【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

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ついに婚約破棄

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「本日の議題は、ヴェルデン公爵家より申し出のありました、“王家との婚約破棄”を認めるべきか否かについてです。」

 王宮の閣議では、難しい表情を浮かべた閣僚たちが、張り詰めた空気の中で静かに議論を交わしていた。

「なにやらご体調を崩され、快復も思わしくないと伺っております……。」

「ふむ……それでは、後継者を儲けることも難しいということか。」

「しかし、ローゼンタール王が黙ってはいまい……恐ろしいことになるだろう。」

 エドワード王太子の不貞による王家の過ちは明白である。さらに公にはできぬ事実だが、王妃による毒殺未遂も絡む。
 ヴェルデン公爵家には、多額の慰謝料の支払いが発生する見込みだ。

「それでは、採決をとります!」

 各議員が厳しい表情で口元を引き結ぶ。

 結果は全会一致。
 エドワード王太子とアナスタシア公爵令嬢の婚約は、正式に破棄されることとなった。

 閣議を見守っていた現ヴェルデン公爵のサミュエルは、安堵のあまり大きく息を吐いた。

(ライナス、よかったな……後は、お前次第だ。)




 閣議の決定は、離宮のエドワードのもとにも報告された。

「……そうか。わかった。ありがとう。」

 エドワード王太子は、悟りきったような穏やかな表情で返事をした。

(僕は廃嫡となるだろう……だが、僕とシャルロットは、これからどうなるのだろうか。)

 静かに眠るシャルロットを見つめる。なぜか心は凪のように落ち着いていた。

 近く、第二王子シリルが立太子するだろう。後ろ盾も風格も優秀さも問題ない。側妃セザンヌ様が正妃となり、本来のあるべき姿に戻った感がある。

(僕の人生は、いったい何だったのだろう……。母上、僕は、父上に望まれて生まれた子だったのでしょうか……。)

 エドワードは、そっとシャルロットの腹に手を添える。

(君は、愛されて生まれておいで。温かい家族を、これから一緒に築こう。)

◇◇◇

「そうですか……。やっと、というべきでしょうか。シャルロット様にお子ができた時点で、婚約破棄は決まっていたようなものですけれど。」

 病床のアナスタシアは、寂しげに目を伏せて呟いた。
 その表情は淡々としているのに、声の奥底には微かな痛みが宿っている。

 傍らで妹を見守っていたサミュエルは、アナスタシアがまだエドワードに向ける思いを完全には断ち切れていないことを察し、気遣わしげに視線を向けた。

 そこで、場の空気などお構いなしに、ライナスの声が元気よく割り込んできた。

「アナスタシア。これでお前は自由だ。……俺と一緒にローゼンタールへ来い。」

 ライナスが、緊張で喉を鳴らしながら、まっすぐアナスタシアを見つめる。

(ライナス!早い、早すぎる!おい、お前、デリカシーという言葉を知らないのか!?)

「アナスタシア! 俺は……俺は、お前が好きだ! 初めて会った時から、ずっとだ!
 俺の初恋なんだ……どうか、俺の手を取ってくれ!」

(……ライナス。お前、“完璧公爵令息様”じゃなかったのか? ただの恋愛初心者の脳筋じゃないか……はあ。)

 アナスタシアはわずかに肩を震わせ、そっと視線を落とした。

「……ライナス。今は、まだ……考えられないわ。ごめんなさい。」
 その囁きは弱々しくも、真摯だった。

 ライナスはそっと拳を握りしめ、サミュエルは気づかぬふりをしながらも、わずかに眉を曇らせた。

 兄としてアナスタシアを案じ、幼馴染としてライナスの想いを受け止める──そのどちらも抱えた、複雑な表情だった。

◇◇◇

 エドワード王太子殿下が、アナスタシアの面会に訪れた。
 同行したのは最小限の護衛と侍従だけ。非公式の静かな訪問だった。

 アナスタシアは病み上がりゆえ、簡素な身なりで応じた。背後には、護衛の顔をしたライナスが控えている。

「やあ、アナスタシア。体調はどうかな?……今回の一件、母マグノリア王妃のしでかした罪について、心から謝りたい。本当に……すまなかった。」

 エドワードは、王族の身でありながら深く頭を下げた。その姿には、かつてアナスタシアが出会った当時の実直さが重なる。

「エドワード殿下。王妃殿下の罪は、あなたの責任ではございません。どうか、お顔をお上げください。」

 しかし、エドワードは頭を下げたまま、絞り出すように言った。

「いや……どんな理由があろうとも、君を傷つけた事実は消えない。それに、婚約者である君を裏切った僕自身も同罪だ……。本当に、すまなかった。」

 その瞬間、後ろに控えるライナスから冷気のような怒気が放たれた。
 アナスタシアはギョッとして振り返る。

(ちょっと! 大国ローゼンタールの名門公爵家の嫡男が、本気の怒りの圧を出さないで!)

 アナスタシアの無言の抗議に、ライナスは目も合わせず、ただ静かに怒気を収めた。

「エドワード殿下、謝罪はしっかりと受け取りました。……どうか、本当に、お顔をお上げください。」

 ゆっくりと顔を上げたエドワードは、まっすぐアナスタシアを見て続けた。

「長年の婚約者だった君に、“恋がしたい”なんて軽率なことを言ったのも……本当に申し訳なかった。合わせて謝罪させてほしい。」

 今のエドワードには、諦めでも虚勢でもない、自然に力の抜けた静けさがあった。
 もしも昔、この関係性を築けていたら――そう思わずにはいられない。

「エドワード殿下は、これからどうされるのですか?」 問いは自然に口をついて出た。

「まだ正式な通達はないが……おそらく、シャルロットとの子に“王位継承権放棄”を誓約した後、二度と子を儲けぬよう断種。そして、フレイ男爵家に婿入りとなるだろう。」

 エドワードは淡々と告げた。
 まるで、長い重荷を降ろした後のように静かだった。

 微笑むでもなく、泣くでもなく。アナスタシアはただ一礼し、言葉を返す。

「どうか……幸せに、おなりくださいませ。殿下。」 アナスタシアの声がわずかに震える。

 泣いてはいない。
 泣いてはいないけれど――エドワードだけが気づく。

(……ああ、僕は……君の涙を見る資格すら、失ったんだね)

 謝罪を終えたエドワードは、王城へと戻っていく。
 いずれ自分とは縁の切れる、高貴なる場所へ。

 走る馬車から流れる車窓の街並みを眺めながら、エドワードは思う__。

「……アナスタシア。
 君と……恋をすれば、よかったね。」

つづく

_________________________

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