『結婚前に恋がしたいんだ』、婚約者は妹を選び私を捨てた

恋せよ恋

文字の大きさ
2 / 24

驚くべき申し出

  心臓が止まるかと思った。

 私は彼を愛していた。幼い頃に結ばれた政略結婚の相手ではあったけれど、のんびり屋で優しい彼との愛情を、私は大切に育んできたつもりだった。
 けれど、彼にとっての私は「結婚という決定事項」に過ぎず、「恋愛対象」ではなかったのだ。

『君のことは好きだよ、イザベル。でも、それは家族に対するような安心感なんだ。僕は、もっとこう……胸が締め付けられるような、情熱的な物語を知りたいんだ。一年だけ。卒業するまでの自由時間をくれないか?』

 嫌だ、と。
 どうして私と恋をしてくれないの、と。
 叫びたかった。泣いて縋りたかった。

 けれど、私は「優秀で物分かりの良い婚約者」を演じることに慣れすぎていた。ここで感情を剥き出しにすれば、彼に嫌われてしまう。彼を繋ぎ止めるには、その寛容さを認めるしかないと思い込んでしまったのだ。

 だから私は、血を吐くような思いで、微笑んで頷いた。

 いくつかの条件を提示して。

 ――  一年だけの関係であること。
 ――  婚約は解消しないこと。
 ――  定例のお茶会は継続すること。
 ――  そして、『』、『』、私に報告すること。

 今思えば、なんと愚かな条件だったのだろう。
 彼が他の女と語らい、見つめ合い、心を寄せていく過程を、私は特等席で聞かされることになったのだから。


「……先週末に会ったロレッタ嬢は、笑い声が少し品がなくてね」

「エメリア嬢はマナーがなっていないんだ。君の爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

「昨夜の夜会でエスコートしたジェシカ嬢はダンスが苦手でさあ」

 お茶会のたびに繰り返される、彼による「恋の品定め」。
 彼は私を信頼しきった顔で、次々とデートの感想を語った。私はそれに対し、胸が張り裂けそうな痛みを感じながらも、完璧な所作で紅茶を淹れ、完璧な相槌を打った。

 そしていつも、彼は最後には私を褒めた。
 「やっぱり君が一番落ち着くよ、イザベル」と。

 その言葉が、一年後には彼が私を選んでくれるという、毒のような希望になった。

 けれど、二学期が始まった頃。
 あれほど饒舌だった彼の「恋バナ」が、ぴたりと止まった。

 私は、彼が遊びに飽きたのだと思った。やっと私の元に帰ってくるのだと、安堵の溜息をついた。
 卒業後の結婚式に向けて、ウェディングドレスの刺繍を選び、招待客のリストを整理し、未来の幸福を疑わなかった。

 その、全てが。
 あの日の、妹メラニアの涙で、粉々に砕け散った。

『お姉様……ごめんなさい。私たち、本気で愛し合っているの』

 十五歳の妹。可愛らしく、世間知らずで、私が愛していた家族。
 彼女が差し出したリチャード様からの恋文には、私には一度も向けられたことのない、狂おしいほどの情熱が綴られていた。
 
 そして、リチャード様。
 彼は私に対し、申し訳なさそうな顔をしながらも、その瞳には強い光を宿して言った。

『ごめん、イザベル。これが、僕の探していた本当の「恋」だったんだ。メラニアなしでは、僕はもう生きていけない』
____________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

(完結)殿下との婚約は私には破棄できませんの。……どうしてもというなら、署名活動なさったら?

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ハル君を自由にしてあげて!」 「貴族の署名(サイン)が五十も集まれば、王家も無視できないでしょう。がんばってくださいませ」 生徒会室に突撃してきたローズは全く話を聞かない。行動力だけは異常で、妙なカリスマのある彼女。署名活動は成功するのだろうか?

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

愛人は貴族の嗜み?それなら私は天才王子の公妾になりますね

こじまき
恋愛
【全5話】 「愛人は貴族の嗜み」とのたまう婚約者に悩むエルミナ。婚約破棄もできず我慢を強いられる中、「魔法の天才」と名高い第二王子オルフェウスから「私の公妾にならないか」と提案される。 それは既婚者のみが使える一手。そして婚約者が酔いしれる「男のロマン」を完全に叩き潰す一手だった。「正妻にも愛人にも愛される俺」を気取っていたレオンは、天才王子と互いを選び合ったエルミナを前に、崩れ落ちる。 そしてエルミナは「天才王子の最愛」となるのだった。 ※「小説家になろう」にも投稿予定

旦那様は、義妹の味方をしたことを心から後悔されているみたいですね♪

睡蓮
恋愛
マリーナとの婚約関係を築いていたクルーゲル伯爵、しかし彼はマリーナにとって義妹にあたるリオーネラとの関係を深めてしまい、その果てに子どもを作ってしまう。伯爵はマリーナを捨ててリオーネラを正式な婚約者にするよう動こうとするものの、その行いこそが自分たちを破滅に導く第一歩となってしまうのだった…。

私を欠陥品と呼ぶ執事長が鬱陶しいので、侯爵夫人として排除することにしました

菖蒲月(あやめづき)
ファンタジー
「欠陥品に払う敬意など無い」 結婚後もそう言って嫌がらせを続けるのは、侯爵家の執事長。 どうやら私は、幼少期の病が原因で、未だに“子を産めない欠陥品”扱いされているらしい。 ……でも。 正式に侯爵夫人となった今、その態度は見過ごせませんわね。 証拠も揃ったことですし、そろそろ排除を始めましょうか。 静かに怒る有能侯爵夫人による、理性的ざまぁ短編。 ________________________________ こちらの作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……