「義姉が気の毒だ」 は?彼女は泥棒猫の従姉ですわ、婚約者様

恋せよ恋

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家督の重み

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 静まり返った卒業パーティーの会場。クリスタルのシャンデリアの輝きさえも、今は冷徹なスポットライトのようにアルバートとパメラを照らし出している。

 バウワー公爵フレデリックの宣言は、雷鳴のように響き渡った。

「アルバート。お前にバウワー公爵家を任せることはできん。本日、この時をもって、お前を次期当主の座から解任する。公爵家の家督は、次男であるテリオスに継がせることに決定した」

「な……っ!? 父上、何を仰っているのですか! 僕は嫡男ですよ!? ただの女一人との婚約を解消しただけで、なぜ……!」

 アルバートの声が裏返り、狼狽が会場中に伝染していく。対照的に、オーデリアの隣に立つテリオスは、感情を排した涼やかな表情で兄を見据えていた。

「『ただの女一人』……か。兄上、その言葉こそが、あなたが当主にふさわしくない何よりの証拠です。オーデリア嬢は、フィッツ侯爵家の長女であるだけでなく、アマンド公爵家の血を引く、王家とも繋がりの深い方だ。彼女との婚約は、我が家の基盤そのものだった。それを、あろうことか公衆の面前で辱めるとは……。あなたが捨てたのは婚約者ではなく、公爵家としての信用そのものですよ」

 テリオスの言葉は、鋭いナイフのようにアルバートの虚栄心を切り裂いていく。

「それに」とテリオスは続けた。「兄上がパメラ嬢に買い与えていた宝石やドレス。その出所がどこか、まさか忘れたとは言わせませんよ」

「……っ!」

「公爵家から支給されている『学費』を流用し、足りない分はクック子爵領の復興基金から前借りする形をとっていた。パメラ嬢、あなたが『オーデリアがドレスを作ってくれない』と泣きついて、兄上に工面させたお金……それは、クック子爵領の領民が冬を越すために備蓄していた税金です」

 周囲から「まあ……」「なんてこと……」と、嫌悪感に満ちた声が漏れる。

 パメラは顔を真っ青にし、ガタガタと震え出した。

「ち、違うわ……! 私は、公爵夫人にふさわしい格好をしろって、アルバート様に言われて……! そうよ、私は被害者なの! アルバート様が、私を放っておけないって……!」

「パメラ、君……!?」

 先ほどまで「愛」を誓い合っていた二人の間に、早くも亀裂が走る。

 オーデリアは、手にしていた扇をパチンと閉じ、一歩前へ出た。彼女の纏う深紅のドレスが、揺らめく炎のようにパメラを威圧する。

「パメラ様。あなたは『公爵夫人になれば、すべてが手に入る』と信じて疑わなかったようですが……貴族の義務を放棄した者に、その特権を享受する資格はありません。あなたはクック子爵家の嫡子として、領地を管理し、領民を守る義務がある。……それを『知らない』『貧乏くさい』と切り捨てた瞬間、あなたは貴族としての自分を殺したも同然ですわ」

「嫌よ……! 私は公爵夫人になるの! アルバート様、どうにかして! ねえ!」

 パメラがアルバートの腕に縋り付くが、当のアルバートも自分の地位が崩れ落ちる恐怖でそれどころではない。

「父上! 家督を継がせないなら、僕はどうなるのですか! どこへ行けというのです!」

 フレデリック公爵は、深くため息をつき、憐れみを含んだ視線を息子に向けた。

「お前はパメラ嬢を『守る』と言ったな。ならば、その言葉に責任を持て。お前はバウワー公爵家から籍を抜く。そして、クック子爵家の嫡子であるパメラ嬢の婿として、子爵家に入ってもらう」

「な……っ!? 子爵家に……婿入り……!?」

 アルバートの顔が絶望に染まる。王都で最高権力を誇る公爵家から、地方の、それも今や疲弊しきった子爵家への「格下げ」。それは彼にとって、死刑宣告にも等しい屈辱だった。

「えっ! ちょっと待ってよ!」
 パメラが悲鳴を上げた。

「アルバート様が公爵じゃないなら、結婚する意味がないわ! 私は煌びやかな公爵邸で、オーデリアよりも豪華な生活をするはずだったのに! どうして私が、あんな田舎で質素な生活に戻らなきゃいけないのよ!」

「パメラ、君、今なんと言った……? 結婚する意味がない……?」

 アルバートが呆然とパメラを見つめる。パメラはもはや猫を被る余裕もなく、剥き出しの本性を露呈させた。

「当たり前じゃない! あんたが公爵家の跡取りだから、わざわざオーデリアから奪ってやったのよ! ただのアルバートなんて、何の価値もないわ! ……ああっ! 嘘よ、夢よこれ! 私は公爵夫人になるのよ!」

 会場からは失笑が漏れた。

 あまりに浅ましく、あまりに愚かなやり取り。

 オーデリアは、その滑稽な二人を見つめながら、隣のテリオスに視線を送った。テリオスは頷き、オーデリアの手を優しく取り直した。

「アルバート兄上、パメラ嬢。安心してください。クック子爵領の再建については、バウワー公爵家……つまり僕が、新たな当主として最低限の支援は約束します。ただし、それは領民のための支援です。お二人の贅沢品に充てる金は、一メルたりともありません」

「そんな……っ」

「そして、オーデリア嬢。……いや、オーデリア」
 テリオスが、会場にいる全員に聞こえるように、はっきりと告げた。

「兄上との婚約が解消された今、改めて正式に申し入れたい。僕、テリオス・バウワーの公爵家継承後の婚約者として、オーデリア・フィッツ嬢、あなたをお迎えしたい。……受けていただけますか?」

 会場が再びどよめきに包まれる。

 それは、誰もが納得する最高の組み合わせだった。学園始まって以来の秀才同士。そして、これまでの苦難を共に乗り越えた同志。

 オーデリアは、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。

「テリオス様。……いえ、テリオス。私は気が強いですし、あなたの仕事にも口を出しますわよ? お兄様のように、大人しく私の言いなりになるような女性ではありませんけれど」

「それがいいんです。あなたのような賢明な方が隣にいてくれなければ、公爵家の未来は描けません」

 オーデリアは深く膝を折り、これまでのどんな礼よりも美しいカーテシーを披露した。

「謹んで、お受けいたしますわ」

 割れんばかりの拍手が沸き起こる。

 その祝福の嵐の中で、アルバートとパメラだけが、誰にも顧みられることなく、冷たい床に崩れ落ちていた。

「どうして……どうしてこうなったの……」
 パメラの呟きに答える者はいない。

 彼女が欲しがったのはオーデリアの「モノ」だったが、オーデリアが守り抜いたのは、貴族としての誇りと、それを支える実力だったのだ。

 夜会の終わり。オーデリアは、馬車へ向かう途中で、護送されるように連れて行かれるアルバートとパメラの背中を見た。

 明日からは、彼らが最も嫌った質素で責任の重い日常が始まる。

 そして自分には、テリオスと共に創り上げる、新しく、そして輝かしい未来が待っている。

「最高に気楽な『おひとり様』を満喫するつもりでしたけれど……」

 オーデリアは、エスコートするテリオスの腕に、そっと自分の手を重ねた。

「二人で行く未来も、悪くありませんわね」

 サファイアの瞳には、希望に満ちた夜明けの光が、すでに宿っていた。
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エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

📢✨新連載2本スタート
🌹【愛してると泣かれても迷惑です~お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ~】💍💔
🌹【泥だらけの迷い犬を拾ったら、牙の鋭い捕食者(伯爵家嫡男)に育ちました。~公爵令嬢は、教え子の愛に逃げ場を失う~】
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