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可愛い彼氏の致命的欠陥
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レオンとの出会いは、街で落とし物を拾ったことがきっかけだった。
一年前のある日。
診療所で医師として働くわたしは、一日の診療を終えて家路についていた。その途中、道端に落ちている贈り物らしき小箱を見つけた。
周囲を見回しても、落とし主らしき人影はない。
困った末、最寄りの騎士団詰め所へ届け出ることにした。
その時、たまたま街の詰め所に立ち寄っていた第二騎士団所属の騎士――レオンと出会った。
(……まあ。なんて、可愛らしい騎士さんかしら)
それが、わたしのレオンに対する第一印象だった。
――まさか、その後、彼の方からあれよあれよと距離を詰められ、なし崩しに交際を始め、気づけば同棲までしているとは。
……人生、本当に何が起こるかわからない。
レオンは、レヴィン伯爵家の三男で二十歳。
実年齢よりもずっと幼く見え、どう見ても十代にしか思えない。美しくもあり、愛らしくもある――その容姿ゆえ、騎士団内外での人気も高い。
一方、わたしはポレザー侯爵家の次女で、診療所勤めの医師。年は二十三。
自分で言うのも少し気恥ずかしいが、金髪に緑の瞳を持つ、いわゆる色っぽい部類の美女だと思う。
実年齢より幼く見えるレオンと、実年齢通り大人びて見えるわたし。そのせいで、たった三歳の差が、実際以上に開いて見えてしまう。
――周囲の目には、年の差恋愛どころか、保護者と被保護者のように映っていたのかもしれない。
三歳差。世間では、そろそろ「年増」と囁かれ始める、微妙なお年頃だ。
レオンは、学園時代のわたしを知っているらしい。もっとも、わたしには彼の記憶がない。
一応、成績は悪くなかったし、生徒会役員も務めていたから、集会などで顔を見られる機会は多かったのだろう。――だからといって、覚えていなくても不思議ではない、と思う。
正直に言えば、レオンはとても良い恋人だった。
優しくて、気が利いて、家事も炊事も手伝ってくれる。
なにより、容姿が愛らしい。
それでいて美しく、騎士としても強い。
つまり――非常に人気がある。
もちろん、その人気は、女性からのものも含まれていた。
レオンの倫理観が、少し……いいえ、かなりズレていると気づいたのは、いつ頃だっただろう。
ある日、街で、見知らぬ女性と腕を組み、親しげに歩くレオンを見かけた。
わたしは、年甲斐もなく、感情的になって彼を問い詰めた。
その時の答えが、こうだった。
『みんな、やってることだから』
その言葉の意味が、わからなかった。そして、理解しようとも、受け入れようとも、思えなかった。
――わたしは、もう、その頃には、レオンを愛し始めていたのだから。
それからだった。レオンは何度となく、「浮気」としか思えない行為を繰り返すようになった。
それは、わたしの邪推でも、嫉妬でもなかった。
なぜなら――。
「わたくし、レオン様と小旅行に出かけましたの。もちろん、同じお部屋に宿泊しましたわ」
「金曜の夜はお帰りにならなかったでしょう? 私の部屋にお泊まりになったんですよ」
「昨夜は激しくて……朝方になって、ようやくお帰りになったはずですわ。そうでしょう?」
――彼の“浮気相手”だという女性たちが、わざわざ診療所まで足を運び、報告してくれたのだから。
レオンの倫理観では、交際相手以外の女性と関係を持っても、それは浮気ではないらしい。
騎士団では、戦闘後の高ぶった気を鎮めるため、欲を発散するのはやむを得ない――そんな考え方があるのだという。
『愛しているのはミレーユだけ』と、レオンは決まって口にする。心が伴わなければ浮気ではない――彼はそう信じているようだった。
けれど、今は戦時下ではない。日常だ。
その違いが、どうしても、レオンには通じなかった。
わたしは医師だ。職業柄、不特定多数と関係を持つ男性と、身体を重ねる気にはなれない。
性病に罹患するなんて――まっぴらごめんだ。
だから、レオンの浮気を知ってから、わたしたちの間に身体の関係はない。
それでも、一緒に暮らし続けていた。
それが、わたし自身の弱さだったのだと――今なら、わかる気がする。
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一年前のある日。
診療所で医師として働くわたしは、一日の診療を終えて家路についていた。その途中、道端に落ちている贈り物らしき小箱を見つけた。
周囲を見回しても、落とし主らしき人影はない。
困った末、最寄りの騎士団詰め所へ届け出ることにした。
その時、たまたま街の詰め所に立ち寄っていた第二騎士団所属の騎士――レオンと出会った。
(……まあ。なんて、可愛らしい騎士さんかしら)
それが、わたしのレオンに対する第一印象だった。
――まさか、その後、彼の方からあれよあれよと距離を詰められ、なし崩しに交際を始め、気づけば同棲までしているとは。
……人生、本当に何が起こるかわからない。
レオンは、レヴィン伯爵家の三男で二十歳。
実年齢よりもずっと幼く見え、どう見ても十代にしか思えない。美しくもあり、愛らしくもある――その容姿ゆえ、騎士団内外での人気も高い。
一方、わたしはポレザー侯爵家の次女で、診療所勤めの医師。年は二十三。
自分で言うのも少し気恥ずかしいが、金髪に緑の瞳を持つ、いわゆる色っぽい部類の美女だと思う。
実年齢より幼く見えるレオンと、実年齢通り大人びて見えるわたし。そのせいで、たった三歳の差が、実際以上に開いて見えてしまう。
――周囲の目には、年の差恋愛どころか、保護者と被保護者のように映っていたのかもしれない。
三歳差。世間では、そろそろ「年増」と囁かれ始める、微妙なお年頃だ。
レオンは、学園時代のわたしを知っているらしい。もっとも、わたしには彼の記憶がない。
一応、成績は悪くなかったし、生徒会役員も務めていたから、集会などで顔を見られる機会は多かったのだろう。――だからといって、覚えていなくても不思議ではない、と思う。
正直に言えば、レオンはとても良い恋人だった。
優しくて、気が利いて、家事も炊事も手伝ってくれる。
なにより、容姿が愛らしい。
それでいて美しく、騎士としても強い。
つまり――非常に人気がある。
もちろん、その人気は、女性からのものも含まれていた。
レオンの倫理観が、少し……いいえ、かなりズレていると気づいたのは、いつ頃だっただろう。
ある日、街で、見知らぬ女性と腕を組み、親しげに歩くレオンを見かけた。
わたしは、年甲斐もなく、感情的になって彼を問い詰めた。
その時の答えが、こうだった。
『みんな、やってることだから』
その言葉の意味が、わからなかった。そして、理解しようとも、受け入れようとも、思えなかった。
――わたしは、もう、その頃には、レオンを愛し始めていたのだから。
それからだった。レオンは何度となく、「浮気」としか思えない行為を繰り返すようになった。
それは、わたしの邪推でも、嫉妬でもなかった。
なぜなら――。
「わたくし、レオン様と小旅行に出かけましたの。もちろん、同じお部屋に宿泊しましたわ」
「金曜の夜はお帰りにならなかったでしょう? 私の部屋にお泊まりになったんですよ」
「昨夜は激しくて……朝方になって、ようやくお帰りになったはずですわ。そうでしょう?」
――彼の“浮気相手”だという女性たちが、わざわざ診療所まで足を運び、報告してくれたのだから。
レオンの倫理観では、交際相手以外の女性と関係を持っても、それは浮気ではないらしい。
騎士団では、戦闘後の高ぶった気を鎮めるため、欲を発散するのはやむを得ない――そんな考え方があるのだという。
『愛しているのはミレーユだけ』と、レオンは決まって口にする。心が伴わなければ浮気ではない――彼はそう信じているようだった。
けれど、今は戦時下ではない。日常だ。
その違いが、どうしても、レオンには通じなかった。
わたしは医師だ。職業柄、不特定多数と関係を持つ男性と、身体を重ねる気にはなれない。
性病に罹患するなんて――まっぴらごめんだ。
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