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情けない旦那様
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アルベールは、静かに椅子に座ったまま、ロクサーヌを見つめていた。彼女の立ち居振る舞い、声の抑揚、そして微笑のひとつひとつ——すべてが計算されたように完璧で、同時に自然体だった。
(――ずるい……こんなに純粋無垢で、心まで読めるような冷静さ……)
いつもは遊び人として、女性を翻弄してきた自分。だが、今この瞬間だけは、胸の奥に妙な焦燥が広がる。
心がざわつくのを感じ、思わず唇を噛む。
「君は……本当に、他の女性とはまるで違う」
アルベールは小さく呟く。声は届かないほどの独り言だったが、その目は隠せない感情で揺れていた。
ロクサーヌは一瞬だけその視線に気づいたかのように、目を細めて微笑む。しかし声を出すことはなく、相変わらず穏やかに、そして凛とした姿勢を崩さない。
――俺のこれまでの行いは――
アルベールは思わず、自分の過去の浮気や遊びの愚かさを噛み締める。
ロクサーヌの冷静さと器量が、彼の心を、知らぬ間に縛り始めていた。
「……これからは、君だけだ」
アルベールの心の中の決意は、まだ声にならない。しかし確かに、彼の瞳の奥で、ロクサーヌへの想いが静かに燃え始めていた。
ロクサーヌは軽く微笑み、アルベールの目の奥に浮かぶ動揺を見逃さなかった。
「旦那様、そんなに見つめてどうなさったのです? 私に見惚れているのかしら……」
小さく照れくさそうに、ロクサーヌは声を柔らかく揺らす。「……あまりじっと見ないでくださいませ、照れてしまいますから」
その声は穏やかで、しかしどこか上品な余裕を含んでいる。アルベールの視線を受けても、彼女は動じることなく、可憐さと気品を両立させているのだった。
アルベールは咄嗟に目を逸らす。
(……くっ、こいつ……なんて意地が悪い……!)
「いや、その……別に……」
言葉が続かず、思わず顔が赤くなる。
今まで女性を翻弄してきた彼が、こんなにもあからさまに戸惑う姿を、ロクサーヌは内心でくすりと笑った。
「ふふ、よろしいですわ。見るだけなら構いませんけれど……見るだけで満足なさるのでしたら、どうぞそのままで」
あくまで穏やかに、しかし確実に優位を示す。その姿は、まるで社交界全体を掌握しているかのような圧倒的な存在感だった。
アルベールは悔しさで頬の赤みが増す。
これまで一夜限りの女性たちを軽く扱ってきた自分が、今、十八歳の若き夫人に完璧に翻弄されている――心のどこかで、確かに、初めての感情が芽生えていた。
ロクサーヌは少し首を傾げ、白い手を軽く揺らす。
「アルベール様、どうぞお気をつけて。私を軽んじると、後で必ず後悔なさいますわよ」
柔らかく、上品に、しかし冷徹に放たれた言葉に、アルベールは思わず息を呑む。
――この人にだけは、絶対に敵わない。胸の奥で、静かに焦燥と尊敬が混ざり合う。
そして、アルベールは初めて、ロクサーヌの前で素直に、真剣に自分を見つめ直す決意を固めたのだった。
アルベールの灰青の瞳が、いつもより少し鋭く、しかしどこか切なく揺れているのを、ロクサーヌは見逃さなかった。
「ロクサーヌ……君だけが欲しい」
その言葉に、胸の奥がふわりと熱くなる。頬がほんのり染まるのを、わずかに呼吸を乱すのを、彼は気づいているのだろうか。
でもロクサーヌは、意識的に少しだけ離れた距離を保つ。ドキドキする心を抑えつつ、柔らかく微笑む。
「……そうですか。では、これからのあなたを、静かに見守らせていただきますわ」
その声は冷静で落ち着いているのに、アルベールには甘く響いた。思わず彼は、ロクサーヌの小さな手を握りたくなる衝動に駆られる。
思い出すのは、あの夜会の浮気騒動。あの時は冷たく、どこか他人事だった自分――でも今は違う。彼女を前にして、心の奥底から愛おしさが込み上げる。
そしてロクサーヌもまた、少しだけドキドキを感じていた。彼の真剣な眼差し、少し痩せて引き締まった身体、逆に色気が増した姿……
「ずるい……こんなに大人っぽくなるなんて」
思わず心の中で小さく呟き、でも表情は変えず、上品に微笑む。
アルベールがそっと距離を縮める。息がかかるほどの距離。頬の熱を感じて、ロクサーヌの心臓は高鳴る。
その瞬間――二人の距離も、気持ちも、少しずつ重なり始めた。
________________________
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(――ずるい……こんなに純粋無垢で、心まで読めるような冷静さ……)
いつもは遊び人として、女性を翻弄してきた自分。だが、今この瞬間だけは、胸の奥に妙な焦燥が広がる。
心がざわつくのを感じ、思わず唇を噛む。
「君は……本当に、他の女性とはまるで違う」
アルベールは小さく呟く。声は届かないほどの独り言だったが、その目は隠せない感情で揺れていた。
ロクサーヌは一瞬だけその視線に気づいたかのように、目を細めて微笑む。しかし声を出すことはなく、相変わらず穏やかに、そして凛とした姿勢を崩さない。
――俺のこれまでの行いは――
アルベールは思わず、自分の過去の浮気や遊びの愚かさを噛み締める。
ロクサーヌの冷静さと器量が、彼の心を、知らぬ間に縛り始めていた。
「……これからは、君だけだ」
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ロクサーヌは軽く微笑み、アルベールの目の奥に浮かぶ動揺を見逃さなかった。
「旦那様、そんなに見つめてどうなさったのです? 私に見惚れているのかしら……」
小さく照れくさそうに、ロクサーヌは声を柔らかく揺らす。「……あまりじっと見ないでくださいませ、照れてしまいますから」
その声は穏やかで、しかしどこか上品な余裕を含んでいる。アルベールの視線を受けても、彼女は動じることなく、可憐さと気品を両立させているのだった。
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「いや、その……別に……」
言葉が続かず、思わず顔が赤くなる。
今まで女性を翻弄してきた彼が、こんなにもあからさまに戸惑う姿を、ロクサーヌは内心でくすりと笑った。
「ふふ、よろしいですわ。見るだけなら構いませんけれど……見るだけで満足なさるのでしたら、どうぞそのままで」
あくまで穏やかに、しかし確実に優位を示す。その姿は、まるで社交界全体を掌握しているかのような圧倒的な存在感だった。
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これまで一夜限りの女性たちを軽く扱ってきた自分が、今、十八歳の若き夫人に完璧に翻弄されている――心のどこかで、確かに、初めての感情が芽生えていた。
ロクサーヌは少し首を傾げ、白い手を軽く揺らす。
「アルベール様、どうぞお気をつけて。私を軽んじると、後で必ず後悔なさいますわよ」
柔らかく、上品に、しかし冷徹に放たれた言葉に、アルベールは思わず息を呑む。
――この人にだけは、絶対に敵わない。胸の奥で、静かに焦燥と尊敬が混ざり合う。
そして、アルベールは初めて、ロクサーヌの前で素直に、真剣に自分を見つめ直す決意を固めたのだった。
アルベールの灰青の瞳が、いつもより少し鋭く、しかしどこか切なく揺れているのを、ロクサーヌは見逃さなかった。
「ロクサーヌ……君だけが欲しい」
その言葉に、胸の奥がふわりと熱くなる。頬がほんのり染まるのを、わずかに呼吸を乱すのを、彼は気づいているのだろうか。
でもロクサーヌは、意識的に少しだけ離れた距離を保つ。ドキドキする心を抑えつつ、柔らかく微笑む。
「……そうですか。では、これからのあなたを、静かに見守らせていただきますわ」
その声は冷静で落ち着いているのに、アルベールには甘く響いた。思わず彼は、ロクサーヌの小さな手を握りたくなる衝動に駆られる。
思い出すのは、あの夜会の浮気騒動。あの時は冷たく、どこか他人事だった自分――でも今は違う。彼女を前にして、心の奥底から愛おしさが込み上げる。
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「ずるい……こんなに大人っぽくなるなんて」
思わず心の中で小さく呟き、でも表情は変えず、上品に微笑む。
アルベールがそっと距離を縮める。息がかかるほどの距離。頬の熱を感じて、ロクサーヌの心臓は高鳴る。
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