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完璧な婚約者
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煌びやかなシャンデリアが夜会会場を黄金色に染め上げている。
十八歳になったばかりの私、エリカ・グロスナーにとって、この夜は人生の転換点となった。
「グロスナー伯爵令嬢。私と、一曲踊っていただけませんか」
目の前に差し出された大きな手。見上げれば、そこには深い瑠璃色の瞳があった。
リヒャルト・アシュベリー伯爵。二十七歳の彼は、社交界で「氷の紳士」と囁かれるほど硬派で、女性の影を感じさせない御方だった。
そんな彼が、ただの伯爵家の末娘である私を、熱い眼差しで見つめている。
「……喜んで、アシュベリー伯爵閣下」
彼の手を取った瞬間、指先から伝わる体温に心臓が跳ねた。
ダンスの最中、彼は私に耳元で囁いた。
「驚かれるかもしれませんが……。初めて貴女を拝見した時から、ずっと心に決めていました。私の妻になる方は、貴女以外にいないと」
それは、まるでお伽噺のような一目惚れの告白だった。
一ヶ月後、トントン拍子に話は進み、私たちは正式に婚約した。九歳も年上の彼は、驚くほど私を甘やかしてくれた。
「エリカ、今日はこのドレスが似合うと思って持ってきたんだ。……ああ、やはり。君の瞳の色によく映える」
邸を訪れるたびに贈られる、宝石や花束。
私の拙い話にも熱心に耳を傾け、愛おしそうに髪を撫でてくれる彼。
「リヒャルト様、あまり甘やかさないでください。私、わがままな女になってしまいそうです」
「いいんだ。君の望みなら、何だって叶えてあげたい。……私を信じてついてきてほしい」
彼の言葉に嘘はないと信じていた。
時折、彼が遠くを見つめて、ひどく悲しげな、あるいは何かを悔いるような表情を見せることもあったけれど。それは彼が病に倒れて領地で療養する兄の跡を継ぎ、伯爵家の重責を担っているからだと思っていた……。
幸せだった。
少なくとも、あの「家族の顔合わせ」の日が来るまでは。
顔合わせは、私の実家であるグロスナー伯爵邸のサロンで行われた。
私の父と母。そして現在三十九歳の母が十九歳で産んだ自慢の兄。円満な家庭を象徴するような場に、彼は少し緊張した面持ちで現れた。
「……リヒャルト様、ご紹介します。私の母の妹で、私の伯母にあたるミレイユです。今日は私たちのために駆けつけてくれたの」
私が笑顔で、後ろに控えていた伯母を紹介したその時。
サロンの空気が、凍りついた。
二十七歳。私と同じように金色の髪を持ち、職業夫人——ガヴァネスとして自立している美しい伯母。
彼女を見た瞬間、リヒャルト様の顔から血の気が引いた。
「……久しぶりね、リヒャルト。……いいえ、アシュベリー伯爵様」
伯母が、艶然と、けれどどこか棘のある笑みを浮かべて彼を呼んだ。
リヒャルト様の瑠璃色の瞳が、見たこともないほどに激しく揺れている。
「ミレイユ…… 嬢 ……!? なぜ、ここに……」
震える彼の声。
私に向ける甘い響きとは違う、執着と、拒絶と、消えない傷跡が混ざり合ったような響き。
私の愛する婚約者と、私の尊敬する伯母。
同い年の二人の間に流れる、部外者の入れないような濃密な沈黙に、私はただ、心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
______________
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十八歳になったばかりの私、エリカ・グロスナーにとって、この夜は人生の転換点となった。
「グロスナー伯爵令嬢。私と、一曲踊っていただけませんか」
目の前に差し出された大きな手。見上げれば、そこには深い瑠璃色の瞳があった。
リヒャルト・アシュベリー伯爵。二十七歳の彼は、社交界で「氷の紳士」と囁かれるほど硬派で、女性の影を感じさせない御方だった。
そんな彼が、ただの伯爵家の末娘である私を、熱い眼差しで見つめている。
「……喜んで、アシュベリー伯爵閣下」
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「驚かれるかもしれませんが……。初めて貴女を拝見した時から、ずっと心に決めていました。私の妻になる方は、貴女以外にいないと」
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「リヒャルト様、あまり甘やかさないでください。私、わがままな女になってしまいそうです」
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彼の言葉に嘘はないと信じていた。
時折、彼が遠くを見つめて、ひどく悲しげな、あるいは何かを悔いるような表情を見せることもあったけれど。それは彼が病に倒れて領地で療養する兄の跡を継ぎ、伯爵家の重責を担っているからだと思っていた……。
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少なくとも、あの「家族の顔合わせ」の日が来るまでは。
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私の愛する婚約者と、私の尊敬する伯母。
同い年の二人の間に流れる、部外者の入れないような濃密な沈黙に、私はただ、心臓の鼓動が早まるのを感じていた。
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