「親友だから分かってくれるよね?」と泣いた二人〜無自覚な善意で私を壊した〜

恋せよ恋

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剥がれ落ちるメッキ

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 リリアの実家からも門前払いを食らい、二人に残された道はもう、どこにもなかった。

 王都の街角で、かつては騎士と令嬢として輝いていた二人が、今やボロをまとった浮浪者のように肩を寄せ合っている。

「……カイル様、お腹が空いたわ。リリアがいつも焼いてくれた、あの香ばしいパイが食べたい……」
「ミーナ、我慢するんだ。僕たちの愛は、こんな空腹なんかに負けたりしないだろう?」
 カイルの声には、もはや以前のような力強さはなかった。

 彼は昨日、ついに騎士団を「懲戒免職」となったのだ。
 理由は、リリアからの告発状だった。そこには、カイルが公務中にミーナと密会していた記録や、リリアが肩代わりしていた公金紛いの接待費の証拠が、ぐうの音も出ないほど完璧に揃えられていた。

『カイル。君の言う「誠実」とは、職務を放り出して不倫に耽ることか?』
 グレイヴ閣下の冷徹な声が、今も耳にこびりついている。

「全部、リリアが悪いんだ……。あんなに僕たちを応援してくれているふりをして、裏では虎視眈々と僕たちを陥れる準備をしていたなんて。彼女こそ、悪魔だ」
 カイルは、自分がサボっていた事実を棚に上げ、リリアを「陰険な女」と決めつけることでしか、自分のプライドを保てなかった。

 一方、ミーナにも残酷な現実が突きつけられる。
「ミーナ・ラング。お前のようなふしだらな娘は、我が家の恥だ。リリア嬢の実家から請求された賠償金は、お前の廃嫡をもって相殺させてもらう」
 実家の父親から届いた絶縁状。それは、彼女が「貴族令嬢」という身分を失い、ただの「平民」になったことを意味していた。

「ひどいわ……! 家族なら、私がどんな過ちを犯しても、最後には『頑張ったね』って抱きしめてくれるのが普通でしょ!? どうして誰も彼も、お金や世間体ばかり気にするの!」
 ミーナは地べたに座り込み、子供のように泣きじゃくった。

 彼女たちの辞書には、「責任」という言葉がない。
 自分たちが何不自由なく「善人」でいられたのは、リリアが汚れ役を引き受け、金銭を工面し、泥を被っていたからだということに、失ってなお気づけないのだ。

「……そうだ、カイル様。辺境よ!」
 ミーナが不意に顔を上げた。

「辺境? リリアがいるあの北の地にかい?」
「ええ! 彼女、あそこで『頼みの綱』なんて呼ばれて、ちやほやされているらしいわ。きっと、私たちのことを悪く言って、自分だけ良い子ぶっているのよ。……会いに行きましょう。直接会って、私たちの悲惨な姿を見せれば、彼女だって罪悪感で目が覚めるはずだわ」

「そうか。リリアは本来、慈悲深い女だ。僕たちがこんなに痩せて、ボロボロになった姿を見れば、きっと『ごめんなさい、私が悪かったわ』と言って、また僕たちを養ってくれるに違いない」
 二人の瞳に、狂気じみた希望が灯る。
 彼らにとって、リリアは「自分たちを無条件で甘やかしてくれる便利な背景」でしかなかった。

 自分たちが彼女を捨てたことなど忘れたかのように、彼らはリリアの「善意」を搾取しに行く計画を立て始めたのだ。


 ――同じ頃。北の辺境領では、リリアがディラン様と共に、雪解けを見越した新しい農法の打ち合わせをしていた。

「リリア君。王都から報告が届いた。カイルとミーナが、路頭に迷っているらしいぞ」
 ディラン様が、窓の外を見つめながら静かに告げた。

「そうですか」
 リリアの返事は、短く、無関心だった。

「恨んではいないのか? あんなに酷い裏切りをされたのに」
「恨むほど、彼らに価値を感じていないことに気づいたんです。……閣下、私は今、とても幸せなんです。自分が成した仕事が、誰かの笑顔に変わる。それを正当に評価してくれる貴方がいる。……もう、あの方たちの『おままごと』に付き合う余裕はありません」
 リリアの表情は、冬の澄んだ空気のように清らかだった。

 かつてカイルやミーナが愛でていた「お人形のような優しさ」ではない。自らの足で立ち、自分の人生を愛する、強く気高い女性の美しさがそこにはあった。

「そうか。……なら、もし彼らがここに現れても、君が心を痛める必要はないな」
「ええ。その時は……私が彼らを『許した』理由を、はっきりと教えてあげます」

 リリアは、机の上に置かれた事務計画書に目を落とした。無自覚な善人たちが辿り着く「地獄」への門が、ゆっくりと開き始めていた。
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