【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

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慈愛の光と執着の気配

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 ルミナルア王国の改革が始まって三ヶ月。王都の喧騒を離れた北部の貧困村『エルダ』は、奇跡を目撃していた。

「――この種を、等間隔で。土に混ぜた肥料はローゼンタール直伝の配合ですわ」

 焼け付く太陽の下、泥にまみれることを厭わず、アナスタシアは自ら土を弄っていた。銀髪は簡素にまとめられ、アメジストの瞳は真剣に大地を見つめている。

 彼女が持ち込んだのは、母国ローザリアの関税撤廃によって安価に仕入れた緊急支援小麦、そして最新の農耕技術だった。

「お、お姉ちゃん、本当に芽が出るの?」

 一人の痩せた少女が恐る恐る尋ねると、アナスタシアは優しく微笑み、その頬を撫でた。

「ええ、必ず。わたくしが約束しますわ。この大地は、あなたたちを見捨てたりしません」

 その瞬間、雲の切れ間から射し込んだ一条の陽光が、彼女の銀髪を包み込み、まるで天上の光を宿したかのように煌めかせた。

「……銀紫の乙女様だ……」
「女神が……本当に、降りてきてくださった……!」

 誰かの震える声を合図に、民衆は次々と膝を折り、涙を流しながら感謝と祈りを捧げ始める。
理屈でも、演技でもない。ただ“そう見えてしまった”という事実が、彼らの心を支配していた。

 その光景はやがて、流浪の詩人たちによって語り継がれ、神話の一頁として後世に残されることになる。

 神々しいまでに気高いアナスタシアの姿を目前にした者たちは、理由も分からぬまま、鳥肌の立つような戦慄を覚えていた。

 バーナードでさえ、思わず膝を折り、祈りの形に手を合わせかける。
 神など信じたことのない宵闇の鴉のキャリーですら、その瞬間ばかりは――理屈では説明できない“何か”を、否応なく信じさせられていた。

 彼らにとって、豪華な王城に閉じこもる王族よりも、共に泥にまみれ、腹を満たしてくれるこの異国の令嬢こそが「真の主」であった。その熱狂的な支持は、瞬く間に「銀紫の革命」として国中に広まっていった。


 その夜、宿営地で休息を取るアナスタシアの元に、キャリーが封書を届けた。

「アナスタシア様、サミュエル様からです」

 懐かしい兄の筆致に、アナスタシアの心が解ける。

---------------------------

 アナスタシアへ

 お前にはいつも驚かされるよ。……リナリア王国の改革に尽力するとは、お前らしいのかもしれないね。

 ライナスから、「一年後には結婚するぞ」と連絡が届いたよ。あいつは子供の頃からお前一筋だ。安心して幸せになりなさい。

……ただ、くれぐれも気をつけておくれ。お前は、権力のある奴を惹きつけるからな。何かあれば遠慮せず連絡しなさい。フランシーヌも可愛い義妹を心配しているよ。

愛する妹へ。兄・サミュエル

---------------------------

 アナスタシアは思わず吹き出した。「一年後には結婚する」と勝手に宣言するライナスの、いかにも彼らしい傲岸さと執着に、胸の奥が熱くなる。

「ふふ ……本当に、ライナスは。わたくしの許可も取らずに」

 だが、その独占欲こそが、今の彼女にとって唯一の安らぎだった。


 農村での支持爆発を快く思わない女がいた。王太子妃カトリーヌである。

 数日後、王城で開かれた祝勝夜会。カトリーヌは、アナスタシアに『王家伝来の国宝』である首飾りを授与する名目で、彼女を控室に誘い出した。

「アナスタシア様、あなたの功績は素晴らしいわ。……でも、これほど価値のあるものを、平民上がりのような汚れた格好で歩く令嬢が持っていて良いのかしら?」

 カトリーヌが宝石箱を開けた瞬間、背後の侍女がわざとアナスタシアを突き飛ばした。床に散らばる大粒のサファイア。

「ああ! 王家の至宝を壊すなんて! これは国家反逆罪よ!」

 カトリーヌの勝ち誇った笑みが浮かぶ。衛兵たちが踏み込み、アナスタシアを拘束しようとしたその時――。

「――お待ちください」

 アナスタシアは悠然と立ち上がり、床に落ちた宝石の一つを拾い上げた。

「カトリーヌ様、素晴らしいお芝居ですわ。ですが……これ、偽物ですわね?」

「なっ、何を……!」

「わたくしはローザリアで宝石の鑑定も叩き込まれました。このサファイア、屈折率が甘すぎますわ。本物の国宝は、今頃どこにあるのかしら? もしかして……カトリーヌ様、ご実家の借金返済のために、本物を横流しなさいました?」

 アナスタシアのアメジストの瞳が、冷徹にカトリーヌを射抜く。

 実は「宵闇の鴉」の情報網により、カトリーヌの実家が多額の負債を抱え、王家の宝を偽物とすり替えて売却していた事実は把握済みだったのだ。

「証拠なら、こちらに」

 キャシーが影から現れ、売買記録の写しを提示した。

「そ、そんな……」

 顔面蒼白になるカトリーヌ。

「貧困に苦しむ民を思いやれないなど、為政者として失格ですわね。わたくし、愚かで無能な存在が大嫌いですの。――見るだけで虫唾が走りますわ」

 そこへ、騒ぎを聞きつけたエドワード王太子が駆けつけた。

「どうしたんだ、アナスタシア! ……何、カトリーヌ、君が宝を盗んだというのか!?」

「殿下、わたくしは……!」

 カトリーヌが縋り付こうとするが、エドワードはそれを冷たく振り払い、アナスタシアの手を取った。

「やはり君は完璧だ、アナスタシア! 悪事を見破り、国を救う。ああ、君を王太子妃として迎え直すべきかもしれない……!」

「いいえ、殿下。わたくしの役目は、この国の『淀み』を掃除すること。あとの処分は、法に則ってお進めください」

 アナスタシアは、崩れ落ちるカトリーヌに一瞥もくれず、背を向けた。


 公爵邸に戻ったアナスタシアは、深いため息をついた。

「……もう、嫌になりますわ。王太子殿下はさらに執着を強めるし、王太子妃は自滅する。わたくし、ただ静かに国を整えたいだけなのに」

 彼女は兄からの手紙をもう一度読み返し、ライナスの名前を指でなぞった。

「あの方を惹きつけるというお兄様の言葉……呪いか何かかしら。ライナス様、早くわたくしを連れ戻しに来て。……でないと、わたくし、この国を本当に乗っ取ってしまいそうですわ」

 銀紫の乙女の噂は、もはやルミナルアの国境を越え、周辺諸国へと響き渡ろうとしていた。
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🌹【愛を捨てます~夫は他の女を孕ませた~】
🌹【可哀想な令嬢?いいえ、私が選ぶ側です~悪役令嬢で上等よ~】
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