政略結婚した浮気男が、今さら本気で愛を囁いてきます!

恋せよ恋

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旦那様との初対面

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 ベルネール伯爵邸の応接間の扉が開く。重厚で落ち着いた空間に、結婚相手となるアルベール伯爵令息が一人、腰を下ろしていた。

 社交界で噂の美丈夫――魅力的な三白眼の灰青の瞳で、じっとロクサーヌを見つめる。低く色気のある声が響いた。

「はじめまして、ロクサーヌ侯爵令嬢。よく来てくれたね、さぁ、座って」

 老若男女すべてを魅了する伯爵家嫡男……納得の美貌と気品。その声に、ロクサーヌの胸が小さく跳ねる。

(――なんてずるい声……負けるな、わたし!)

「ごきげんよう、アルベール様……失礼いたします」
 王子妃を目指した十年の教育で身に付けた完璧な所作。背筋を伸ばし、優雅にソファに着席する。柔らかく沈むクッションが体を受け止める。

 アルベールは片眉を上げ、微笑む。
「ふむ、いい姿勢だ。実に美しい――君をずっと見ていたいよ」

 ロクサーヌは想像を超える甘い言葉に軽く動揺する。
(……余計な一言が多いわ、この男!でも目を逸らせずにいる自分が悔しいっ)

 しばしの沈黙。互いの視線が交わる。入室した侍女が紅茶をセットし、壁際へさがる。家令も並び控える。

 ロクサーヌは儚げな声で切り出す。
「……この結婚、アルベール様から断ってはいただけませんか?」

 アルベールはカップを置き、軽く肩をすくめた。
「ははは……冗談だろう? 君のように美しく、気高い令嬢と生涯を共にできるなんて――幸せすぎるくらいだ」

 ロクサーヌは目を細める。
(……ふざけないで。幸せですって?)

「幸せだとおっしゃるのですね……お優しいですわ」
 自分の美しさと立ち居振る舞いを最大限に活かし、儚げに弱々しく呟く。

 アルベールは笑みを浮かべ、ロクサーヌを見つめる。
「何も心配せず、僕の妻になって欲しい。ベルネール伯爵家も君を歓迎するよ」

 ロクサーヌは斜めに俯き、上目遣いで潤んだ瞳を向ける――完璧な“儚げ”。

 壁際に控える侍女たちは、十六歳の少女の切なげな姿に同情していた。

 アルベールは、自分の艶聞が彼女の口から出るとは思わなかったが、淡々と返す。
「未婚の貴族令息の“ほんのお遊び”さ。妻帯したら君だけを愛するよ、僕のロクサーヌ」

( ……軽いわ。まったく信用できないわね)

 ロクサーヌは斜めに顔を上げ、儚げな仮面を外す。
「まあ、そうなのですね。わたくし、まだ男女の機微には疎くて……未婚の貴族令息は皆さま、そう言うものなのですね」

 壁際の使用人たちは、心の中で思った――( 違う!!)

「では、せめて……わたくしが十九歳になるまでは、部屋は別にして下さいませんか?わたくし……まだ……怖くって……」

 両手を胸の前で組み、潤んだ瞳で懇願する少女――その姿は、庇護欲を強く刺激する。

 アルベールは、年若い少女の不安げな姿に心惹かれそうになり、思わず違う扉を開きかけて慌てて閉める。美しく気高い侯爵令嬢が、自分に懇願する姿……心がキュンとする初めての感覚。

「ああ、ロクサーヌ。君は不安なんだね。大丈夫だよ。すべて僕にゆだねてくれればいい。経験は豊富だからね」

 使用人たちはピシッと固まった。

「……へえ、そう。経験が豊かでらっしゃるのね。それはそれは、ぜひ、そのまま他でお試し遊ばせ……」

 猫をかぶった儚げな少女は消えた。今、向かいのソファに座るのは――上品で、優雅で、気高く、美しい。そして――圧倒的な迫力とオーラ。

 アルベールは思わず息を飲む。
(……これが、本当のロクサーヌ嬢か。へぇ、いいな……)

 猫をかぶって控えめだった少女も、強気で気高い女性も――どちらも最高だ。
 むしろ、今の強気な姿の方が、より心惹かれる。

「やばいな。君のようなタイプ、完全に弱い」
 アルベールは静かに呟き、視線を外せずにいた。その胸の内には、甘く危険な予感が芽生える――

 アルベールは、ロクサーヌから目が離せなかった。無意識に灰青の三白眼が、目の前の少女を捉えている。

 唇の端を上げる。――ああ、この子を手放すなんて絶対に無理だ。
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