【完結】目指せ、破談!お見合い決戦! 病弱白塗り令嬢 vs 感涙公爵令息

恋せよ恋

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お見合い決戦当日

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 お見合い当日。オルレアン伯爵邸の応接間は、異様な緊張感に包まれていた。
 ジュリエットは鏡の前に座り、侍女たちを下がらせて自ら「戦支度」を整えていた。
「よし……。これで誰が見ても、明日をも知れぬ薄幸の少女ね」

 彼女が施したのは、社交界の常識を覆す「死相メイク」だ。
 最高級のおしろいをこれでもかと塗りたくり、顔色を土気色を通り越して真っ白に。目の周りには薄く紫のシャドウを入れ、唇の赤みは完全に消した。

 着込んでいるのは、重厚で地味な灰色のドレス。さらに、顔を半分隠すほどの繊細なレースのベールを被る。
(完璧。こんな幽霊みたいな女、天下の公爵家嫡男が妻にしたいはずがないわ。きっと『お大事に』って引きつった顔で帰っていくに違いない!)

 一方、応接間で待つサミュエルは、期待と使命感で胸を高鳴らせていた。
 扉が開き、“病弱"演出用に用意した車椅子に揺られてジュリエットが登場する。

「……お初にお目に、かかります。ゴホッ、ゴホッ……。コルディア公爵令息、サミュエル様……ゴホッ……」
 消え入りそうな、蚊の鳴くような声。
 ジュリエットはベールの隙間から、サミュエルの反応を伺った。さあ、引くがいい。この不健康極まりない姿に絶望して、縁談を白紙に戻すがいい!

 だが。
「……ああ、なんということだ……!」
 サミュエルの目から、大粒の涙が溢れ出した。
 彼はガタリと椅子を蹴立てて立ち上がると、ジュリエットの前に膝をつき、その冷たい……演出で冷やしておいた手をそっと握りしめた。

「ジュリエット嬢……。君は、こんなにも苦しみながら、私のためにこうして姿を現してくれたのか。その肌、声……。君がどれほどの病魔と闘ってきたか、痛いほど伝わってくる!」

(えっ、そっち!? 嫌がってないの!?)
 ジュリエットは困惑した。サミュエルの瞳には、恐怖も嫌悪感もなく、ただ純粋で圧倒的な「慈愛」が満ち満ちていた。

「案ずるな。もう一人で耐える必要はない。私が君の光になろう。最高の医師、最高の魔導具、そして私の全霊をもって、君を必ず健康な体にしてみせる!」
「い、いえ、あの……公爵令息様。私は本当に……先が長くないので……。お見合いなど、時間の無駄かと……」

「無駄なはずがあるか! 君との時間は、一分一秒が宝石よりも尊い!」
 サミュエルは熱く語り出した。あの湖で語った「命の尊厳」についての講釈が、第二ラウンドとして幕を開ける。
 彼はジュリエットの手を握ったまま、いかに彼女が美しく、いかに守るべき存在であるかを、詩的な表現で延々と褒めちぎり始めた。

「君の瞳は、絶望の淵にありながらも、気高く澄んでいる。……そうだ、あの日、湖のほとりで出会った女神のように……」
 その言葉に、ジュリエットの心臓が跳ねた。
(やっぱり、気づいてるの!? それとも単なる偶然!?)

 あまりの熱量に、ジュリエットは頭がクラクラしてきた。
 この男、真面目すぎて「自分の見たいもの」しか見ていない。彼女がどれだけ「病弱」を演じても、彼はそれを「守るべき理由」に変換してしまうのだ。

「さあ、まずは環境を変えよう。我が公爵領は空気が良く、療養には最適だ。結婚の準備を急がせよう。式は君の体調を最優先にし、寝たままでも行えるよう手配する!」
「待ってください! 寝たまま結婚式って何ですか!? 斬新すぎます!」
 思わず素の声で、元気いっぱい返事をしてしまい、ジュリエットは慌てて口を押さえた。

 しかし、サミュエルはそれさえもポジティブに捉える。
「……今の、魂の叫びのような力強い声! 素晴らしい。君の奥底には、まだ生きようとする強いエネルギーが眠っているようだ。確信した。君を救えるのは、私だけだ」

(ダメだ、この人……。何を言っても『救済』の方に解釈される……!)
 逃げ場を失ったジュリエットは、この時ようやく理解した。
 サミュエル・コルディアは、一度決めたら岩をも通す「超絶お節介な聖人」なのだということを。

 お見合いが終わる頃、サミュエルは満足げな表情で立ち上がり、最後にジュリエットの耳元で囁いた。
「またすぐに会いに来る。……次は、君の好きな野苺を持ってこよう」

 サミュエルが去った後、ジュリエットは真っ白な顔のまま、がっくりと項垂れた。
「……なんで、私が野苺好きなことまで知ってるのよ……ストーカーなの!? 聖人なの!? どっちなのー!!」

 窓の外では、サミュエルが晴れやかな顔で馬に跨り、夕日に向かって颯爽と駆けていく。
 こうして、ジュリエットの「穏やかなお転婆ライフ」は、猛烈な勢いで「公爵夫人の座」へと押し流され始めたのであった。
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