしを思い出しているのだろう。
「それで今日、偶然また会ってさ。串焼きを奢ったんだからって……関係を求められて。みんなしてるって言うし、一度だけでいい、彼女がいても構わないって、付き合ってなんて言わないって言うし……だから……」
語尾は弱々しく、俯きがち。
怒られている自覚はあるらしい。そこだけは、少しだけ救いだ。
「そう。じゃあ、その“串焼きを奢った方”は、一度きりで満足なのかしら?」
わたしは、隣で下着姿のまま俯いている女性に視線を向けた。
茶色の髪に茶色の瞳。二十歳前だろう、可愛らしい顔立ちで、体つきも悪くない。
「ねえ、レオン。このオバさんと別れなさいよ。私のほうが若くて可愛いわ。私と付き合って。串焼き、いっぱい食べさせてあげるから」
(……はいはい。まあ、そうなるわよね)
(どうして、こうなるってわからないのかしら。ねえ、レオン)
「は? 付き合うわけないだろ! 僕はミレーユを愛してるんだ! 一度だけって、君が言ったんじゃないか!」
「だって、好きになっちゃったんだもん!」
寝台の上で始まる言い合いを、わたしは冷めた目で見つめていた。
「ねえ、どうでもいいわ。服を着て、とっとと出ていってちょうだい。早く」
女性は慌ててワンピースを着込み、鞄を抱えて部屋を出ていった。
そして――もう一人。
「レオン。あなたも出て行って。騎士団の寮にでも入ればいいでしょう」
言葉に込めた温度は、氷点下。
「イヤだ! 僕は出て行かない! 好きなのはミレーユだけだ!」
涙を滲ませて駄々をこねる姿は、正直、可愛い。
三歳年下。金髪碧眼で、“可愛い”が似合う王宮第二騎士団の人気者の騎士。
――だからといって、許せるわけがない。
「そう。じゃあ、わたしが出て行くわ。勝手にして。
その布団はあげるから、寮にでも持っていきなさい。寝台も捨てるわ」
「えっ……でも、その布団、ミレーユのお気に入りじゃ……」
「……本当に、すごいわね。誰のせいで処分することになったのか、考えなくてもわかるでしょう。
知らない女と寝た布団なんて、気持ち悪くて使えるわけがないじゃない」
ようやく伝わったらしい。
レオンの顔から血の気が引いていくのを横目に、わたしは黙々と荷物をまとめた。
結果、玄関先で押し問答。
最後は、ふかふか布団ごとレオンを外に放り出して、鍵をかけた。
しばらく騒いでいた気配も、やがて消える。
わたしは食卓の椅子に腰を下ろし、静かに目を閉じた。
「……疲れたなあ。……さて、どうしようか」
静まり返った部屋に、わたしの声だけが落ちていく。
その静けさが、やけに胸に染みて、少しだけ――寂しかった。
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【浮気男だと思ってた同期が一途でした】
わたしは今、寝台の上で頭を下げて座る男女を見据え、腕を組んで仁王立ちしている。
――側から見たら、さぞ恐ろしい女に見えるでしょうね。ええ、ええ、わかってますとも。わたしだって、こんなことはしたくなかった。
それでも、わたしが仁王立ちしている理由は、ただ一つ。
ここが、わたしの家だからだ。
そして、見知らぬ女と並んで頭を下げている男が、わたしの彼氏で同棲相手のレオン。
浮気相手を自宅に連れ込む――どう取り繕っても、外道以外の何者でもない。
なにより許せないのは、給金をコツコツ貯め、ようやく手に入れた、わたしのお気に入りの“ふかふか布団”の上で、二人が並んでいることだった。
「ちょっと、レオン。ちゃんと説明してちょうだい。これは、どういうことなの?」
____ダンッ!
床を踏み鳴らした音に、寝台の上の二人が同時に身を強張らせる。
(……ああ、ムカつく。反応まで一緒だなんて、仲がよろしいことで)
「レオン、いい加減にして。いつまでそのままでいるつもり? わたしは早く済ませて、明日に備えたいの。さあ、説明してちょうだい」
上目遣いでこちらを見るレオンが、気まずそうに口を開く。
「えっと、この前、市内の見回り中に声をかけられて……それで、美味しい串焼きをたくさん買ってもらったんだ。ミレーユも、あれ美味しいって食べてたでしょ?」
にっこりと浮かべられた笑顔。
――きっと、無邪気に串焼きを頬張っていた、あの日のわたしを思い出しているのだろう。
「それで今日、偶然また会ってさ。串焼きを奢ったんだからって……関係を求められて。みんなしてるって言うし、一度だけでいい、彼女がいても構わないって、付き合ってなんて言わないって言うし……だから……」
語尾は弱々しく、俯きがち。
怒られている自覚はあるらしい。そこだけは、少しだけ救いだ。
「そう。じゃあ、その“串焼きを奢った方”は、一度きりで満足なのかしら?」
わたしは、隣で下着姿のまま俯いている女性に視線を向けた。
茶色の髪に茶色の瞳。二十歳前だろう、可愛らしい顔立ちで、体つきも悪くない。
「ねえ、レオン。このオバさんと別れなさいよ。私のほうが若くて可愛いわ。私と付き合って。串焼き、いっぱい食べさせてあげるから」
(……はいはい。まあ、そうなるわよね)
(どうして、こうなるってわからないのかしら。ねえ、レオン)
「は? 付き合うわけないだろ! 僕はミレーユを愛してるんだ! 一度だけって、君が言ったんじゃないか!」
「だって、好きになっちゃったんだもん!」
寝台の上で始まる言い合いを、わたしは冷めた目で見つめていた。
「ねえ、どうでもいいわ。服を着て、とっとと出ていってちょうだい。早く」
女性は慌ててワンピースを着込み、鞄を抱えて部屋を出ていった。
そして――もう一人。
「レオン。あなたも出て行って。騎士団の寮にでも入ればいいでしょう」
言葉に込めた温度は、氷点下。
「イヤだ! 僕は出て行かない! 好きなのはミレーユだけだ!」
涙を滲ませて駄々をこねる姿は、正直、可愛い。
三歳年下。金髪碧眼で、“可愛い”が似合う王宮第二騎士団の人気者の騎士。
――だからといって、許せるわけがない。
「そう。じゃあ、わたしが出て行くわ。勝手にして。
その布団はあげるから、寮にでも持っていきなさい。寝台も捨てるわ」
「えっ……でも、その布団、ミレーユのお気に入りじゃ……」
「……本当に、すごいわね。誰のせいで処分することになったのか、考えなくてもわかるでしょう。
知らない女と寝た布団なんて、気持ち悪くて使えるわけがないじゃない」
ようやく伝わったらしい。
レオンの顔から血の気が引いていくのを横目に、わたしは黙々と荷物をまとめた。
結果、玄関先で押し問答。
最後は、ふかふか布団ごとレオンを外に放り出して、鍵をかけた。
しばらく騒いでいた気配も、やがて消える。
わたしは食卓の椅子に腰を下ろし、静かに目を閉じた。
「……疲れたなあ。……さて、どうしようか」
静まり返った部屋に、わたしの声だけが落ちていく。
その静けさが、やけに胸に染みて、少しだけ――寂しかった。
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