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恋人とのお茶会
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「やあ、アナスタシア。よく来てくれたね。今日は、君と僕と、それからシャルロットの三人で、今後のことを話そうと思ってね。」
エドワードは、まるで恋人を気遣うようにシャルロットへ視線を向け、「安心して」と柔らかく笑った。
「シャルロットは妊娠初期でね。初めての妊娠だから、不安定なんだ。アナスタシアも気を配ってやってくれ。」
——なぜ私が、婚約者の“恋の相手”の体調まで気遣わねばならないのか。
腹の奥で、静かに嫌悪が泡立つ。
「アナスタシア様……ごめんなさいね。わたし、先にエドの赤ちゃんを授かっちゃって……。エドが、その……ほら、あんまりにも……だから、その……ね。できちゃって……。」
薄ら寒いほど無自覚な羞恥のなさ。
無能ゆえの図々しさに、背筋にゾワリと嫌悪が走る。
——この女は、本当にここまで愚かだっただろうか。
“たかが庶子の男爵令嬢”に蔑まれる屈辱に、握った拳が震える。
ガツガツと下品に音を立ててデザートを食べる姿は、貴族令嬢ではない。が、どうやら呆れているのはアナスタシアだけではなさそうだ...... 周囲の護衛・女官・侍女たちの冷めた眼差し。...... これは、使える。
「まあ...... 。どうぞお気になさらないでくださいませ。殿下のお子は、ローザリア王国にとっても大切な後継者ですもの。シャルロット様が、無事にご出産されることを願っておりますわ。」
完璧な笑顔。
完璧な声音。
完璧な未来の王太子妃としての仮面。
何ひとつ、心は込めない。
「ああ、アナスタシア……君はなんて素敵なんだ!やはりこの国の未来を託せるのは、君との子だろうね。」
エドワードの無神経な言葉が落ちるや否や、シャルロットの表情が、醜く歪んだ。
「ひどいっ! エドは、わたしよりアナスタシア様が好きなの? あんな高慢で、人形みたいな女より、わたしの方が好きって言ってたじゃない! エドったら!!」
みっともなく喚き散らす声が、贅を凝らした応接室に反響する。
エドワードは、その下品さに露骨に眉をひそめた。
——ほら、見なさい。あなたが選んだ“愛しのシャルロット”の本性よ。
「まあ、妊娠中のシャルロット様を不安にさせてしまいましたわね。わたくしの配慮が足りませんでした。どうか落ち着いてくださいませ。」
アナスタシアは、慈母のような微笑みを浮かべ、そっとシャルロットへ声をかける。
そのやさしさが、シャルロットをさらに追い詰め、エドワードをさらに惹きつける。
計算された、完璧な“善意の刃”。
「アナスタシア……君は本当に……なんて素晴らしい女性なんだ。」
エドワードは、いつの間にかアナスタシアの手を取っていた。
その瞳には、憧憬とも渇望ともつかぬ光が宿る。
美男と美女——王太子と未来の王太子妃。絵画のように優雅な二人が見つめ合う姿に、シャルロットは耐えられなくなった。
「いやあぁっ! エドはわたしのものよ! わたしの……赤ちゃんの、お父さんなのよ!!」
悲鳴のような叫び。泣き喚く姿は、もはや滑稽でしかない。
アナスタシアは、ただ静かに微笑む。
——すべては、わたくしの思惑通り。
相手の愚かさを利用し、相手の醜さを暴き、相手の感情を爆発させ、“完璧な未来の王太子妃”としての地位を揺るぎないものにする。
漆黒の世界で、唯一色をまとっているように見えるのは——アナスタシアだけだった。
つづく
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エドワードは、まるで恋人を気遣うようにシャルロットへ視線を向け、「安心して」と柔らかく笑った。
「シャルロットは妊娠初期でね。初めての妊娠だから、不安定なんだ。アナスタシアも気を配ってやってくれ。」
——なぜ私が、婚約者の“恋の相手”の体調まで気遣わねばならないのか。
腹の奥で、静かに嫌悪が泡立つ。
「アナスタシア様……ごめんなさいね。わたし、先にエドの赤ちゃんを授かっちゃって……。エドが、その……ほら、あんまりにも……だから、その……ね。できちゃって……。」
薄ら寒いほど無自覚な羞恥のなさ。
無能ゆえの図々しさに、背筋にゾワリと嫌悪が走る。
——この女は、本当にここまで愚かだっただろうか。
“たかが庶子の男爵令嬢”に蔑まれる屈辱に、握った拳が震える。
ガツガツと下品に音を立ててデザートを食べる姿は、貴族令嬢ではない。が、どうやら呆れているのはアナスタシアだけではなさそうだ...... 周囲の護衛・女官・侍女たちの冷めた眼差し。...... これは、使える。
「まあ...... 。どうぞお気になさらないでくださいませ。殿下のお子は、ローザリア王国にとっても大切な後継者ですもの。シャルロット様が、無事にご出産されることを願っておりますわ。」
完璧な笑顔。
完璧な声音。
完璧な未来の王太子妃としての仮面。
何ひとつ、心は込めない。
「ああ、アナスタシア……君はなんて素敵なんだ!やはりこの国の未来を託せるのは、君との子だろうね。」
エドワードの無神経な言葉が落ちるや否や、シャルロットの表情が、醜く歪んだ。
「ひどいっ! エドは、わたしよりアナスタシア様が好きなの? あんな高慢で、人形みたいな女より、わたしの方が好きって言ってたじゃない! エドったら!!」
みっともなく喚き散らす声が、贅を凝らした応接室に反響する。
エドワードは、その下品さに露骨に眉をひそめた。
——ほら、見なさい。あなたが選んだ“愛しのシャルロット”の本性よ。
「まあ、妊娠中のシャルロット様を不安にさせてしまいましたわね。わたくしの配慮が足りませんでした。どうか落ち着いてくださいませ。」
アナスタシアは、慈母のような微笑みを浮かべ、そっとシャルロットへ声をかける。
そのやさしさが、シャルロットをさらに追い詰め、エドワードをさらに惹きつける。
計算された、完璧な“善意の刃”。
「アナスタシア……君は本当に……なんて素晴らしい女性なんだ。」
エドワードは、いつの間にかアナスタシアの手を取っていた。
その瞳には、憧憬とも渇望ともつかぬ光が宿る。
美男と美女——王太子と未来の王太子妃。絵画のように優雅な二人が見つめ合う姿に、シャルロットは耐えられなくなった。
「いやあぁっ! エドはわたしのものよ! わたしの……赤ちゃんの、お父さんなのよ!!」
悲鳴のような叫び。泣き喚く姿は、もはや滑稽でしかない。
アナスタシアは、ただ静かに微笑む。
——すべては、わたくしの思惑通り。
相手の愚かさを利用し、相手の醜さを暴き、相手の感情を爆発させ、“完璧な未来の王太子妃”としての地位を揺るぎないものにする。
漆黒の世界で、唯一色をまとっているように見えるのは——アナスタシアだけだった。
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