【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

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それぞれの選択、それぞれの願い

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 アナスタシアは、王宮へと出向いていた。
 王フィリップと正妃セザンヌ、そしてシリル王太子からの晩餐への招待である。

 晩餐の間の卓上には、四人分の席が整えられていた。アナスタシアは最初に到着し、王族を迎えるため、入口脇へと下がって待機する。

 やがて両陛下とシリル王太子が入室し、アナスタシアはカーテシーで礼をとった。その彼女に、温かな声がかけられる。

「やあ、よく来てくれたね。王太子妃の申し出を受けてくれて感謝している。これからは、シリルの治世を支えてやってほしい」

「アナスタシア、あなたが婚約者になってくれて、これほど心強いことはないわ。どうか、シリルをお願いね」

 公務を離れた“親”としての言葉に、アナスタシアは恭しく礼で応えた。
 
 その後、席へと案内され、晩餐が始まる。

 食事の最中、アナスタシアの脳裏には、かつてエドワードが王太子であった頃の記憶が、浮かんでは消えていった。
 当時は、マグノリア王妃の権力が強かった。この一年半で、あまりにも多くのことが起きた。そして、これからも、きっと――。

 得体の知れぬ不安が、胸の奥で静かに蠢いていた。

 晩餐は和やかに進み、一時間半ほどでお開きとなった。その後、シリルに誘われ、アナスタシアは王宮内の彼の居室へと移動する。

「今日は本当にありがとう。一緒に食事ができて楽しかった。こうした時間が、これからずっと続くのだと思うと……嬉しいよ。アナスタシア、婚約を受けてくれて、ありがとう」

 真摯な言葉が、ゆっくりとアナスタシアの心に沁みていく。

「こちらこそ。少しでもお力になれるよう、励んでまいります。今後とも、よろしくお願いいたします」

 まだどこか硬さの残る、他人行儀なやりとり。二人は一瞬、視線を交わし――そして同時に、小さく笑った。

「昔のほうが、もっと気楽に話していた気がするんだけど……不思議だね。どうやって話していたのか、思い出せない」

「ふふ。そうですわね。以前は、すれ違いざまに、もっと気軽に声をかけてくださいましたわ」

 そう話すうちに、二人は自然と笑い合えるようになっていった。




 翌日、アナスタシアは公爵邸に、乳兄妹であるルース・ヨーク子爵令息を呼んだ。ジュリエットの今後について、相談するためである。

「ねえ、ルース。ジュリエット・アデル侯爵令嬢とは面識はあるかしら?学園では、あなたの一つ下なのだけれど」

 その言葉を受け、ルースの表情が、わずかに赤らんだ。

「……その反応。知っているのね。それだけじゃない……何か、あるでしょう?」

 図星を突かれ、ルースは明らかに動揺し、視線を逸らす。

「お願いがあるの。彼女は、王太子の婚約者候補を辞退したのだけれど、婚約者を探しているの。性格のいい、素敵な方はいないかしら?――爵位は、関係ないそうよ」

 最後の一言を聞いた瞬間、ルースの表情がはっきりと変わった。

「それ、本当に!?」

「ええ。本当よ。最悪の場合、貴族を除籍して市井に降りても構わないそう。ただし、お母様と一緒に暮らしたい、という条件はあるけれど」

「除籍!? そんな……あんなに素敵な淑女が市井で暮らすなんて、危険すぎる!」

「ねえ、ルース。もしかして……ジュリエット様のこと、気になっているの?」

 その一言で、ルースの顔は一気に真っ赤に染まった。

「そうなのね。へえ……ルースが……」

「おまえ、まるでお袋みたいだぞ! 十七歳だろ!?なんでそんなに落ち着いてるんだよ!」

「……そうね。たぶん、浮き立つような感情を、全部潰されてきたからかしら」

 ぽつりと呟いたアナスタシアの顔には、感情が浮かんでいなかった。それがかえって、彼女が普通の十代とは比べものにならない責任を背負って生きてきたことを、雄弁に物語っていた。

 ルースは言葉を失った。

「……ごめん。アナスタシアが、自由な時間もなく努力を強いられてきたって、知ってたのに……」

「ふふ。ルースは、相変わらず優しいわね。ありがとう。気にしないで」

 そして、真剣な表情で告げる。

「真面目な話よ。ジュリエット・アデル侯爵令嬢を婚約者にする意思はある?卒業後に婚姻を結び、市井で暮らすお母様を引き取ることも含めて」

「今すぐに約束はできない。でも……僕は、彼女と婚約したい。ヨーク子爵家に戻って、すぐ両親に話す。だから、それまで、他の人を紹介しないでほしい。頼む!」

 ルースの“男の顔”を見て、アナスタシアは微笑んだ。

「わかったわ。了承が得られたら、正式にアデル侯爵家へ申し込みましょう……それとも、ルースが直接、告白する?」

「そ、それは……アナスタシアから頼む! 褒めておいてくれよ!」

 二人は声を上げて笑い合った。それは、久しぶりに見せる――年相応の、少女らしいアナスタシアの笑顔だった。

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