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終わらない記念日
王都の喧騒から少し離れた、トレタン伯爵家の別邸。
色とりどりの花が咲き乱れる庭園を見渡すテラスで、私は穏やかなティータイムを過ごしていた。
あの日、馬車の中でザック様の「本当の顔」を知ってから、数ヶ月。
結局、私たちの別れ話は白紙に戻った。それどころか、両家の話し合いは驚くべき速さで進み、私とザック様は正式に婚約を交わすことになったのだ。
「アン、お茶のおかわりはどうだい?」
背後からかけられた甘い声。
振り返ると、そこには以前と変わらぬ「爽やかな微笑み」を浮かべたザック様が立っていた。
けれど、その手は当然のように私の肩を抱き寄せ、流れるように私の髪に指を絡ませる。
「……ありがとうございます、ザック様」
「いいんだよ。君のためなら、何だってしてあげたいんだ」
彼は私の隣に腰を下ろすと、私の左手を取り、そこに嵌められた美しい魔石の指輪を愛おしそうに見つめた。
実はこの指輪、ただの婚約指輪ではない。ザック様が特注で作らせた「追跡魔法」が付与された一品だ。私がどこにいても、彼には筒抜けになっている。
「これがあれば、もう君が僕に内緒でどこかへ行こうとしても、すぐに見つけ出せる。……安心だね、アン?」
「……はい、ザック様」
少しだけ重たい愛の形。
けれど、彼がそれほどまでに私を必要としてくれている事実に、私は奇妙な安らぎを感じていた。
一方、私たちの幸せとは対照的に、カレン様の末路は悲惨なものだった。
ザック様が容赦なくポール様へ「証拠」を送りつけた結果、彼女の浮気癖と執着心が白日の下に晒されたのだ。ポール様からは婚約を破棄され、男爵家からも廃嫡に近い扱いを受け、今は田舎の修道院へ送られたと聞いている。
自業自得、という言葉では足りないほどの転落劇。
ザック様を怒らせるということは、そういうことなのだ。
「アン、何を考えているの? 僕以外のことを考えているなら、お仕置きが必要かな」
ザック様の瞳が、ふっと暗い色を帯びる。
彼は私の耳元に唇を寄せ、逃がさないように強く抱き寄せた。
「君は僕を解放してあげようとしたけれど……残念だったね。僕は君を一生、この腕の中に閉じ込めておくと決めたんだ」
「……分かっています。私も、もうどこにも行きません」
私は彼の胸に顔を埋め、その強く激しい鼓動を聴く。
かつて憧れた「爽やか王子」はもういない。
ここにいるのは、私の愛に依存し、私を独占することにすべてを捧げる、少しだけ壊れた私の婚約者。
「愛しているよ、アン。死が二人を分かつまで……いいえ、死んでも君を離さない」
狂おしいほどの愛の言葉が、初夏の風に乗って消えていく。
一年目の記念日は、悲しいお別れの日になるはずだった。
けれどそれは、本当の意味で私たちが「一つ」になるための、始まりの日に過ぎなかったのだ。
ハッピーエンド
___________
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色とりどりの花が咲き乱れる庭園を見渡すテラスで、私は穏やかなティータイムを過ごしていた。
あの日、馬車の中でザック様の「本当の顔」を知ってから、数ヶ月。
結局、私たちの別れ話は白紙に戻った。それどころか、両家の話し合いは驚くべき速さで進み、私とザック様は正式に婚約を交わすことになったのだ。
「アン、お茶のおかわりはどうだい?」
背後からかけられた甘い声。
振り返ると、そこには以前と変わらぬ「爽やかな微笑み」を浮かべたザック様が立っていた。
けれど、その手は当然のように私の肩を抱き寄せ、流れるように私の髪に指を絡ませる。
「……ありがとうございます、ザック様」
「いいんだよ。君のためなら、何だってしてあげたいんだ」
彼は私の隣に腰を下ろすと、私の左手を取り、そこに嵌められた美しい魔石の指輪を愛おしそうに見つめた。
実はこの指輪、ただの婚約指輪ではない。ザック様が特注で作らせた「追跡魔法」が付与された一品だ。私がどこにいても、彼には筒抜けになっている。
「これがあれば、もう君が僕に内緒でどこかへ行こうとしても、すぐに見つけ出せる。……安心だね、アン?」
「……はい、ザック様」
少しだけ重たい愛の形。
けれど、彼がそれほどまでに私を必要としてくれている事実に、私は奇妙な安らぎを感じていた。
一方、私たちの幸せとは対照的に、カレン様の末路は悲惨なものだった。
ザック様が容赦なくポール様へ「証拠」を送りつけた結果、彼女の浮気癖と執着心が白日の下に晒されたのだ。ポール様からは婚約を破棄され、男爵家からも廃嫡に近い扱いを受け、今は田舎の修道院へ送られたと聞いている。
自業自得、という言葉では足りないほどの転落劇。
ザック様を怒らせるということは、そういうことなのだ。
「アン、何を考えているの? 僕以外のことを考えているなら、お仕置きが必要かな」
ザック様の瞳が、ふっと暗い色を帯びる。
彼は私の耳元に唇を寄せ、逃がさないように強く抱き寄せた。
「君は僕を解放してあげようとしたけれど……残念だったね。僕は君を一生、この腕の中に閉じ込めておくと決めたんだ」
「……分かっています。私も、もうどこにも行きません」
私は彼の胸に顔を埋め、その強く激しい鼓動を聴く。
かつて憧れた「爽やか王子」はもういない。
ここにいるのは、私の愛に依存し、私を独占することにすべてを捧げる、少しだけ壊れた私の婚約者。
「愛しているよ、アン。死が二人を分かつまで……いいえ、死んでも君を離さない」
狂おしいほどの愛の言葉が、初夏の風に乗って消えていく。
一年目の記念日は、悲しいお別れの日になるはずだった。
けれどそれは、本当の意味で私たちが「一つ」になるための、始まりの日に過ぎなかったのだ。
ハッピーエンド
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