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屈辱の舞踏会
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煌びやかな王宮の舞踏会。
宝石のようにきらめくドレス、軽やかに舞う扇、笑い声──
その全てが熱を持ち、光を放ち、華やかな空気に満ちている。
……わたしを、置き去りにしたまま。
今夜の夜会に、エドワード殿下からのエスコートはなかった。新しいドレスも、アクセサリーも用意されていなかった。
私は兄サミュエルのエスコートで、静かに入場した。
途端、周囲の視線や囁き声がわたしを傷つける。
「まあ……アナスタシア様は殿下とご一緒ではないの?」
「殿下には“最愛のご令嬢”がいると聞いたわ」
「婚前からあんなでは……先が思いやられるわねえ」
声は囁きであって、囁きではない。ナイフのように胸を切る、残酷な好奇心。
今夜、わたしは格好の餌食。
話題であり、笑いものであり、そして──噂の中心。
そんなとき。
視線の先に現れたのは、エドワード殿下。その腕に絡むのは、シャルロット・フレイ男爵令嬢。
揃いの衣装。殿下の瞳に映るのは彼女だけ。彼女の笑顔も、殿下の微笑みも、あまりに美しくて、残酷だった。
私に向けられたことのない表情を、彼女は簡単に引き出す。
瞳の奥が熱くなり、喉が痛んだ。わたしは、未来の王太子妃の仮面をつけ、ただ微笑む。
「やあ、アナスタシア。今日も君は綺麗だね。今夜は、エスコートできなくて、すまなかったね。」
殿下は、腕にシャルロット嬢を伴い呑気に言った。
全身を駆け巡る血が逆流するような感覚。それでも、私は微笑みを崩さない。
――いつか必ず、この努力を見つけてくれる人がいる。そう信じて、私は婚約者として夜会全体に心を巡らせた。
「ごきげんよう、エドワード王太子殿下。お気遣いありがとうございます。」
これ以上、何を言えばよかったのか。
私にはもう分からなかった。
「シャルロットには、初めての王宮の夜会だから、ひどく不安がってね。君は慣れているから大丈夫だろう。」
大丈夫。慣れている。
……何に?
置き去りにされることに?
声は出ない。
出したところで、きっと何も変わらない。
「アナスタシア様、こんばんは。エドワード様をお借りしてしまい、ごめんなさい。」
シャルロット嬢が、当たり前のように殿下の名を口にする。
その瞬間、周囲の空気が波立った。
「フレイ男爵令嬢は、殿下を名前呼び……?」
「殿下はシャルロット嬢を選ばれたのよ……」
「揃いの衣装をお召しになっているわ……!」
噂は、さざなみのように周囲へ広がっていく。
兄サミュエルが痛ましげに私を見つめる。でも──私から何も言えなかった。
「両陛下のご入場!」
近衛騎士の声が響きわたる。
フィリップ陛下は穏やかに微笑み、マグノリア王妃は、私たちを一瞥した。
その視線は、冷たく、鋭く、私の心を射抜く。
楽団が演奏を始める。
花のようなドレスが舞い踊る。
そして──殿下のファーストダンスの相手は、やはりシャルロット嬢だった。
胸が潰れそうだった。
涙は出なかった。
ただ、苦しく、惨めで、情けなくて。
壇上の王妃と目が合った。
その微笑みの裏に潜む言葉が、脳裏で蘇る。
「公爵令嬢ともあろうものが、男爵令嬢ごときに出し抜かれるとは情けない!」
「あなたに魅力が足りないから、エドワードが他を見るのですよ!」
「努力が足りないのではなくて?もっと学びなさい!」
努力。もっと努力。まだ足りないの?
……私は、どれほど頑張れば、認められるのだろう。
王宮の光の中で、私はひとり、灰色の影のように立ち尽くしていた。
つづく
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宝石のようにきらめくドレス、軽やかに舞う扇、笑い声──
その全てが熱を持ち、光を放ち、華やかな空気に満ちている。
……わたしを、置き去りにしたまま。
今夜の夜会に、エドワード殿下からのエスコートはなかった。新しいドレスも、アクセサリーも用意されていなかった。
私は兄サミュエルのエスコートで、静かに入場した。
途端、周囲の視線や囁き声がわたしを傷つける。
「まあ……アナスタシア様は殿下とご一緒ではないの?」
「殿下には“最愛のご令嬢”がいると聞いたわ」
「婚前からあんなでは……先が思いやられるわねえ」
声は囁きであって、囁きではない。ナイフのように胸を切る、残酷な好奇心。
今夜、わたしは格好の餌食。
話題であり、笑いものであり、そして──噂の中心。
そんなとき。
視線の先に現れたのは、エドワード殿下。その腕に絡むのは、シャルロット・フレイ男爵令嬢。
揃いの衣装。殿下の瞳に映るのは彼女だけ。彼女の笑顔も、殿下の微笑みも、あまりに美しくて、残酷だった。
私に向けられたことのない表情を、彼女は簡単に引き出す。
瞳の奥が熱くなり、喉が痛んだ。わたしは、未来の王太子妃の仮面をつけ、ただ微笑む。
「やあ、アナスタシア。今日も君は綺麗だね。今夜は、エスコートできなくて、すまなかったね。」
殿下は、腕にシャルロット嬢を伴い呑気に言った。
全身を駆け巡る血が逆流するような感覚。それでも、私は微笑みを崩さない。
――いつか必ず、この努力を見つけてくれる人がいる。そう信じて、私は婚約者として夜会全体に心を巡らせた。
「ごきげんよう、エドワード王太子殿下。お気遣いありがとうございます。」
これ以上、何を言えばよかったのか。
私にはもう分からなかった。
「シャルロットには、初めての王宮の夜会だから、ひどく不安がってね。君は慣れているから大丈夫だろう。」
大丈夫。慣れている。
……何に?
置き去りにされることに?
声は出ない。
出したところで、きっと何も変わらない。
「アナスタシア様、こんばんは。エドワード様をお借りしてしまい、ごめんなさい。」
シャルロット嬢が、当たり前のように殿下の名を口にする。
その瞬間、周囲の空気が波立った。
「フレイ男爵令嬢は、殿下を名前呼び……?」
「殿下はシャルロット嬢を選ばれたのよ……」
「揃いの衣装をお召しになっているわ……!」
噂は、さざなみのように周囲へ広がっていく。
兄サミュエルが痛ましげに私を見つめる。でも──私から何も言えなかった。
「両陛下のご入場!」
近衛騎士の声が響きわたる。
フィリップ陛下は穏やかに微笑み、マグノリア王妃は、私たちを一瞥した。
その視線は、冷たく、鋭く、私の心を射抜く。
楽団が演奏を始める。
花のようなドレスが舞い踊る。
そして──殿下のファーストダンスの相手は、やはりシャルロット嬢だった。
胸が潰れそうだった。
涙は出なかった。
ただ、苦しく、惨めで、情けなくて。
壇上の王妃と目が合った。
その微笑みの裏に潜む言葉が、脳裏で蘇る。
「公爵令嬢ともあろうものが、男爵令嬢ごときに出し抜かれるとは情けない!」
「あなたに魅力が足りないから、エドワードが他を見るのですよ!」
「努力が足りないのではなくて?もっと学びなさい!」
努力。もっと努力。まだ足りないの?
……私は、どれほど頑張れば、認められるのだろう。
王宮の光の中で、私はひとり、灰色の影のように立ち尽くしていた。
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