「責任」から始まる結婚は、裏切りの予感〜遊び人副団長と女騎士 ~

恋せよ恋

文字の大きさ
13 / 25

幸せの鐘が鳴る朝

  その日の王都は、夜明け前からどこか浮き足立った空気に包まれていた。

 王都の象徴である大聖堂の周囲には、一目だけでも「英雄の結婚式」を拝もうと、数えきれないほどの市民が詰めかけていた。

 かつて「筋肉女」と蔑まれ、社交界の片隅で孤独に剣を振るっていた女騎士が、王国で最も美しく、最も危険な男、女たちの憧れる侯爵の妻になる。
 それは、平民たちにとっても一つの奇跡のように語り草となっていた。

 大聖堂の控え室で、セレフィーネは鏡の中に映る自分を見つめていた。

 パトリシアたちに「見ているだけで不愉快」と言わしめたそのドレス姿は、義母イザベルの執念とも言える仕立てによって、神々しいまでの気品を纏っていた。

 シルクの光沢が、鍛え抜かれた彼女の肩のラインを優雅に包み込み、胸元に散りばめられた無数の真珠が、日焼けした肌を真白に照らし出している。

「……本当にお綺麗ですわ、セレフィーネ様」

 傍らでベールを整えていたマーガレットが、自分のことのように涙を浮かべていた。彼女は今日、セレフィーネの付き添い人としてこの場にいた。

 マーガレットの手には、セレフィーネの兄・ケビンから預かったという小さな小箱が握られている。

「ケビン様が仰っていました。『妹は、剣を捨てたのではない。愛という新しい戦場へ、最高に格好良い鎧を纏って出陣するのだ』と」

「……お兄様らしいわね」

 セレフィーネは、微かに微笑んだ。その微笑みは、かつての刺々しさが消え、愛されることを知った女性特有の柔らかさを帯びていた。
 
 やがて、重厚な扉が開かれた。

 大聖堂の長いバージンロードの先、祭壇の前で待つユリウスの姿が見える。

 彼は白銀の礼装を纏い、まるで神話から抜け出してきた英雄のような神々しさを放っていた。セレフィーネがゆっくりと歩を進めるたびに、参列者たちからは溜息が漏れる。それは嘲笑でも蔑みでもなく、純粋な驚嘆だった。

 ユリウスの前に辿り着いたとき、彼は迷うことなくその大きな手を差し出した。厚い手袋越しでも伝わってくる、彼の熱。
 
「……綺麗だ、セレフィーネ。世界中の誰よりも」

 ユリウスの囁きは、聖歌隊の歌声よりも深く彼女の魂に響いた。

 神前での誓い。指輪の交換。

 ユリウスが彼女の薬指に指輪を嵌めた瞬間、セレフィーネは「ああ、これでもう、私は一人ではないのだ」という確信に満たされた。

 彼を守り、彼に守られる。それは戦場でのバディとしての関係を越えた、魂の契約だった。

 式が終わると、開放された大扉から降り注ぐ光の中、二人は観衆の祝福に包まれた。

 パトリシアたちが社交界から追放され、あの忌まわしい事件が過去のものとなった今、二人の前には輝かしい未来だけが広がっているはずだった。

 しかし、披露宴の宴もたけなわとなった頃、その「幸福の瞬間」を粉々に砕く音が響く。祝宴の広間に、鉄錆の匂いを纏った伝令が転がり込んできたのだ。

「緊急報告! 北部アルカディア国境地帯にて、封印されていた古代魔物の暴走を確認! 近隣の村々は壊滅、国境警備隊は壊滅的な打撃を受けております!」

 王務を兼ねて出席していた国王陛下が、眉間に深い皺を刻んだ。

 魔物の暴走。それは放置すれば王国全土を飲み込む災厄となる。

「ヴァルト次期侯爵、ユリウスよ。お前を『北部討伐隊』の総大将に任命する。……新婚の夜に酷な命令だが、この国を救えるのはお前しかいない」

 ユリウスは、隣に座るセレフィーネを見た。

 彼の瞳には、騎士としての使命感と、夫としての断腸の思いが激しく火花を散らしていた。

 セレフィーネは、彼の手を強く握った。

「……行ってください、ユリウス様。あなたは王国の剣。私が愛した、誇り高い騎士です」

 セレフィーネのその一言が、ユリウスを突き動かした。

 彼は立ち上がり、国王の前で深く膝をついた。

「拝命いたします。……明朝、出陣いたします」

 鳴り響いていた幸福の鐘は、いつの間にか、戦いの始まりを告げる弔鐘へとその音を変えていた。
________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

📢新連載🌹【婚約者が義妹とバックハグしながらお茶しています。生理的に無理なので婚約破棄します!】

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。 ※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱 ※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦 ジャスミン・リーフェント。二十歳。 歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、 分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。 モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。 そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。 それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。 「....婚約破棄、お受けいたします」 そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。 これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。 ※作品の無断転載、AI学習など一切を固くお断りいたします。(Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI)

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始