【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

文字の大きさ
3 / 93

屈辱の舞踏会

しおりを挟む
 煌びやかな王宮の舞踏会。

 宝石のようにきらめくドレス、軽やかに舞う扇、笑い声──
 その全てが熱を持ち、光を放ち、華やかな空気に満ちている。

 ……わたしを、置き去りにしたまま。

 今夜の夜会に、エドワード殿下からのエスコートはなかった。新しいドレスも、アクセサリーも用意されていなかった。
 私は兄サミュエルのエスコートで、静かに入場した。

 途端、周囲の視線や囁き声がわたしを傷つける。

「まあ……アナスタシア様は殿下とご一緒ではないの?」

「殿下には“最愛のご令嬢”がいると聞いたわ」

「婚前からあんなでは……先が思いやられるわねえ」

 声は囁きであって、囁きではない。ナイフのように胸を切る、残酷な好奇心。

 今夜、わたしは格好の餌食。
 話題であり、笑いものであり、そして──噂の中心。

 そんなとき。
 視線の先に現れたのは、エドワード殿下。その腕に絡むのは、シャルロット・フレイ男爵令嬢。

 揃いの衣装。殿下の瞳に映るのは彼女だけ。彼女の笑顔も、殿下の微笑みも、あまりに美しくて、残酷だった。

 私に向けられたことのない表情を、彼女は簡単に引き出す。

 瞳の奥が熱くなり、喉が痛んだ。わたしは、未来の王太子妃の仮面をつけ、ただ微笑む。

 「やあ、アナスタシア。今日も君は綺麗だね。今夜は、エスコートできなくて、すまなかったね。」

 殿下は、腕にシャルロット嬢を伴い呑気に言った。

 全身を駆け巡る血が逆流するような感覚。それでも、私は微笑みを崩さない。

 ――いつか必ず、この努力を見つけてくれる人がいる。そう信じて、私は婚約者として夜会全体に心を巡らせた。

 「ごきげんよう、エドワード王太子殿下。お気遣いありがとうございます。」

 これ以上、何を言えばよかったのか。
 私にはもう分からなかった。

 「シャルロットには、初めての王宮の夜会だから、ひどく不安がってね。君は慣れているから大丈夫だろう。」

 大丈夫。慣れている。
 ……何に?
 置き去りにされることに?

 声は出ない。
 出したところで、きっと何も変わらない。

 「アナスタシア様、こんばんは。エドワード様をお借りしてしまい、ごめんなさい。」

 シャルロット嬢が、当たり前のように殿下の名を口にする。
 その瞬間、周囲の空気が波立った。

 「フレイ男爵令嬢は、殿下を名前呼び……?」

 「殿下はシャルロット嬢を選ばれたのよ……」

「揃いの衣装をお召しになっているわ……!」

 噂は、さざなみのように周囲へ広がっていく。

 兄サミュエルが痛ましげに私を見つめる。でも──私から何も言えなかった。

 「両陛下のご入場!」
 近衛騎士の声が響きわたる。

 フィリップ陛下は穏やかに微笑み、マグノリア王妃は、私たちを一瞥した。

 その視線は、冷たく、鋭く、私の心を射抜く。

 楽団が演奏を始める。
 花のようなドレスが舞い踊る。

 そして──殿下のファーストダンスの相手は、やはりシャルロット嬢だった。

 胸が潰れそうだった。
 涙は出なかった。
 ただ、苦しく、惨めで、情けなくて。

 壇上の王妃と目が合った。

 その微笑みの裏に潜む言葉が、脳裏で蘇る。

 「公爵令嬢ともあろうものが、男爵令嬢ごときに出し抜かれるとは情けない!」

 「あなたに魅力が足りないから、エドワードが他を見るのですよ!」

 「努力が足りないのではなくて?もっと学びなさい!」

 努力。もっと努力。まだ足りないの?

 ……私は、どれほど頑張れば、認められるのだろう。

 王宮の光の中で、私はひとり、灰色の影のように立ち尽くしていた。

つづく
______________

✨「エール📣」と「いいね❤️」で応援していただけると嬉しいです💫

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

処理中です...