初恋が死んだ日〜「結婚したら君だけにするから」と笑った貴方を私は一生許さない 〜

恋せよ恋

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遊びの結果、因果応報

  感動的な和解の空気を切り裂いたのは、ジェーンの金切り声だった。

「ふざけないでよ! アンナが幸せになる? 冗談じゃないわ!」

 ジェーンはトーマスの腕を掴んで激しく揺さぶる。

「トーマス! 私、妊娠したって言ったじゃない! 責任を取って私と結婚しなさいよ! 私だって宿屋の女将さんになって幸せになるんだから!」

 その場にいた全員が、吐き気を催すような嫌悪感に包まれた。しかし、追い詰められたトーマスから返ってきたのは、さらに醜い罵声だった。

「うるせえ! 離せよ、この尻軽! ……大体、その子が俺の子だとは限らねえだろうが! お前が裏でどんだけの数の男たちと遊んでたか、俺は知ってるんだぞ!」

「なっ……! よくもそんなことが言えるわね! あなたが毎日私を呼び出しておいて!」

「お前みたいな、金と男のことしか頭にねえ女に、うちの看板が背負えるわけねえだろ! 宿の女将なんて務まるかよ!」

 二人の怒鳴り合いは、もはや痴話喧嘩の域を超えていた。みっともなく、卑しく、外の通りまで響き渡るその醜態。アンナは、かつてこの男のために涙を流した自分を、今この瞬間、最大の屈辱として呪いたくなった。

 トーマスの両親は、顔を覆って震えていた。やがて、主が静かに、しかし峻烈にジェーンへ告げた。

「……悪いが、あんたをうちに迎えることは、天地がひっくり返ってもありえない」

「そんな! お腹には、トーマスの子が!初孫がいるんですよ!?」

「あんたの噂は、この狭い街だ。嫌でも耳に入ってくる。あちこちの男に色目を使っては、金を引き出していたそうじゃないか。とてもじゃないが、格式ある宿屋の門を潜らせるわけにはいかない」

「ひどい……! 私はトーマスと付き合ってからは、他の誰とも関係を持っていません!」

「……すまんが、信じられんよ。そもそも、不貞を繰り返した息子と、不貞を知りながら近づいた女の話だ。誰が信じるというのかね」

 ジェーンが絶望に顔を歪める中、宿屋の主は、冷たく突き放すように続けた。

「話は、まずは生まれてからだ。本当に、トーマスの子だと分かってから、その後のことを考えるとしよう。だが、結婚は認めん。……すまんが、これまでの自分たちの行いによる、因果応報だと思うんじゃな」

「……っ!」

 ジェーンは言葉を失い、崩れ落ちた。トーマスはそんな彼女を見捨て、宿屋へと駆け出していく。

 アンナは、そのすべてを冷めた目で見つめていた。

 カイルの温かい手が、彼女の肩を優しく抱き寄せる。

「……行こう、アンナさん。君が、こんな修羅場を見る必要はない」

「……はい。行きましょう、カイル様」

 アンナは一度も後ろを振り返ることなく、カイルと共にパン屋の二階へと消えた。

 背後では、まだジェーンの叫び声と、トーマスへの罵声が、夕闇のブラントに虚しく響き渡っていた。それが、彼女が愛した「過去」の、あまりにも惨めで、必然的な終焉だった。
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