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隠し子の正体と、腹黒の罠
レオ君の出現は、単なるスキャンダルでは片付けられない、王国の根幹を揺るがす事態だった。
かつてこの国を統治した先代の国王、アルバート殿下の父王ではなく、さらにその一世代前、絶大な権力を誇った先々代の国王、アルバート殿下の祖父。彼が晩年、病床の身でありながらも異常なまでに寵愛し、側妃に迎え入れた若い子爵令嬢――それがレオ君の母、エレナ様だった。
彼女は懐妊が発覚した直後、何らかの思惑を持ったフォドワード侯爵家によって密かに連れ出され、死を偽装して隠匿された。
つまりレオ君は、アルバート殿下にとって「異母弟」ではなく、「若すぎる叔父」にあたる存在だったのである。
(……ちょっと待って。叔父様!? 十二歳の美少年が、二十歳そこそこのアルバート様の叔父上だなんて。血筋の正当性だけで言えば、現王家を脅かすには十分すぎる劇薬じゃないの!)
フォドワード侯爵家は、この「先々代の忘れ形見」を十二年もの間、秘密裏に育て上げてきた。彼らにとってレオ君は、単なる隠し子ではない。王太子であるアルバート殿下の即位に異を唱え、自分たちが王政のど真ん中に返り咲くための、最強の「正統なる後継者」という名の弾丸だったのだ。
「……母様は、僕が五歳の時に亡くなりました。それからずっと、フォドワード侯爵家の閣下たちは僕に、あらゆる帝王学と剣術を叩き込み、こう仰ったんです。『お前は先々代の大王閣下が、最後にこの国に遺した唯一の希望だ。冷酷な現王家から、民の笑顔を取り戻せ』と」
レオ君は、震える手でココアのカップを握りしめた。
彼にとっては、フォドワード家の人々こそが孤独な自分を救ってくれた「恩人」だった。十二年間、歪んだ憎しみと執念を「教育」という形で注ぎ込まれ、純粋な心を利用されてきたのだ。
(……なんてこと。これ、立派なお家騒動じゃないの!)
私はレオ君の細い肩を抱き寄せた。
この子は、十二年もかけて磨き上げられた「最隠し玉」として、ここに送り込まれた。……けれど、その瞳に宿っているのは、権力欲ではなく、ただの寂しさと「誰かに認められたい」という切実な願いだけだ。
「アリステア様……。僕は、アルバート殿下を倒さなきゃいけない。そうしないと、僕を支えてくれた人たちが……」
「……いいえ、レオ様。あなたは誰の道具でもありませんわ」
私は決意した。
フォドワード家の十二年の計略を、この場で私が粉砕してあげる。
レオ君を政治の道具から解放し、彼を「可愛い弟分」として全力で甘やかす。そうすれば、アルバート殿下だって「自分より血筋の古い叔父上が立派に育ったなら、僕は隠居してアリステアと芋を……」という流れに持っていけるはず!
……だが、その決意を見透かすように、背後の扉が静かに開いた。
「十二年。……その努力だけは褒めてあげよう。フォドワード侯爵も、随分と長く、そして果てしない夢を見たものだ」
アルバート殿下が、冷徹な覇者のような微笑を浮かべて立っていた。
「アルバート様……。フォドワード家の人たちは、十二年前からレオ様を……!」
「ああ。先の陛下が亡くなる直前、エレナ様を連れ出し、その血を今日まで温存させてきた。すべて把握しているよ。……彼らは、僕がこの十二年、あえてその『夢』を泳がせておいたことに気づいていなかったようだがね」
「……えっ?」
アルバート様はレオ君に歩み寄り、その頬に優しく手を添えた。けれど、その指先からは逃れられない圧迫感が放たれている。
「彼らがどれほどの軍備を整えようとも、僕の掌の上だ。……レオ。君を育てた者たちは、明日には全員、国家転覆の罪で処刑台に並ぶ。……君はどうする? 彼らと一緒に消えるか、それとも、僕の『可愛い叔父上』として、アリステアの隣で平穏に生きていくか」
「……っ!!」
レオ君が、絶望に目を見開く。
アルバート様は、十二年前からこの事態を予見し、フォドワード家が「先々代の血筋」を最高級の教育で磨き上げるのを「待って」いたのだ。
最も正当性のある「血のスペア」を、敵の手で完璧に仕上げさせたところで、根こそぎ奪い取る。
(……この男。十二年かけて、敵に自分の身内を教育させていたの!? 鬼……! 悪魔! 腹黒の化身だわ!!)
「さあ、アリステア。震えているレオを、優しく慰めてあげて。……彼がこの国で頼れるのは、もう、世界で僕・た・ちしかいないんだから」
アルバート様は、私とレオ君をまとめて抱きしめるように腕を回した。
フォドワード家の十二年の計略は、アルバート様のさらなる巨大な「罠」に飲み込まれ、私たちの逃げ場を完全に奪う「家族の鎖」へと変貌してしまったのである。
___________
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かつてこの国を統治した先代の国王、アルバート殿下の父王ではなく、さらにその一世代前、絶大な権力を誇った先々代の国王、アルバート殿下の祖父。彼が晩年、病床の身でありながらも異常なまでに寵愛し、側妃に迎え入れた若い子爵令嬢――それがレオ君の母、エレナ様だった。
彼女は懐妊が発覚した直後、何らかの思惑を持ったフォドワード侯爵家によって密かに連れ出され、死を偽装して隠匿された。
つまりレオ君は、アルバート殿下にとって「異母弟」ではなく、「若すぎる叔父」にあたる存在だったのである。
(……ちょっと待って。叔父様!? 十二歳の美少年が、二十歳そこそこのアルバート様の叔父上だなんて。血筋の正当性だけで言えば、現王家を脅かすには十分すぎる劇薬じゃないの!)
フォドワード侯爵家は、この「先々代の忘れ形見」を十二年もの間、秘密裏に育て上げてきた。彼らにとってレオ君は、単なる隠し子ではない。王太子であるアルバート殿下の即位に異を唱え、自分たちが王政のど真ん中に返り咲くための、最強の「正統なる後継者」という名の弾丸だったのだ。
「……母様は、僕が五歳の時に亡くなりました。それからずっと、フォドワード侯爵家の閣下たちは僕に、あらゆる帝王学と剣術を叩き込み、こう仰ったんです。『お前は先々代の大王閣下が、最後にこの国に遺した唯一の希望だ。冷酷な現王家から、民の笑顔を取り戻せ』と」
レオ君は、震える手でココアのカップを握りしめた。
彼にとっては、フォドワード家の人々こそが孤独な自分を救ってくれた「恩人」だった。十二年間、歪んだ憎しみと執念を「教育」という形で注ぎ込まれ、純粋な心を利用されてきたのだ。
(……なんてこと。これ、立派なお家騒動じゃないの!)
私はレオ君の細い肩を抱き寄せた。
この子は、十二年もかけて磨き上げられた「最隠し玉」として、ここに送り込まれた。……けれど、その瞳に宿っているのは、権力欲ではなく、ただの寂しさと「誰かに認められたい」という切実な願いだけだ。
「アリステア様……。僕は、アルバート殿下を倒さなきゃいけない。そうしないと、僕を支えてくれた人たちが……」
「……いいえ、レオ様。あなたは誰の道具でもありませんわ」
私は決意した。
フォドワード家の十二年の計略を、この場で私が粉砕してあげる。
レオ君を政治の道具から解放し、彼を「可愛い弟分」として全力で甘やかす。そうすれば、アルバート殿下だって「自分より血筋の古い叔父上が立派に育ったなら、僕は隠居してアリステアと芋を……」という流れに持っていけるはず!
……だが、その決意を見透かすように、背後の扉が静かに開いた。
「十二年。……その努力だけは褒めてあげよう。フォドワード侯爵も、随分と長く、そして果てしない夢を見たものだ」
アルバート殿下が、冷徹な覇者のような微笑を浮かべて立っていた。
「アルバート様……。フォドワード家の人たちは、十二年前からレオ様を……!」
「ああ。先の陛下が亡くなる直前、エレナ様を連れ出し、その血を今日まで温存させてきた。すべて把握しているよ。……彼らは、僕がこの十二年、あえてその『夢』を泳がせておいたことに気づいていなかったようだがね」
「……えっ?」
アルバート様はレオ君に歩み寄り、その頬に優しく手を添えた。けれど、その指先からは逃れられない圧迫感が放たれている。
「彼らがどれほどの軍備を整えようとも、僕の掌の上だ。……レオ。君を育てた者たちは、明日には全員、国家転覆の罪で処刑台に並ぶ。……君はどうする? 彼らと一緒に消えるか、それとも、僕の『可愛い叔父上』として、アリステアの隣で平穏に生きていくか」
「……っ!!」
レオ君が、絶望に目を見開く。
アルバート様は、十二年前からこの事態を予見し、フォドワード家が「先々代の血筋」を最高級の教育で磨き上げるのを「待って」いたのだ。
最も正当性のある「血のスペア」を、敵の手で完璧に仕上げさせたところで、根こそぎ奪い取る。
(……この男。十二年かけて、敵に自分の身内を教育させていたの!? 鬼……! 悪魔! 腹黒の化身だわ!!)
「さあ、アリステア。震えているレオを、優しく慰めてあげて。……彼がこの国で頼れるのは、もう、世界で僕・た・ちしかいないんだから」
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フォドワード家の十二年の計略は、アルバート様のさらなる巨大な「罠」に飲み込まれ、私たちの逃げ場を完全に奪う「家族の鎖」へと変貌してしまったのである。
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