【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

文字の大きさ
2 / 93

婚約者は恋人に夢中

しおりを挟む
 アナスタシアは、放課後の生徒会室にひとり座る。机の上には書類が散らばり、ペンの音だけが静かに響く。

 王家の執務と比べれば、ここでの作業は単純な書類仕事だ。だが、限られた時間でこなすべき仕事は思った以上に多く、頭は少しも休まらない。

 アナスタシアは、全力で生徒会の運営に尽くす。小さな声にさえ耳を傾け、隅々まで気を配る。こうした日々が、いつか大きな実りとなることを、心の奥で願って。

 ――本来なら、生徒会長であるエドワード王太子殿下が行うべき執務だ。
 でも、エドワードは、最愛のシャルロット嬢と市井へ遊びに出かけている。

 側近三名と護衛を従えて、まるで小さな王の行列のように、楽しそうに街を歩いているのだろう。

 本来であれば、殿下を嗜め、正しい道へ導くべき立場の側近たちでさえ、目を輝かせて遊びに夢中だ。

 フェルナンド公爵令息、ステファン侯爵令息、チャールズ伯爵令息。
 皆、それぞれの婚約者を放置して、新しい刺激に心を奪われている。

 ――あんなに可愛らしい方ですもの、当然なのでしょうね......ふふふ。

 誰に聞かせるでもなく、私の胸の奥で自嘲が漏れた。

 生徒会室には、ペン先が書類に触れる音だけが、冷たく、静かに響いている。
 
 世界は灰色。
 楽しいはずの放課後も、私にとっては単なる執務の時間。

 色も声も、すべて遠くで揺れる光景のように、私には届かない。

 ◇◇◇

 書類を一枚めくったとき、ふと窓の外が騒がしくなった。
 夕陽が差し込むガラス窓の向こう、学院の門前に、小さな人だかりができている。

 誰かと思えば――エドワード殿下だ。
 傍らには、当たり前のようにシャルロット嬢が寄り添っている。

 距離があっても、二人の笑みはよく見える。
 殿下は、いつも私に向けられることのなかった柔らかな表情で、彼女の頭を軽く撫でていた。

 胸の奥に、ひどく静かな痛みが走った。叫ぶわけでも、涙を流すわけでもない。ただ、冷たく沈むような痛み。

 どうして、こんなに遠いのだろう。
 同じ学院にいて、同じ時間を過ごしているはずなのに。

 私は窓辺へ近づくことなく、ただ手元の書類に視線を落とした。
 そうでもしなければ、何かが壊れてしまいそうだった。

 けれど……。

 少し開けた窓から耳に届くのは、生徒たちの声。

「わぁ……シャルロット様って、まるで物語のお姫様みたいね」
「殿下があんなに楽しそうに笑うなんて初めて見たわ」
「お似合いよね、あのお二人……」

 まるで針のように、一つひとつの言葉が胸に刺さる。聞きたくなくても聞こえてしまうのが、残酷だった。

 気づけば、私は深く息を吐いていた。白い息が出るわけではないのに、胸の内は凍りついたまま。

 ああ――。
 私の場所は、もう誰の隣にもないのだ、と。

 その事実を、痛いほどはっきりと理解してしまった瞬間だった。

 生徒会室の空気は相変わらず灰色で、ペン先の音だけが、静かに孤独を刻んでいた。

つづく

______________

✨エール📣いいね❤️お気に入り⭐️で応援していただけると嬉しいです💫




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。 ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

処理中です...