【完結】「従妹は病弱なんだ」と私を放置する婿入り婚約者はいりません 〜帰国した義兄に、身も心も奪い尽くされる〜

恋せよ恋

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格の違い

「……僕の大事な婚約者候補に、随分と不躾な口を利くじゃないか、カルロス・チャーチル」

 低く、大気を震わせるようなオリビエの声が室内に響いた瞬間、カルロスは飛び上がるようにロクサーヌから手を離した。

 扉の前に立つオリビエは、腕を組み、冷徹なエメラルドの瞳でカルロスを射抜いている。その背後には、アステリア子爵家の屈強な護衛たちが控え、逃げ場を塞いでいた。

「ロ、ロンゲール伯爵……! これは婚約者同士の話し合いだ、部外者は黙っていろ!」

 カルロスは震える声で叫んだが、オリビエは鼻で笑い、ゆっくりと歩み寄った。一歩ごとに、カルロスが後ずさり、やがて背中が壁にぶつかる。

「部外者? お前こそ、婚約を解消される男の分際で、この屋敷の主に許可なく上がり込み、令嬢を恫喝するなど……。チャーチル伯爵家の教育とは、随分と底が浅いようだな」

「ど、恫喝などしていない! 私はロクサーヌに愛を伝えていただけだ!」

「愛、か。……笑わせるな」

 オリビエはカルロスの目の前で立ち止まり、その恵まれた体躯で彼を完全に見下ろした。
 現役の外交官として修羅場を潜り、自らの腕で伯爵位を奪還したオリビエと、親の威光を傘に着て従妹と遊んでいただけのカルロス。その「格」の差は、誰の目にも明らかだった。

「お前が求めているのはロクサーヌではない。この家が持つ財産と、次期子爵という座だろう? ビビアン嬢との放蕩を支えるための金が、そんなに惜しいか」

「なっ……! 何を……!」

「調べはついている。お前はアステリア家のツケでビビアンに高価な装飾品を買い与え、挙句の果てには自分の不始末を、ロクサーヌに肩代わりさせようとしていたそうじゃないか。……ただの寄生虫が、主の顔をするな」

 オリビエの瞳から、一瞬、隠しきれない殺気が漏れ出した。
 ロクサーヌは、横に立ったオリビエの、鋼のような腕にそっと手を添えた。彼がこの男を物理的に叩き潰してしまいそうなほど、激しく怒っているのが分かったからだ。

「オリビエ様……。もう十分ですわ。言葉を尽くす価値もありません」

「……ああ、そうだね。君の耳を、これ以上汚すべきじゃない」

 オリビエはロクサーヌに向けるときだけ、春の陽だまりのような微笑みを浮かべた。しかし、再びカルロスに向き直ったその顔は、死神のそれだった。

「チャーチル伯爵家次男、カルロス。貴殿をアステリア子爵邸への出入り禁止とする。これは子爵本人の通達だ。……おい、つまみ出せ」

「なっ、待て! 放せ! ロクサーヌ、君からも何か言ってくれ!」

 執事たちに両脇を抱えられ、無様に足掻くカルロス。ロクサーヌは、引きずられていくかつての婚約者を、一抹の憐れみもなく見送った。

「さようなら、カルロス様。……二度とお会いすることはないでしょう」

 玄関ホールからカルロスの叫び声が遠ざかり、再び静寂が戻ったサロン。
 オリビエはふぅ、と深い溜息をつくと、ロクサーヌの肩をそっと抱き寄せた。

「……怖かったかい?」

「いいえ。……スカッといたしましたわ」

 ロクサーヌが少しいたずらっぽく笑うと、オリビエは愛おしそうに彼女の額を自分の胸に預けた。

「あんな男のために、君の七年間があったと思うと、僕は彼を八つ裂きにしても足りない気分だ。……だが、これからは僕が、君のすべてを守る。地位も、名誉も、君の心も」

 オリビエの腕の強さに、ロクサーヌは深い安らぎを感じていた。
 蛙のように怯えるしかなかったカルロス。そして、獅子のように自分を守るオリビエ。本当の「強さ」とは何かを、ロクサーヌは今、肌で感じていた。
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